負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

海上に目指す島はけっしてたどりつけない場所である

2005年03月28日 | 詞花日暦
私たちは、点としての島に
めぐりあうことができない
――有田忠郎(詩人)

 島という存在は、いつもふしぎな思いをさせないだろうか? 海によって隔てられているだけなのに、人々にとって奇妙な経験と感慨をもたらさないだろうか。
「島について」という散文詩を書いた詩人がいた。彼によると、旅人は「広大な空間に打たれた微小な点」に似ている島に近づき、いったん上陸するが、そこにはすでに点としての島はない。島はどこで始まり、どこで終わるかわからないという。島に住む漁民はどうか。狭い路地から直ぐに海へ開ける空間は、「塩と砂と風の王国」に委ねられ、彼らの祈りを誘っているように見える。旅人にも島の住人にも、たどり着くべきものはいつも海の彼方にしかないようだ。
 だから島を離れて帰路についた詩人は、ふたたび彼方に島の姿を認め、島の正体は「接近と遠ざかりしか許されぬもの、無限に遠い黄金郷なのだろうか」と書いた。詩人ならではの感興と思うだろうか。島とは本来そうしたのである。なにも島にかぎることはない。人々が求めてたどり着こうとするものは、けっして到達できない「黄金郷」なのだろう。