負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

老いはことばと知性を消し去る無残な仕打ちだった

2005年03月17日 | 詞花日暦
運命がすべてを奪おうとも、
この愛だけは永遠に奪われない
――リチャード・エア(舞台・映画監督)

 アイリス・マードックといっても、いまの若い読者にはなじみが薄い。イギリスの戦後を代表するこの作家は、『網の中』『鐘』などが一九六○年代の日本にも紹介された。それから三十数年後の一九九九年、彼女はアルツハイマー病で他界した。
 二○○三年に公開された映画『アイリス』は、彼女がヒロインになった作品である。晩年を『恋に落ちたシェークスピア』のジュディー・デンチが演じ、ドラマは記憶やことばを失っっていくアイリスとその悲惨な病状を見守る夫との激しい闘いである。
 夫君のジョン・ベイリーは、最近、翻訳された本で「アルツハイマーは、ひそかに忍び寄る霧のようにすべてを消し去る」と書いている。ことばと知性で成り立った栄光の日々が徐々に消えていく光景は、人の老いの無残さをひしひしと感じさせる。人と人の知性とはそれだけのものかもしれない。だが、夫君の愛は「永久に奪われない」とこの映画の脚本家は書いていた。それにしても最近は物忘れが多くなった。