読んだ人が魂のいやしを感じる、
詠み人しらずのような歌を歌ってゆきたい
――前登志夫(歌人)
近代文明の利器やビルに囲まれた都市生活に疲れると、決まって前登志夫の歌集を取り出す。大正十五年に生まれ、詩人として出発するが、歌人・前川佐美雄との出会いから歌作に入る。以来、林業に生きた父祖伝来の奈良県吉野郡の山中に住み、歌をつくりつづける。
周知のように、吉野は重畳とした山々と長い歴史に育まれた土地。深い森や谷や川には、南北朝以来の伝承が息づく。神や鬼や死者といった異形のものが跋扈し、木や花や水や風が騒ぐ。「わが額に嵌むべき星かみんなみの森の異形は暁に見つ」「かぎりなく蛍の湧けるわが谷に眠れるものぞ白馬ならむ」といった歌を読めば、よくわかるだろう。
日本人が古来、自然のなかに感じていたのは、のちに鳥獣虫魚や花鳥風月といわれる自然そのものなかに生きつづけ、息づくアニマ(精霊)であった。その姿を歌のなかに読み取るとき、おおくの日本人は近代合理主義が追放したものを見出し、魂が癒されるのを感じる。
詠み人しらずのような歌を歌ってゆきたい
――前登志夫(歌人)
近代文明の利器やビルに囲まれた都市生活に疲れると、決まって前登志夫の歌集を取り出す。大正十五年に生まれ、詩人として出発するが、歌人・前川佐美雄との出会いから歌作に入る。以来、林業に生きた父祖伝来の奈良県吉野郡の山中に住み、歌をつくりつづける。
周知のように、吉野は重畳とした山々と長い歴史に育まれた土地。深い森や谷や川には、南北朝以来の伝承が息づく。神や鬼や死者といった異形のものが跋扈し、木や花や水や風が騒ぐ。「わが額に嵌むべき星かみんなみの森の異形は暁に見つ」「かぎりなく蛍の湧けるわが谷に眠れるものぞ白馬ならむ」といった歌を読めば、よくわかるだろう。
日本人が古来、自然のなかに感じていたのは、のちに鳥獣虫魚や花鳥風月といわれる自然そのものなかに生きつづけ、息づくアニマ(精霊)であった。その姿を歌のなかに読み取るとき、おおくの日本人は近代合理主義が追放したものを見出し、魂が癒されるのを感じる。