菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

損害賠償の範囲(総説)

2011-07-19 00:00:00 | 債権法改正
第4 損害賠償の範囲
1.<総説>

・ 個人的には、かねてより、発生した損害の公平な分担を旨とする「損害賠償の法理」についての総則規定を設けてはどうかと考えていました。一部には「損害賠償とは、悪辣な加害者が悲惨な被害者に対して一方的に金銭支払をすること」といった偏頗的な理解が浸透しているため、特に”B to C”の賠償場面で無用な混乱を招いているようにも感じるからです。
・ 思うに、現行民法416条の現実に通常損害と特別損害の区別は難しく、結局のところ、債権者に予見可能性の主張・立証を求めるべきことが公平なものを「特別損害」と呼称していると理解しているところです。
・ また、裁判実務の集積で既に確立していると思われる(債務不履行に基づく)損害賠償請求の要件事実に即して、損害賠償の実務も検討すべきではないかと思います。すなわち、企業法務の立場から、(請求原因としての)①債務不履行の事実、②損害の発生と数額、③因果関係、(抗弁としての)④帰責性、を各々区別・整理して検討する必要があるのではないでしょうか。
・ たとえば、相当因果関係(③)を検討するに際して、予見可能性を持ち出すことは、少しく議論の混同を招くのではないかと感じます。あくまで私見ではありますが、予見可能性とは、本来、帰責性(④)の次元の問題であり、かつ、416条2項の特別損害の場合に、抗弁ではなく、請求原因のレベルで論ずるということなのではないでしょうか(大判T13.5.27等)。

 以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。