犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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私のギュンター・グラス

2015年04月19日 | よみものみもの
13日に、グラスが死んだ。
また、「戦後」がひとつ過ぎ去っていく。

グラスの一番有名な作品は、『ブリキの太鼓』だろう。
映画化されたのは、第三部まである、第一部だ。

主人公のオスカル坊やは、3歳の誕生日に、自ら成長することを止める。
と同時に、奇声を発するとガラスが割れる、という妙てけれんな能力を
身に付ける。
赤と白の鋸歯状に塗り分けられた、おもちゃの太鼓を叩いては、
ガラスを割る。

物語の舞台は第二次世界大戦開戦頃のダンツィヒであり、
1939年9月1日、市民がナチと戦った、
ポーランド郵便局事件が描かれている。

その後、主人公オスカルを含め、ドイツ国中がナチズムに流れていく様を、
批判的に書いている。



が、そのギュンター・グラスが、2006年に自叙伝的な作品である
『玉ねぎの皮をむきながら』で、ナチ親衛隊に所属していたことを
告白した。
衝撃が走った。
ドイツと、ドイツを取り巻くヨーロッパ社会と、私に。



私は、短期間でやめてしまったが、ちょっとの間、
大学でドイツ語を学んでいた。
そこに数人、ドイツ人の先生がいたが、そのうちの一人、
ハインツ・シュタインベルク先生は、1930年頃のダンツィヒの生まれだった。
まさにオスカルと同郷同世代である。



私がギュンター・グラスを知ったのは、ドイツ語科にすすんだこととは無関係だ。
1986年の秋に、神奈川県立美術館鎌倉別館で行われた、
グラスの版画展を見に行ったのだ。
たまたま美術部員の友達と鎌倉に行ったついでに寄っただけだった。

エッチングとは、銅板を鉄筆で傷付けて版を作る技法だ。
細い線の集まりになるので、なんとも神経質な感じの絵ができあがる。
繊細な線で描かれていたのは、
ウナギがワギナからくねり出ているとか、キノコの柄がヘノコになっているとかいった、
妙てけれんな絵の数々であった。
(グラスはドイツ人なので、そんな語呂合わせで描いたわけではないと
推測される。)
薄っぺたくて小さい、展覧会の図録を買って帰った。



そういえば、いつどこで買ったかすっかり忘れてしまったが、
私は、分厚くて大きい、版画集を持っている。
他にグラスはカタツムリなどを好んで画題にした。
いづれにしろ、なーんとなくいやーな感じに感覚に訴えてくる絵ばかりだ。

映画『ブリキの太鼓』でも、牛の頭を使ってウナギを獲るシーンがある。



ドイツと日本は、第二次世界大戦でイタリアとともに連合国であった。
先日、現首相は 「過去の総括は、和解をするための前提になっている。
和解の仕事があったからこそ、EUを作ることができた」などと発言したそうだ。
ドイツとて、ナチの暗い歴史を全て直視してこられただけではなかっただろう。
ヨーロッパという環境であり、EUという目的があったからこそ、
清算できてきた、という次第もあるのか。

グラスの死をきっかけに、その作品が再び読まれ、
それを通じて日本の戦後を省みることに繋がれば、と思う。

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