個人的評価: ■□□□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■、最悪:■□□□□□]
(注)
本記事では作品の結末まで書いています。リメイク版の本作の結末と、オリジナル版の結末の両方を書いています。
リメイク版はネタバレなんかしても差し支えないクソ映画ですが、オリジナル版は本当に素晴らしい名作ですのでオリジナル未鑑賞の方は観てから読まれることをお勧めします。
----
私は自分が代表を務める自主映画制作団体に「スタジオゆんふぁ」という名前をつけた。
ユンファが好きで中でも「男たちの挽歌」が好きだ。挽歌を撮ったジョン・ウーも好きだ。
そんな私にとってこのリメイク版「挽歌」は悪夢のようなデキだった・・・。
文句なしの最悪評価だが、「挽歌2」の主題歌のインストバージョンを劇中で2回ほどかけたことだけは挽歌ファンを喜ばせる演出だったと言っておこう。(にしてもなぜ2?)
しかしエンドロールのケミ何とかって奴らの歌ういかにもスポンサーのごり押しでねじ込まれた歌謡曲にまたイラッと来る。あいつらが「當年情」を歌うか、そのままレスリーの歌うバージョンをかけりゃいいのに。
「挽歌が好きだと腹立たしいところ多いんですねー、私は挽歌にそれほど思い入れがないので気になりませんよー、だいたいオリジナルってレスリー以外イケメンいないしそのレスリーも微妙だし、はげたおっさんと七三分けの劇団ひとりっぽい奴の映画より韓流イケメンの方が安心して見れます~」・・・とかいう人がもしいるなら、面白い映画とつまらない映画の区別もつかない残念な人というか、つまんない映画でも楽しめる幸せな人なのだろう。
わたしは愛する「挽歌」をぐちゃぐちゃにされた腹立たしさもあるが、そんなことよりも映画のデキの酷さに腹が立っている。
アクションの才能もサスペンスの才能もない監督が作ったカスのような作品。主犯は監督だが・・・しかしエグゼクティブ・プロデューサーとやらで名を連ねているあんた!名前だけの役職だろうけどクレジットされている以上あんたの責任も大だぞ!記者会見して頭下げろ!ジョン・ウー!!!
最初に言うが俳優たちはいい仕事していたと思う。ユンファ役のあいつのギラついた感は悪くないしティ・ロン役のあいつの優しさがにじみ出てくるような感じも良い。
問題なのは下手すぎる演出と、ありえない改悪のラストや変更に対応していないエピソード構成にある。
ほとんど致命的なのは演出である。
「挽歌」なのに退屈で眠気を催すってどういうこと!?逆に凄いよ!
オリジナルの挽歌におけるジョン・ウー演出はサスペンスが基本方針だった。対してリメイク版はサプライズを基本方針にしている。
オリジナルの名シーン、ユンファが1人で裏切り者たちに弾丸制裁を加える場面。
(1)女といちゃつきながら拳銃を花瓶にかくしていく
(2)スケベ顔から一転してクールな顔になる。
(3)二丁拳銃を大乱射。皆殺し完了。
(4)復讐の後の虚しさを感じさせる背中で店を出ようとするユンファ
(5)その背後に仕留めそこなった敵が(逃げりゃいいのに)這いつくばりながら無防備のユンファの背後を銃で狙う。
(6)ひびく銃声。足を撃ち抜かれ骨の砕ける音が響く
(7)倒れながらユンファは花瓶に隠しておいた銃を取り出す。
(8)すでに瀕死の敵に全弾撃ちこむ。
書いているだけで魂が熱くなる名場面だ。
これがリメイクでどうなったか。
簡単に言えば上記の(1)(2)(5)(7)を省いた場面になったのである。
最初から殺す気満々の顔。銃を隠すなどの伏線はなし。去っていく殺し屋の背後に忍び寄る敵を写すことなくいきなりバーン!(オリジナルにおける「ユンファー!後ろ!後ろ!」的ハラハラがない)。そして普通にもう一丁持っていた銃で反撃。淡々とした展開。
シノプシスに「殺し屋が1人で復讐に来て全員殺すが自分も足に重傷を負う」と書いてあるのを、監督が想像力を働かせずにそのままなぞっただけのようなシーン。
「挽歌」好きなら誰もが憧れたあのシーンをどう処理するかを楽しみにしていたら・・・嘘だろおい・・・創意工夫ゼロ。いっそまるまるパクればいいのにただ「流すだけ」という最悪の選択をした。
ついでに音楽もオリジナルは楽しげな中華歌謡→殺戮場面は音楽なし→殺戮終わりで重厚な曲・・・と緩急の付け方が良かったのに、リメイクは最初から最後までストリングス主体の悲壮感漂う曲が一本調子で鳴り続けて緩急もへったくれもない。
似たような改悪は他にもある。
オリジナルにおける「罠にはめられたレスリーが負傷するシーン」
組織の罠と知らず一人で取引現場に踏み込むレスリー。
忍び込むレスリーの姿と、待ち伏せていた殺し屋の姿を交互に写し、緊張感を高めに高めて銃撃を受けてレスリー倒れるショッキングな場面になる。(ついでに言えば映画のファーストシーンでティ・ロンが見るレスリーが撃たれて倒れる悪夢が否応なく脳裏によみがえって効果を高めている)
リメイクではどうなったか。
オリジナルのレスリーにあたる弟キャラは組織のボスを車で尾行する。ただただ尾行する。長い。何も起こらない。退屈で眠気すら催してきたころに突如現れた大型トラックが尾行する車を跳ね飛ばす。典型的な「びっくり箱オープン!」なサプライズ演出である。
この監督の実力からしてクロス・カッティングなど10年早そうだからそれをやらないのはいいだろう。だからといってこの演出は下の下だろ。この監督はいったい「挽歌」の何を観てきたのだ。
オリジナルでもあえてサスペンスではなくサプライズ演出を採用した場面もある。ユンファ絶命のシーンだ。
激しい銃撃戦の末、ラスボス(リー・チーホン)が倒れるショットまでちらと見せた上で、敵は全滅したに違いないと観客に信じ込ませる。戦い終わり、まだ兄を許せないレスリーを見てユンファが例の熱ーい調子でレスリーに説教をかます。カット割りはティ・ロンとレスリーとユンファそれぞれのクローズアップあるいはツーショットばかりになり、周囲の状況を意図的に隠して登場人物それぞれの心の葛藤に観客の意識がフォーカスされるようにしている。
そしてユンファがレスリーの顔を引き寄せ、カメラがずいっとユンファに寄ったところで「ズドーン!!」頭から血をあふれさせながらそれでもレスリーを一歩遠くに押しやるユンファ。続けてマシンガンの集中砲火を受けるユンファ。クールな顔でマシンガンを撃ちまくるリー・チーホン。目の前で友を失った衝撃と怒りを観客はティ・ロンやレスリーと共有できるように作られている。
こうして文章に書いてみると実に計算されたカッティングだったことがわかる。
なのにリメイクは・・・
こういうときに限ってバカの一つ覚えでサスペンス演出にする。
主役3人が絆について熱く語っている最中に、誰かが盗み見しているような手持ちカメラの全体ショットをわざわざ挿入する。今までそうすべきところでやってこなかったくせに!下手糞な挿入ショットのせいで主役3人の心情に向けていた意識は寸断され感情移入できない。
もちろんこの後オリジナルどおりにユンファ役のイケメンはマシンガンで蜂の巣になるのだが、それは予想通りの展開でしかない。
音楽もオリジナルはリー・チーホンがマシンガンを撃ち尽くしてユンファが崩れるところでようやくかかるのに対し、リメイクは頭に銃弾受けたところで即かかり始める。音楽センスも無い。
アクションシーンも変にリアル演出にしちゃって引きのショットが多く心が高揚しない。アクションの中で気持ちを高ぶらせ心を揺さぶったオリジナルのよさを捨てて、リメイクはアクションシーンにおいて「高みの見物」を決め込む。
もうほんとあちこち、バカバカバカと言いたくなる。
「演出をどうするか?Aプラン or Bプラン?」でことごとくダメな方を選択している。ある意味奇跡のような駄作。
それに輪をかけるのが、衝撃的なラストの改悪。
人間的にバカ、刑事として無能な弟がラストでついにキチガイになって自殺しましたという物語になってしまった。あのラストで何をどう感動しろっつーのか?
ではオリジナルの感動のラストをふりかえってみよう
ユンファ(友)が殺され怒りに燃えるティ・ロン(兄)とレスリー(弟)はリー・チーホン(悪)を追う。
ついに追い詰めたところでティ・ロンの銃の弾が尽きる。
パトカーのサイレンが聞こえる。
リー・チーホンは笑いながら「自首するよ。俺は金の力で三日後には釈放さ。金さえあれば黒も白になる。あんたの弟は哀れだな。あんたのお陰で白から黒へまっしぐらだ」などと言う。
レスリーは黙ってティ・ロンに自分の銃を渡して背を向ける。
ティ・ロンはその銃でリー・チーホンを撃つ。
ティ・ロンの投降を促す警察の拡声器の声が聞こえる。
ティ・ロンはレスリーの持っている手錠を取り上げて自分の腕にかけて言う
「お前は決して間違っていない。お前の道こそ正しい。俺だって早くお前と同じ道へ戻りたいんだ」
レスリーに引き立てられるようにして投降するティ・ロン。兄弟の背中でストップモーション。
劇中でさんざんかかったメインテーマに歌詞のついた主題歌「當年情」(唱:レスリー・チャン)がかかりクレジットロール。
書いてるだけで泣けてくる名シーンだったのに!
さらに作り手の正気を疑うのが、その最悪ラストの直前になって、兄弟の幼い日々の回想ショットを挟んでくるところだ。文字通りとってつけた場面。
ジョン・ウーなら絶対そんなことしない。彼の「ワイルド・ブリット」では映画冒頭シーンで友達同士(トニー・レオンとリー・チーホン)が仲良く自転車競走する場面を撮り、ラストシーンでその2人が殺し合いを繰り広げる壮絶なカーチェイス場面で冒頭の自転車競走シーンをフラッシュバックさせた。
韓国挽歌の監督もジョン・ウーをちゃんとリスペクトしていれば、兄弟の仲良しシーンを最初に持ってきたはずだ。そうすれば中盤の刑務所で兄がミサンガを切られる場面もより感動的になっただろう。冒頭に脱北シーンの回想入れるより全然効果的。ラスト直前にとってつけた回想シーンを挟むことが何がしかの効果を上げるとでも本気で思っていたのなら猛省してほしい。
つーかエグゼクティブ・プロデューサーのジョン・ウー、それくらい指摘して修正させろ!
ともかく久々に痛恨の駄作を見た思い。あんな無残な姿にされた「挽歌」を見るなんて悪夢でしかない。
口直しにDVDでホンモノの「挽歌」を見直したらやっぱり面白かった!!
********
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円

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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
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リメイク版はネタバレなんかしても差し支えないクソ映画ですが、オリジナル版は本当に素晴らしい名作ですのでオリジナル未鑑賞の方は観てから読まれることをお勧めします。
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私は自分が代表を務める自主映画制作団体に「スタジオゆんふぁ」という名前をつけた。
ユンファが好きで中でも「男たちの挽歌」が好きだ。挽歌を撮ったジョン・ウーも好きだ。
そんな私にとってこのリメイク版「挽歌」は悪夢のようなデキだった・・・。
文句なしの最悪評価だが、「挽歌2」の主題歌のインストバージョンを劇中で2回ほどかけたことだけは挽歌ファンを喜ばせる演出だったと言っておこう。(にしてもなぜ2?)
しかしエンドロールのケミ何とかって奴らの歌ういかにもスポンサーのごり押しでねじ込まれた歌謡曲にまたイラッと来る。あいつらが「當年情」を歌うか、そのままレスリーの歌うバージョンをかけりゃいいのに。
「挽歌が好きだと腹立たしいところ多いんですねー、私は挽歌にそれほど思い入れがないので気になりませんよー、だいたいオリジナルってレスリー以外イケメンいないしそのレスリーも微妙だし、はげたおっさんと七三分けの劇団ひとりっぽい奴の映画より韓流イケメンの方が安心して見れます~」・・・とかいう人がもしいるなら、面白い映画とつまらない映画の区別もつかない残念な人というか、つまんない映画でも楽しめる幸せな人なのだろう。
わたしは愛する「挽歌」をぐちゃぐちゃにされた腹立たしさもあるが、そんなことよりも映画のデキの酷さに腹が立っている。
アクションの才能もサスペンスの才能もない監督が作ったカスのような作品。主犯は監督だが・・・しかしエグゼクティブ・プロデューサーとやらで名を連ねているあんた!名前だけの役職だろうけどクレジットされている以上あんたの責任も大だぞ!記者会見して頭下げろ!ジョン・ウー!!!
最初に言うが俳優たちはいい仕事していたと思う。ユンファ役のあいつのギラついた感は悪くないしティ・ロン役のあいつの優しさがにじみ出てくるような感じも良い。
問題なのは下手すぎる演出と、ありえない改悪のラストや変更に対応していないエピソード構成にある。
ほとんど致命的なのは演出である。
「挽歌」なのに退屈で眠気を催すってどういうこと!?逆に凄いよ!
オリジナルの挽歌におけるジョン・ウー演出はサスペンスが基本方針だった。対してリメイク版はサプライズを基本方針にしている。
オリジナルの名シーン、ユンファが1人で裏切り者たちに弾丸制裁を加える場面。
(1)女といちゃつきながら拳銃を花瓶にかくしていく
(2)スケベ顔から一転してクールな顔になる。
(3)二丁拳銃を大乱射。皆殺し完了。
(4)復讐の後の虚しさを感じさせる背中で店を出ようとするユンファ
(5)その背後に仕留めそこなった敵が(逃げりゃいいのに)這いつくばりながら無防備のユンファの背後を銃で狙う。
(6)ひびく銃声。足を撃ち抜かれ骨の砕ける音が響く
(7)倒れながらユンファは花瓶に隠しておいた銃を取り出す。
(8)すでに瀕死の敵に全弾撃ちこむ。
書いているだけで魂が熱くなる名場面だ。
これがリメイクでどうなったか。
簡単に言えば上記の(1)(2)(5)(7)を省いた場面になったのである。
最初から殺す気満々の顔。銃を隠すなどの伏線はなし。去っていく殺し屋の背後に忍び寄る敵を写すことなくいきなりバーン!(オリジナルにおける「ユンファー!後ろ!後ろ!」的ハラハラがない)。そして普通にもう一丁持っていた銃で反撃。淡々とした展開。
シノプシスに「殺し屋が1人で復讐に来て全員殺すが自分も足に重傷を負う」と書いてあるのを、監督が想像力を働かせずにそのままなぞっただけのようなシーン。
「挽歌」好きなら誰もが憧れたあのシーンをどう処理するかを楽しみにしていたら・・・嘘だろおい・・・創意工夫ゼロ。いっそまるまるパクればいいのにただ「流すだけ」という最悪の選択をした。
ついでに音楽もオリジナルは楽しげな中華歌謡→殺戮場面は音楽なし→殺戮終わりで重厚な曲・・・と緩急の付け方が良かったのに、リメイクは最初から最後までストリングス主体の悲壮感漂う曲が一本調子で鳴り続けて緩急もへったくれもない。
似たような改悪は他にもある。
オリジナルにおける「罠にはめられたレスリーが負傷するシーン」
組織の罠と知らず一人で取引現場に踏み込むレスリー。
忍び込むレスリーの姿と、待ち伏せていた殺し屋の姿を交互に写し、緊張感を高めに高めて銃撃を受けてレスリー倒れるショッキングな場面になる。(ついでに言えば映画のファーストシーンでティ・ロンが見るレスリーが撃たれて倒れる悪夢が否応なく脳裏によみがえって効果を高めている)
リメイクではどうなったか。
オリジナルのレスリーにあたる弟キャラは組織のボスを車で尾行する。ただただ尾行する。長い。何も起こらない。退屈で眠気すら催してきたころに突如現れた大型トラックが尾行する車を跳ね飛ばす。典型的な「びっくり箱オープン!」なサプライズ演出である。
この監督の実力からしてクロス・カッティングなど10年早そうだからそれをやらないのはいいだろう。だからといってこの演出は下の下だろ。この監督はいったい「挽歌」の何を観てきたのだ。
オリジナルでもあえてサスペンスではなくサプライズ演出を採用した場面もある。ユンファ絶命のシーンだ。
激しい銃撃戦の末、ラスボス(リー・チーホン)が倒れるショットまでちらと見せた上で、敵は全滅したに違いないと観客に信じ込ませる。戦い終わり、まだ兄を許せないレスリーを見てユンファが例の熱ーい調子でレスリーに説教をかます。カット割りはティ・ロンとレスリーとユンファそれぞれのクローズアップあるいはツーショットばかりになり、周囲の状況を意図的に隠して登場人物それぞれの心の葛藤に観客の意識がフォーカスされるようにしている。
そしてユンファがレスリーの顔を引き寄せ、カメラがずいっとユンファに寄ったところで「ズドーン!!」頭から血をあふれさせながらそれでもレスリーを一歩遠くに押しやるユンファ。続けてマシンガンの集中砲火を受けるユンファ。クールな顔でマシンガンを撃ちまくるリー・チーホン。目の前で友を失った衝撃と怒りを観客はティ・ロンやレスリーと共有できるように作られている。
こうして文章に書いてみると実に計算されたカッティングだったことがわかる。
なのにリメイクは・・・
こういうときに限ってバカの一つ覚えでサスペンス演出にする。
主役3人が絆について熱く語っている最中に、誰かが盗み見しているような手持ちカメラの全体ショットをわざわざ挿入する。今までそうすべきところでやってこなかったくせに!下手糞な挿入ショットのせいで主役3人の心情に向けていた意識は寸断され感情移入できない。
もちろんこの後オリジナルどおりにユンファ役のイケメンはマシンガンで蜂の巣になるのだが、それは予想通りの展開でしかない。
音楽もオリジナルはリー・チーホンがマシンガンを撃ち尽くしてユンファが崩れるところでようやくかかるのに対し、リメイクは頭に銃弾受けたところで即かかり始める。音楽センスも無い。
アクションシーンも変にリアル演出にしちゃって引きのショットが多く心が高揚しない。アクションの中で気持ちを高ぶらせ心を揺さぶったオリジナルのよさを捨てて、リメイクはアクションシーンにおいて「高みの見物」を決め込む。
もうほんとあちこち、バカバカバカと言いたくなる。
「演出をどうするか?Aプラン or Bプラン?」でことごとくダメな方を選択している。ある意味奇跡のような駄作。
それに輪をかけるのが、衝撃的なラストの改悪。
人間的にバカ、刑事として無能な弟がラストでついにキチガイになって自殺しましたという物語になってしまった。あのラストで何をどう感動しろっつーのか?
ではオリジナルの感動のラストをふりかえってみよう
ユンファ(友)が殺され怒りに燃えるティ・ロン(兄)とレスリー(弟)はリー・チーホン(悪)を追う。
ついに追い詰めたところでティ・ロンの銃の弾が尽きる。
パトカーのサイレンが聞こえる。
リー・チーホンは笑いながら「自首するよ。俺は金の力で三日後には釈放さ。金さえあれば黒も白になる。あんたの弟は哀れだな。あんたのお陰で白から黒へまっしぐらだ」などと言う。
レスリーは黙ってティ・ロンに自分の銃を渡して背を向ける。
ティ・ロンはその銃でリー・チーホンを撃つ。
ティ・ロンの投降を促す警察の拡声器の声が聞こえる。
ティ・ロンはレスリーの持っている手錠を取り上げて自分の腕にかけて言う
「お前は決して間違っていない。お前の道こそ正しい。俺だって早くお前と同じ道へ戻りたいんだ」
レスリーに引き立てられるようにして投降するティ・ロン。兄弟の背中でストップモーション。
劇中でさんざんかかったメインテーマに歌詞のついた主題歌「當年情」(唱:レスリー・チャン)がかかりクレジットロール。
書いてるだけで泣けてくる名シーンだったのに!
さらに作り手の正気を疑うのが、その最悪ラストの直前になって、兄弟の幼い日々の回想ショットを挟んでくるところだ。文字通りとってつけた場面。
ジョン・ウーなら絶対そんなことしない。彼の「ワイルド・ブリット」では映画冒頭シーンで友達同士(トニー・レオンとリー・チーホン)が仲良く自転車競走する場面を撮り、ラストシーンでその2人が殺し合いを繰り広げる壮絶なカーチェイス場面で冒頭の自転車競走シーンをフラッシュバックさせた。
韓国挽歌の監督もジョン・ウーをちゃんとリスペクトしていれば、兄弟の仲良しシーンを最初に持ってきたはずだ。そうすれば中盤の刑務所で兄がミサンガを切られる場面もより感動的になっただろう。冒頭に脱北シーンの回想入れるより全然効果的。ラスト直前にとってつけた回想シーンを挟むことが何がしかの効果を上げるとでも本気で思っていたのなら猛省してほしい。
つーかエグゼクティブ・プロデューサーのジョン・ウー、それくらい指摘して修正させろ!
ともかく久々に痛恨の駄作を見た思い。あんな無残な姿にされた「挽歌」を見るなんて悪夢でしかない。
口直しにDVDでホンモノの「挽歌」を見直したらやっぱり面白かった!!
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ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円

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原作ファンの自分としては期待していただけに残念です。ウーさんはなぜこの映画をプロデュースしたんでしょうか。やっぱりリメイク作品は期待しちゃいけないのかな。