個人的評価: ■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■、最悪:■□□□□□]
山岳映像に全てのエネルギーを注ぎ込み、それ以外はできるだけ安く上げた感じの映画。山の映像は美しく、原作の様々なエピソードをうまくまとめた物語にじんわり泣けたりはするが、ドラマ演出が決定的に物足りない。
****
原作コミックスと映画のどちらが面白いかと言われたら、それはもちろんコミックスである。
とはいえ14巻ある原作の一つ一つのエピソードの積み重ねによって得られる感動と2時間にまとめなければならない映画を対等に比較する事はできない。
映画化において、原作では決して表現できない、映画だからこその要素かつ「岳」という作品の根幹をなす要素については、ばっちりと映像に刻み付けられている。
山の映像である。
雄大な穂高連峰の映像は映画館のスクリーンでこそ観る価値がある。
穂高岳(3190m)の北方に有名な槍ヶ岳(3180m)がある。日本のマッターホルンと称される岩山で、名前の通り槍の穂先の形をした山頂部は北アルプスを訪れる全ての人を魅了し、いつかあそこに登ってみたいと思わせる。
映画「岳」は主に穂高連峰を舞台とする。穂高のピークに立つ主人公島崎三歩(小栗旬)を写す時、あるいは穂高の稜線を写す時、カメラは北向きに設置され三歩ら被写体の背後に槍の穂先が映るように気を配っている。
ラストの頂上(前穂かな?北穂?)に立つ三歩(小栗旬)をとらえて、槍ヶ岳から笠ヶ岳へとパンする空撮映像は息をのむ美しさだ。
雪山での撮影は機材上げるのだけでも大変だっただろうし、スタッフ、キャストの皆さんの苦労が偲ばれる。
そうした山の絶景映像は映画ならではの楽しさであり、その意味で原作の感動を補完する作品になっている。
しかし、ドラマ部分で映画ならではの技巧や面白さが堪能できるかと言うとそうではない。
さっさと撮り上げたかったのか、話をなぞるだけの工夫のないカット割りが多い。
コミックスの場合はコマ割りによって登場人物の気持ちを表現しドラマを盛り上げる。
映画の場合はモンタージュによって心情や状況を表現しなくてはならないのに、そこができていない。
****
久美ちゃん(長澤まさみ)が崖から落ちた人を背負って降りようとするが突然ぶっ倒れる・・・というカット。
引きの構図で1カットで表現している。
ここだけ見ると久美ちゃんがよろけたようにしか見えない。
しかしその前の場面で三歩が、死体を背負うとすごく重いんだ、ということを言っていた。
どうも、「さっきまで息をしていた怪我人が久美ちゃんの背中で息絶えたので急に重くなった」ということを映像で表現しようとしたらしい。
それを長澤まさみちゃんの演技に全ておまかせで撮っているのだ。
ここは・・・
「だらりと下がるけが人の腕」(スロー)
「久美ちゃんの顔アップ」(スロー)
「あおりめの映像で久美ちゃんがつんのめるショット」(スロー)
・・・の3カットくらい間にはさまないと判らないのでは。
でもそうはせず、引きのワンショットで撮ってしまう演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:金と時間をあまりかけずに撮れる
・デメリット:伝えたい事が伝わらない
****
そして久美ちゃん滑落シーンの端折り具合・・・
原作でその基になったエピソード(コミックス3巻「第2歩 警告」)を読み返してみると久美ちゃんは1ページと半分、コマ数にして9コマかけて滑落している。
映画では固定ショットで歩く久美ちゃんが画面下方にフレームアウトして滑落したっぽい効果音がかぶさってフェードアウト。フェードインすると崖下で怪我している久美ちゃんのショット。
コミックス9コマに対して、映画は0カットで表現している。
この演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:伝えたい事を最低限の金と時間で表現できる
・デメリット:面白くない
もちろんまさみちゃん本人にジャッキーみたく断崖を転がり落ちてくれと言うわけではない。スタントマンでもCGでも、もう少し見せようのあるシーンだったと思うのに残念だ。
****
久美ちゃんが三歩にお父さんの録音テープを聞かせるくだりは、じっと座っているだけの二人の長回しのショットにテープの声がかぶさるだけ。正直退屈。
この場面の演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:伝えたい事を最低限の金と時間で表現できる
・デメリット:面白くない
お父さんの映像をインサートするのも有りだったかもしれないし、せめてもう少し動きを付けるとか、明け方くらいの設定に変えて朝日に照らされる山々の映像をはさむとか、退屈させない手段はあったと思う。
三歩がテープを聞く場面に、久美ちゃんがお父さんの葬儀で遺品のテープを聞くフラッシュバックを挟み込みながら描けば、映像に変化が出る上に、三歩と久美ちゃんがお父さんの声を共有したことを視覚的に表現できて一番いいんじゃないかと思う。なんにせよ例えば日本語を知らない外国人が見ても何かを感じ取れるような映像にすることが大事ではないかと思うのだが。
****
上記のつまらないと感じた場面にした理由が、「作り手の芸術上の野心のため」「観客サービスのため」「後の展開への伏線のため」などといったことではなく、単に制作上の都合以外に思い当たらないことが残念である。
長澤まさみちゃんの芝居はだいぶさまになってきたなあ・・・と思うだけに、こうした場面が残念だ。
****
佐々木蔵之介さんの原作とまったく異なる野田正人本部長の無駄な熱さが面白い。
オグシュンも予告編ではなんか違う感じがしてたけど実際に穂高の斜面を駆け抜ける映像や、のんきで空気読まない喋り方など、これはこれでいいような感じがしてきた。でも決め台詞「よく・・・・がんばった」の・・・・部分、いわゆるタメは要らないような気がする(のは個人的な感想)。
一番原作イメージに近いのは 市毛良枝さんの谷村山荘のおばちゃん。完璧。
****
そういえば劇中では三歩以外の人物がピークを踏んで喜ぶという場面がなかった。
三歩以外の人物が山の美しさに感動したり、ピークに立って喜んだりという場面が無いのは寂しい
三歩みたいな山に選ばれし者のみが頂上に立てる・・・と受け取られる恐れがあるのでは。
山は楽しいんです。美しいんです。危険はもちろんありますが、それをわきまえてリスクを色々減らす努力をして、「また・・・・山においでよ」(オグシュン三歩風)
よし、今年は俺も穂高と槍に行くぞ!!!!
[追記]
妄想ハリウッド版「岳」キャスティング
三歩・・・ジョニー・デップ (断られたらユアン・マクレガー)
久美・・・エマ・ワトソン (ほんとはアンジェリーナ・ジョリーにやってほしい)
正人・・・ジョージ・クルーニー (断られたらラッセル・クロウ)
ナオタ・・・ジェイデン・スミス
ナオタの父・・・ウィル・スミス
牧さん・・・デンゼル・ワシントン
谷村のおばちゃん・・・スーザン・サランドン (断られたら市毛良枝)
阿久津・・・シャイア・ラブーフ
ザック・・・ジャッキー・チェン
ま、妄想なんで
********
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円

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山岳映像に全てのエネルギーを注ぎ込み、それ以外はできるだけ安く上げた感じの映画。山の映像は美しく、原作の様々なエピソードをうまくまとめた物語にじんわり泣けたりはするが、ドラマ演出が決定的に物足りない。
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原作コミックスと映画のどちらが面白いかと言われたら、それはもちろんコミックスである。
とはいえ14巻ある原作の一つ一つのエピソードの積み重ねによって得られる感動と2時間にまとめなければならない映画を対等に比較する事はできない。
映画化において、原作では決して表現できない、映画だからこその要素かつ「岳」という作品の根幹をなす要素については、ばっちりと映像に刻み付けられている。
山の映像である。
雄大な穂高連峰の映像は映画館のスクリーンでこそ観る価値がある。
穂高岳(3190m)の北方に有名な槍ヶ岳(3180m)がある。日本のマッターホルンと称される岩山で、名前の通り槍の穂先の形をした山頂部は北アルプスを訪れる全ての人を魅了し、いつかあそこに登ってみたいと思わせる。
映画「岳」は主に穂高連峰を舞台とする。穂高のピークに立つ主人公島崎三歩(小栗旬)を写す時、あるいは穂高の稜線を写す時、カメラは北向きに設置され三歩ら被写体の背後に槍の穂先が映るように気を配っている。
ラストの頂上(前穂かな?北穂?)に立つ三歩(小栗旬)をとらえて、槍ヶ岳から笠ヶ岳へとパンする空撮映像は息をのむ美しさだ。
雪山での撮影は機材上げるのだけでも大変だっただろうし、スタッフ、キャストの皆さんの苦労が偲ばれる。
そうした山の絶景映像は映画ならではの楽しさであり、その意味で原作の感動を補完する作品になっている。
しかし、ドラマ部分で映画ならではの技巧や面白さが堪能できるかと言うとそうではない。
さっさと撮り上げたかったのか、話をなぞるだけの工夫のないカット割りが多い。
コミックスの場合はコマ割りによって登場人物の気持ちを表現しドラマを盛り上げる。
映画の場合はモンタージュによって心情や状況を表現しなくてはならないのに、そこができていない。
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久美ちゃん(長澤まさみ)が崖から落ちた人を背負って降りようとするが突然ぶっ倒れる・・・というカット。
引きの構図で1カットで表現している。
ここだけ見ると久美ちゃんがよろけたようにしか見えない。
しかしその前の場面で三歩が、死体を背負うとすごく重いんだ、ということを言っていた。
どうも、「さっきまで息をしていた怪我人が久美ちゃんの背中で息絶えたので急に重くなった」ということを映像で表現しようとしたらしい。
それを長澤まさみちゃんの演技に全ておまかせで撮っているのだ。
ここは・・・
「だらりと下がるけが人の腕」(スロー)
「久美ちゃんの顔アップ」(スロー)
「あおりめの映像で久美ちゃんがつんのめるショット」(スロー)
・・・の3カットくらい間にはさまないと判らないのでは。
でもそうはせず、引きのワンショットで撮ってしまう演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:金と時間をあまりかけずに撮れる
・デメリット:伝えたい事が伝わらない
****
そして久美ちゃん滑落シーンの端折り具合・・・
原作でその基になったエピソード(コミックス3巻「第2歩 警告」)を読み返してみると久美ちゃんは1ページと半分、コマ数にして9コマかけて滑落している。
映画では固定ショットで歩く久美ちゃんが画面下方にフレームアウトして滑落したっぽい効果音がかぶさってフェードアウト。フェードインすると崖下で怪我している久美ちゃんのショット。
コミックス9コマに対して、映画は0カットで表現している。
この演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:伝えたい事を最低限の金と時間で表現できる
・デメリット:面白くない
もちろんまさみちゃん本人にジャッキーみたく断崖を転がり落ちてくれと言うわけではない。スタントマンでもCGでも、もう少し見せようのあるシーンだったと思うのに残念だ。
****
久美ちゃんが三歩にお父さんの録音テープを聞かせるくだりは、じっと座っているだけの二人の長回しのショットにテープの声がかぶさるだけ。正直退屈。
この場面の演出のメリット/デメリット・・・
・メリット:伝えたい事を最低限の金と時間で表現できる
・デメリット:面白くない
お父さんの映像をインサートするのも有りだったかもしれないし、せめてもう少し動きを付けるとか、明け方くらいの設定に変えて朝日に照らされる山々の映像をはさむとか、退屈させない手段はあったと思う。
三歩がテープを聞く場面に、久美ちゃんがお父さんの葬儀で遺品のテープを聞くフラッシュバックを挟み込みながら描けば、映像に変化が出る上に、三歩と久美ちゃんがお父さんの声を共有したことを視覚的に表現できて一番いいんじゃないかと思う。なんにせよ例えば日本語を知らない外国人が見ても何かを感じ取れるような映像にすることが大事ではないかと思うのだが。
****
上記のつまらないと感じた場面にした理由が、「作り手の芸術上の野心のため」「観客サービスのため」「後の展開への伏線のため」などといったことではなく、単に制作上の都合以外に思い当たらないことが残念である。
長澤まさみちゃんの芝居はだいぶさまになってきたなあ・・・と思うだけに、こうした場面が残念だ。
****
佐々木蔵之介さんの原作とまったく異なる野田正人本部長の無駄な熱さが面白い。
オグシュンも予告編ではなんか違う感じがしてたけど実際に穂高の斜面を駆け抜ける映像や、のんきで空気読まない喋り方など、これはこれでいいような感じがしてきた。でも決め台詞「よく・・・・がんばった」の・・・・部分、いわゆるタメは要らないような気がする(のは個人的な感想)。
一番原作イメージに近いのは 市毛良枝さんの谷村山荘のおばちゃん。完璧。
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そういえば劇中では三歩以外の人物がピークを踏んで喜ぶという場面がなかった。
三歩以外の人物が山の美しさに感動したり、ピークに立って喜んだりという場面が無いのは寂しい
三歩みたいな山に選ばれし者のみが頂上に立てる・・・と受け取られる恐れがあるのでは。
山は楽しいんです。美しいんです。危険はもちろんありますが、それをわきまえてリスクを色々減らす努力をして、「また・・・・山においでよ」(オグシュン三歩風)
よし、今年は俺も穂高と槍に行くぞ!!!!
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妄想ハリウッド版「岳」キャスティング
三歩・・・ジョニー・デップ (断られたらユアン・マクレガー)
久美・・・エマ・ワトソン (ほんとはアンジェリーナ・ジョリーにやってほしい)
正人・・・ジョージ・クルーニー (断られたらラッセル・クロウ)
ナオタ・・・ジェイデン・スミス
ナオタの父・・・ウィル・スミス
牧さん・・・デンゼル・ワシントン
谷村のおばちゃん・・・スーザン・サランドン (断られたら市毛良枝)
阿久津・・・シャイア・ラブーフ
ザック・・・ジャッキー・チェン
ま、妄想なんで
********
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円

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本当に本当にひとつひとつ同意です。
完全同意です。
山すばらしい~。
しかし、物足りなさを感じました。
山は素晴らしかった。
所詮原作は漫画だから…という感想をみると、
是非是非、原作を読んでほしいと説に思います。
感想を読んで、溜飲がさがりました。
おばちゃんは良かったですね!
全ては、監督の才能がない。カット割りもヘタクソ。残念。次回頑張れ