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映像作品とクラシック音楽 第19回 『ダイ・ハード2』

2021-06-02 19:01:00 | 映像作品とクラシック音楽
こんにちは
週一で、クラシック音楽が印象的な映像作品を紹介する投稿を、人目を気にせず続けているインディーズ映画監督の齋藤新です。

今回はシベリウス の「フィンランディア」が真冬のワシントンD.C.の空港に響き渡る『ダイハード2』です。

前作の大ヒットを受けて前作のお約束をあちこち踏襲しつつ、予算アップでスケール感もアップした派手なアクション映画になりました。
お約束が過ぎるのと、あちこち「んなアホな」な描写が散見されたりで、個人的には1ほどの魅力は感じないのですが、このあとも作られるシリーズがどんどん中ハード、小ハード、微ハードとなっていくのに比べればまだまだ大ハードなころであり、ぶっちゃけ見る価値あるのは2までだと思ってます。
(ブルースの頭は小ハーゲ→中ハーゲ→大ハーゲ→完ハーゲとなっていきますが)

お約束踏襲ということで、音楽も「クラシック音楽の名曲をテーマの如く使う」を引き継ぎました。
そこでシベリウス の「フィンランディア」です。
敵は南米の将軍とその信奉者たちだし、舞台はアメリカだし、フィンランディア関係なくない?なんでこの曲?と思うかもしれませんが、その理由は監督のレニー・ハーリンがフィンランド人だからです。
前作のベト9の使用に色々な意味があったのに比べると、ずいぶんと浅い意味になりましたが、映画音楽としては効果的に使われています。


『ダイハード2』で「メインテーマはフィンランディアでいこう!」と言い出したのが誰なのかは知りません。でもハーリン監督ではないんじゃないかな?あいつロックしか聞かない奴のような気がします(彼の他の作品『エルム街の悪夢4/ザ・ドリーム・マスター』とか『ロング・キス・グッドナイト』とか観てると、シベリウス をじっくり聴くような人にはとても思えない…いや、偏見ですよね…でも…)

「フィンランディア」を提案したのは、前作に続き音楽を担当したマイケル・ケイメンではないかと予想します。
この人もロック好きな作曲家ではあるけれど、前作での第九への愛あふれる使い方といい、『ラスト・アクション・ヒーロー』ではF.マーリー・エイブラハム登場シーンで(魔法の力で映画の世界に入った映画オタク少年が、モーツァルトを殺した奴だよ、とアマデウスネタで笑いをとるのですが)うっすらモーツァルトの交響曲40番をかけたりするのです(いや、そこはサリエリの曲でしょ!というツッコミはやめましょう)。
そんなクラシック音楽大好きな一面のあるケイメンが「フィンランディア」を選ぶのなら納得できます。


「フィンランディア」ですが、言うまでもなくジャン・シベリウス の超有名曲です。しかしながら、シベリウス の楽曲群の中では異色な存在感を放っています。シベリウスってこんなアゲアゲな曲書く人じゃないと思うんだけどなぁ…
私、シベリウス は好きなので交響曲は1番から7番までCD持ってます。シベリウス で一番好きなのはと聞かれたら交響曲1番ですかね、2番も良いですよね、けっこう6番も好きですよ…などと答えたりするものの、どう考えても一番多く聞いてるのは「フィンランディア」だけど、なんか「一番好きなのはフィンランディア」って答えるのがちょっと恥ずかしい気がして、まだまだ人目を気にする未熟者です。

あまりの「らしからぬ感じ」からチャイコの「1812」とかショスタコ5番みたいに「作らされた曲」で顧客満足度優先でヤケクソ気味に盛り上げたのかな、と思ってましたが、調べてみるとそんな事はなく、シベリウスなりに熱い思いを込めて作った曲のようです。


「フィンランディア」は舞台劇の劇伴音楽として作曲されました。
フィンランドはロシアの北に隣接し、バルト海に面した、サウナとムーミンの国です。それと私ら映画好きにはアキ・カウリスマキの国です。
かつてはロシア帝国の支配下にあり属国に甘んじていたのですが、ロシア革命のどさくさで独立を勝ち得ました。
余談ですが、その後第二次世界大戦のどさくさに紛れてスターリンのソ連軍が侵略戦争を仕掛けるのですが、フィンランドはこれを撃退しています(思いっきり端折った解説ですが)。
話を戻して独立の気運が高まるロシア支配下のフィンランドで、国の歴史を描いた愛国劇が作られ、シベリウスはその劇のために愛国心を刺激するような曲を作りました。
時のロシア政府は危険な曲だとして演奏を禁じたそうですが、ロシアが危惧するのもわかるくらい気持ちの昂る曲です。


「フィンランディア」という曲はざっくり2部構成になっていて、前半部はおどろおどろしい、いかにもな悪のテーマっぽい雰囲気で始まります。「悪い国ロシアのテーマ」ってところですか。
そして後半からトランペットが鳴り響き出し勇壮な長調の曲へと変化します。この辺、フィンランド人民の戦いのテーマなんでしょうね。
途中「平和のテーマ」な感じの穏やかな、かろうじてシベリウスっぽさのある安らかな曲(この部分だけを抜いて歌詞付きでフィンランディア讃歌として演奏することもあるのだそうです)を挟んで、再び戦いのテーマが高らかに鳴り響き、熱いフィナーレをむかえます。

これがダイハード2ではどう使われたかと言えば…


物語の序盤から断片が顔をのぞかせますが、簡単には出てきません。
当時のバカな中高生男子がプール授業の時に真似したスチュアート大佐(ウィリアム・サドラー)の全裸トレーニングシーンにはかかりません。
テロリストどもが行動を開始するとその中の一人に見慣れた顔があり、誰かと思えばこの映画の翌年に液体金属となってシュワルツェネッガーをボコボコにするロバート・パトリックじゃないか!と思ったりしますが、そのT1000登場シーンにもかかりません(ちなみにダイハード2ではパトリッ君は序盤であっさりとジョン・マクレーンに殺されます)

で、マクレーンが「たまたま」でくわしたテロリスト2人と戦って1人を殺し、そいつの指紋を取ってロスのパウエルに正体を調べてもらい、パウエルから返信のFAXが来る場面で、「フィンランディア」の悪い国のテーマがかかります。ただし注意して聞いてないと気づかないかな。

そして、マクレーンが勝手に管制室に入り、責任者にその資料を渡すあたりから、テロリストがアジトに改造した古い教会にカットが変わるあたりで、ここは割とはっきりと「フィンランディア」の悪い国のテーマを聞くことができます。
マイケル・ケイメンは今回はフィンランディアの序奏部を悪のテーマに使うと決めたようです。


しかしながら、それからしばらくフィンランディアの断片は聞き取れません。派手派手なアクションシーンが楽しくて音楽ちゃんと聞いてないから気づいてないだけかもしれませんが。
そしてストーリーは一気に飛んでクライマックス。
ジャンボ機で逃げようとするテロリストをヘリで追って翼に飛び移ったマクレーンと、スチュアート大佐のタイマン対決。とはいえマーシャルアーツの達人のスチュアートに手も足も出ず、無様に翼から蹴り落とされるマクレーン。しかし蹴り落とされながらも給油口のフタをこじ開けるのに成功。ザブザブと燃料が溢れ出すのに気づかず、勝ち誇って笑うスチュアート。
客室のテロリストたちも、勝利気分でタバコの煙で輪っか作ってるやつもいて、ウキウキ感が伝わってきます。
しかしマクレーンはすっかり決めゼリフになった「イッピカイエィ、マザーファッカー(Yippee-ki-yay, motherfucker)」(ダイハード1作目の日本語吹き替えだと「てやんでえ!あったりめーよ!」)を叫ぶとジッポーライターに火をつけて、飛行機からブシュブシュ吹き出して出来たジェット燃料の筋に投げ込みます。
ブボボボボボ・・・と炎が飛行機を追いかけて導火線のようにそのまま燃料タンクに燃え移ります。勝利を確信し勝ち誇ってこの世の天国気分だった悪党どもは突然まとめて地獄に突き落とされ、全員爆死します。


勝利を確信しておくつろぎモードの客室のテロリストの皆さん。この直後地獄に直行するとは夢にも思っていない


ここからやっと「フィンランディア」が鳴ります。
燃料が尽きて照明のない真夜中に緊急着陸をしようとしていた旅客機。絶望的な雰囲気の中、フィンランディアの嫌な雰囲気の序奏が鳴りますが、テロリストどもを爆死させたYippee-ki-yayの炎の筋を発見し、滑走路が見える!これなら降りれる!と喜ぶあたりから、長調へ移行する前のトランペットの序奏になり、そして見事にランディングを決め車輪が滑走路にキュッと音を立てて接地した瞬間にメインメロディ部のトランペットが鳴ります。
もちろんそのまま勇壮なメロディが続き、その曲にのって、上空で待機していた飛行機がぞくぞく降りてきます。
吹雪の滑走路にジャンボ機が続々と着陸するシーンの「フィンランディア」がものすごく映像とマッチしていて、気分があがるのです。讃歌部分は飛ばしてフィナーレっぽいところを演奏して、そこからはケイメンのオリジナル曲に移行します。
このシーンの高揚感の功労者はハーリン監督よりも、ミニチュア特撮スタッフと、「フィンランディア」を鳴らしたマイケル・ケイメンではないかと思うのです。

「フィンランディア」が鳴り響く中ランディングをキメる旅客機。ILMの特撮(CGのない時代だからミニチュアと思われる)も素晴らしい


その後はラストシーンでお決まりの「LET IT SNOW」がかかってエンドロールとなりますが、前作同様「LET IT SNOW」が終わると本編で印象的に使ったクラシック音楽の演奏へのリレーとなり、当然ここでは「フィンランディア」が鳴り響くのです。
ここは、序奏こそ簡略化されてますが、メインメロディ部は、讃歌の部分もフィナーレもきっちり演奏してほぼフィンランディアをまるごと聞くことができます。
エンドロールの使用曲目紹介では、「"FINLANDIA " Written by JEAN SIBELIUS」とだけ表記されてますので、多分既存音源でなく、マイケル・ケイメンとスタジオオケによる新録でしょう。
けれども、このエンドロールの「フィンランディア」ティンパニの音が力強くて心地よく、金管の響きもスカッとしていて、私が持っている、パーボ・ベルグルンド×ヘルシンキフィルの演奏や、カラヤン×BPOの演奏と比較しても全然聞き劣りしません。なかなかの名演だと思いますよ!

それではまた、映画とクラシック音楽でお会いしましょう!!

-----余談-----
「フィンランディア」聴き比べ
カラヤンvsベルグルンド

ネットでクラシック評を読むと、シベリウス はドイツ系の演奏よりも、フィンランドの指揮者によるものが良い、フィンランドの大自然が伝わってくるうんちゃら…というのをよく読みます。でも生前のシベリウス本人はと言えばカラヤンを激賛していたそうで、本当に何が良いのかはよくわかりませんね。
とは言え、ベルグルンド×ヘルシンキフィルのシベリウスはとても雑味のない演奏で口当たり良く大好きです。私は交響曲だと1、2、6を持ってます。
カラヤンの演奏ももちろん素晴らしく、交響曲は5と7を持ってます。特に5は名演ですね。

「フィンランディア」について、パーボ・ベルグルンド指揮ヘルシンキフィル
86年録音と、カラヤン指揮BPOの演奏(ネットで買ったので録音年代分からず)の聴き比べレポートをしてみます。

カラヤンの演奏は9分半くらい
ベルグルンドは7分半くらい
ベルグルンドが「速い」というのはここでもわかります。
ただしベルグルンドは全体的に速くしているというより、気持ちのあがるような部分を猛烈に速くするのです。気持ちに相当左右された演奏をしています。
対してカラヤンは、感情など持ち合わせていないので、一貫してドッシリとした重厚な演奏を貫きます、

冒頭部分はカラヤンの方が良いです。あの重々しさはベルリンフィルの面目躍如。
ただ英雄的に盛り上がるところは、好みの問題はあるのだけど、私はベルグルンドのノリまくった感のある演奏が好きです。トランペット以上に自己主張の激しいシンバルの破壊的な響きも良い。
客観的に考えるとカラヤンの演奏の方が「フィンランディア」に関しては良いように思うのですが、ベルグルンドのジェットコースターのような子供心くすぐる演奏の方が楽しい気分になれる気がします。


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