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英語教師のひとりごつ

英語教育について考える。時々ラーメンについて語ることもある。

学校英文法の再検討3 ~関係代名詞の省略~

2014-02-07 18:58:12 | 日記
関係詞は個人的には、説明が複雑になってなかなかシンプルに指導できないので、指導のしにくさを感じています。特にどの関係詞を選択するか、という問題には頭を悩ませることも多いと思います。場面がフォーマルかインフォーマルかという区別でどの関係詞が好まれるのか、ある程度決まることはBiber at al.(1999)が明らかにしてくれていますが、個人的にはもう少し詳しく知りたい気持ちもあります。手元にある文献では私自身のかゆい所に手が届かないし、ネイティブと話していても統一した見解が見られないので、学校文法としてどう整理するのか、私もかなり頭を悩ませてしまいます。今回はあまり詳しくは立ち入らずに、しかし学校文法書の記述で少し改善した方がよいことを取り上げてみます。ちなみに用語について、制限的用法と非制限的用法という用語について、私がより適切だと思う別の用語を用いることは論を進めるのに理解の妨げになると困るので、そのまま用いていきます。

今回は関係代名詞の省略について。目的格の関係代名詞は省略される、というルールがあります。特に話し言葉の場合、目的格の関係代名詞は省略するのが普通です。

(1)This is the watch I bought yesterday.(これが僕が昨日買った時計です。)
(2)She is the woman I love.(彼女が僕の愛する人です。)

しかし実際には、主格であっても省略されることがあります。次のような例がそうです。

(3)Martin has given her some books he thinks will help her.(マーティンは役に立つと思われる本を数冊、彼女にあげた。)
(4)We were feeding the children we knew were hungry.(私たちは空腹であることがわかっている子どもに食べ物を与えていた。)(どちらも柏野(2010;p.304)より)

これらはそれぞれ「he thinks」や「we knew」が挿入されていますが、構造的には主格の関係代名詞の省略です。このような例も含めて包括的に説明するためには「目的格の関係詞は省略可能」では少し不十分です。大津(2004)によれば、関係詞が省略されるルールは次のようなものです。

関係詞省略のルール:関係代名詞の直後に名詞句が続くとき、省略することができる

(3)でいえば「he」、(4)でいえば「we」が本来関係詞が入る位置の直後に続いています。おそらく多くのネイティブは「先行詞+S+V」の形の時には、その響きを優先して省略していると考えられます。その証拠に柏野(2010)は、主格の関係代名詞を用いるべきところで、次のような目的格の関係代名詞がよく代用されることを指摘しています。

(5)I'm looking for a woman whom I believe works here.(ここで働いていると聞いている女性を探している。)

上の文は文法的には「who」を用いるべきところです。このことからも関係代名詞の後に名詞句が続くことが省略の動機づけになっていることがわかります。もちろん(5)の関係詞は省略可能です。よって次の例のように名詞句以外のものが挿入されると容認不可能となります。

(6)*The math teacher, probably, you met at the parents' meeting the other day is very smart.(先日おそらく君が保護者会であったであろう数学教師はとても頭がいい。)(大津(2004;p.166)より)

ただし、柏野(2010;p.304)によると、(3)~(5)のような場合、イギリス英語では省略されない形のほうが用いられるようです。また主格について、柏野(2010;p.303)によれば省略可能な時もあり、以下のような例があります。

(7)I'm looking for a man used to live here.(ここに以前住んでいた男をさがしている。)
(8)There are many surprising things happen in the world.(世界では思いがけないことがいろいろと起こる。)
(9)I have a friend sent me an e-mail yesterday.(昨日、メールをくれた友達がいる。)

しかし、これらの文は教育的観点からすると非標準的とみなした方がよく、一般的には次のように表現するほうがよいと思われます。

(7')I'm looking for a man who used to live here.
(8')There are many surprising things happning in the world.
(8'')Many surprising things happen in the world.
(9')I have a friend who sent me an e-mail yesterday.
(9'')One of my friends sent me an e-mail yesterday.

よって文法指導の際は、(7)~(9)のような文を指導することは避けたほうがよいと思います。実際に使われているからといって必ずしも指導する必要はなく、教育的妥当性を考慮して取捨選択するのが、学習文法のあり方だからです。


【参考文献】
Biber Douglas et al.(1999). Longman grammer of spoken and written English. Longman.
大津由紀雄.(2004).『英文法の疑問 恥ずかしくてずっと聞けなかったこと』.NHK出版.
柏野健次.(2010).『英語語法リファレンス』.三省堂.


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2 コメント

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英語教師のひとりごつ (Kenny)
2014-02-07 20:25:00
言われる通りだと思います。教師は知っていることをすべて教えるのではなく、その7、8割程度にとどめるべき、というのが私の持論です。残りは質問が出た時のために取っておくのがいいと思います。
私は日ごろから、「考える英文法」と「割り切り英文法」というのを考えていて、教室では前者の成果を利用しながらも後者の立場を取っています。ただ、どこで割り切るかは学習者の英語力とも関連してきますので、難しい面が多々あることは否定できません。面白いブログを有難うございます。
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Re:英語教師のひとりごつ (strol0330)
2014-02-08 08:42:32
「考える文法」と「割り切り文法」私も非常に共感します。生徒のレベルに合わせて両者を使い分けることが求められているのだと思います。さらには各文法項目の難しさも考慮していかに絶妙な割合でブレンドするのか、カフェの店員さんのような緻密な作業ですね。最近は英語学習に関する本が数多溢れていますが、本に関してもどちらを追及しているのかはっきりしないもの(ばかりでなく記述の怪しいもの)も多いので、本を選ぶ選択肢が増えたからといって、生徒は幸せではないかもしれませんね。コメントありがとうございます。
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