北朝鮮の朝鮮労働党で外交を取り仕切る金永日(キム・ヨンイル)国際部長たち北朝鮮幹部が2010年5月、拉致被害者・横田めぐみさん(拉致被害時13歳)の娘で北朝鮮在住のキム・ウンギョンさん(ヘギョンさん)が日本以外の第三国に出国することを容認する意向を日本側に伝達していたことがわかりました。
北朝鮮側にはめぐみさんの父・滋さん、母・早紀江さんとウンギョンさんが第三国で初めて面会することを促す思惑があったと見られます。また、北朝鮮側は拉致問題の手詰まり状態を打開する狙いもあると見られ、今後の日・朝交渉の焦点となりそうです。
金永日国際部長は5月15日、訪朝した飯島 勲内閣官房参与とも会談しました。
北朝鮮筋は
「ウンギョンさんについての立場は一貫している」
としていて、飯島参与との会談でもウンギョンさんについて話し合われた可能性があります。
関係筋によりますと、北朝鮮側はまず2009年10月、当時の朝・日友好親善協会会長の金泰鐘(キム・テジョン)国際副部長が訪朝した民主党の川上義博参議院議員に対し、
「(ウンギョンさんを)日本以外ならどこに連れ出してもらってもいい」
と明言。さらに、2010年5月に再訪朝した川上議員と会談した金国際部長たち幹部が北朝鮮側の方針を確認しました。
■日本の主張が完全否定されるリスクも
ウンギョンさんの第三国への出国について、北朝鮮は拉致問題の決着に向けた「核心」(北朝鮮筋)との認識を持っています。日本政府は交渉には厳しい覚悟を迫られることになりそうです。
ウンギョンさんと滋さん・早紀江さんの面会を巡っては、昨年11月に滋さん夫妻の平壌訪問の可能性について日本政府が北朝鮮と非公式協議を始めていたことが判明しています。
2002年に北朝鮮が拉致を認めてからすでに10年以上が経過しましたが、解決には程遠い状況です。非公式協議は日本側も事態打開の道を模索した苦肉の策でしたが、滋さん夫妻の訪朝のハードルは高く、実現の見通しは全く立っていません。
ウンギョンさんが第三国に出国出来るのであれば、面会は容易になります。しかし、北朝鮮側がめぐみさんは「死亡した」とするのに対し、日本側は「死亡を裏付ける証拠は無い」として再調査と早期帰国を求めて対立する中、面会すればめぐみさんの安否の問題が話題になることは確実です。
めぐみさんは拉致問題の象徴的な存在。
娘のウンギョンさんの発言は極めて大きな意味を持ち、世論への影響も計り知れません。
日本の主張が完全否定されかねないリスクにも備え、拉致問題を今後どのように解決に導くのか、関係者が苦慮するのは避けられそうにありません。
■キム・ウンギョンさんとは?
ウンギョンさんはめぐみさんと韓国人拉致被害者(拉北者)・金英男(キム・ヨンナム)さんとの間に生まれました。
滋さん・早紀江さんとウンギョンさんとの面会は「拉致問題の幕引きに利用される」との懸念も強く、実現の可否について日本政府内で慎重に検討されましたが、実現には至っていません。
金国際部長との会談は鳩山由紀夫首相(当時)の了承のもとで行われ、会談の際には金正日(キム・ジョンイル)総書記宛ての親書を渡すことも検討されました。しかし、外務省が反対したため、親書を渡す代わりに鳩山首相の名前で「自ら訪朝する用意がある。訪朝が拉致問題を実質的に決着させる歴史的な契機になると確信している」とした文書を会談で読み上げたといわれています。
また、会談では北朝鮮側が経済制裁の一部解除を条件に、拉致被害者を巡る再調査委員会の設置を日本側に打診しました。
■「会うのは難しい」
横田めぐみさんの母・早紀江さん(77歳)は5月28日、孫のウンギョンさんについて
「会いたいという思いはあるが、拉致問題が進展しない中では難しい。北朝鮮が何を考えているのかわからず、(ウンギョンさんを)利用している恐れもある」
と話しました。
また、父・滋さん(80歳)も
「政府から何も聴いていないのでわからない。会っても拉致問題解決にプラスになるかどうか不明だ」
と述べました。
【横田めぐみさん拉致事件】
新潟市内で1977年11月15日、当時中学1年生で13歳だった横田めぐみさんが下校途中に自宅近くで消息を絶ちました。
北朝鮮は2002年の日・朝首脳会談で拉致を認め、その際、「めぐみさんは娘を出産後、1993年に死亡した」と説明したものの、のちに「死亡は1994年」と変更しました。
2004年11月に北朝鮮側はめぐみさんの「遺骨」と称する人骨を提出しましたが、帝京大学法医学研究室のDNA鑑定で別人のものと判明しました。
一方、娘のウンギョンさんのDNAから韓国人拉致被害者(拉北者)・金英男さんとの結婚が確認されました。
◆昭和52(1977)年11月15日
少女拉致容疑事案
被害者:横田めぐみさん(拉致被害時13歳)
新潟市において下校途中に失踪。
平成16年11月に開催された第3回実務者協議において、北朝鮮側はめぐみさんが1994(平成6)年4月に死亡したとし「遺骨」を提出したが、めぐみさんの「遺骨」とされた骨の一部からは同人のものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得た。
平成18年4月には日本政府の実施したDNA検査により、横田めぐみさんの夫が昭和53年に韓国より拉致された当時高校生の韓国人拉致被害者・金英男(キム・ヨンナム)氏である可能性が高いことが判明した。
【拉致事件、捜査の現状】
北朝鮮による拉致事件を巡り、日本の警察はこれまで実行犯や指示役として北朝鮮の元工作員たち合わせて11人を国際手配しています。
拉致には金正日(キム・ジョンイル)総書記が掌握していた対外情報調査部と呼ばれる工作機関が組織的に関わっていた疑いが強いと見て捜査を続けています。
このうち、福井県の地村保志さん・富貴恵さん夫妻を拉致した実行犯として元工作員の辛光洙(シン・グァンス)容疑者が手配されています。
また、大阪府の原 敕晁さんが拉致された事件では、辛容疑者とともに金吉旭(キム・キルウク)容疑者も共犯者として手配されています。
この他、東京都の久米 裕さん拉致事件では金世鎬(キム・セホ)容疑者が、新潟県の曽我ひとみさん拉致事件にはキム・ミョンスク容疑者がそれぞれ関わったとして手配されています。
北海道出身の渡辺秀子さんの子供2人の拉致事件では、工作員グループのリーダー格で北朝鮮にいると見られる洪寿恵(ホン・スヘ)こと木下陽子容疑者が手配されています。
新潟県の蓮池 薫さん・祐木子さん夫妻の拉致事件ではチェ・スンチョル容疑者が実行犯として手配されている他、金総書記が掌握していた対外報調査部と呼ばれる北朝鮮の工作機関の幹部であるハン・クムニョン容疑者とキム・ナンジン容疑者が拉致の実行を指示したとして手配されています。
ハン容疑者たちは工作機関で「指導員」と呼ばれる立場で、辛光洙容疑者たちもこの組織の一員だったことがわかっており、警察は北朝鮮が組織的に拉致を実行した疑いが強いと見て捜査を続けています。
よど号ハイジャック事件のメンバーたちも1980年代にヨーロッパで相次いだ3人の日本人拉致に関わった疑いで国際手配されています。
このうち、有本恵子さん拉致事件では魚本公博(安部公博)容疑者が、石岡 亨さんと松木 薫さん拉致事件ではよど号メンバーの妻の森 順子・若林佐喜子両容疑者がそれぞれ手配されています。
北朝鮮側にはめぐみさんの父・滋さん、母・早紀江さんとウンギョンさんが第三国で初めて面会することを促す思惑があったと見られます。また、北朝鮮側は拉致問題の手詰まり状態を打開する狙いもあると見られ、今後の日・朝交渉の焦点となりそうです。
金永日国際部長は5月15日、訪朝した飯島 勲内閣官房参与とも会談しました。
北朝鮮筋は
「ウンギョンさんについての立場は一貫している」
としていて、飯島参与との会談でもウンギョンさんについて話し合われた可能性があります。
関係筋によりますと、北朝鮮側はまず2009年10月、当時の朝・日友好親善協会会長の金泰鐘(キム・テジョン)国際副部長が訪朝した民主党の川上義博参議院議員に対し、
「(ウンギョンさんを)日本以外ならどこに連れ出してもらってもいい」
と明言。さらに、2010年5月に再訪朝した川上議員と会談した金国際部長たち幹部が北朝鮮側の方針を確認しました。
■日本の主張が完全否定されるリスクも
ウンギョンさんの第三国への出国について、北朝鮮は拉致問題の決着に向けた「核心」(北朝鮮筋)との認識を持っています。日本政府は交渉には厳しい覚悟を迫られることになりそうです。
ウンギョンさんと滋さん・早紀江さんの面会を巡っては、昨年11月に滋さん夫妻の平壌訪問の可能性について日本政府が北朝鮮と非公式協議を始めていたことが判明しています。
2002年に北朝鮮が拉致を認めてからすでに10年以上が経過しましたが、解決には程遠い状況です。非公式協議は日本側も事態打開の道を模索した苦肉の策でしたが、滋さん夫妻の訪朝のハードルは高く、実現の見通しは全く立っていません。
ウンギョンさんが第三国に出国出来るのであれば、面会は容易になります。しかし、北朝鮮側がめぐみさんは「死亡した」とするのに対し、日本側は「死亡を裏付ける証拠は無い」として再調査と早期帰国を求めて対立する中、面会すればめぐみさんの安否の問題が話題になることは確実です。
めぐみさんは拉致問題の象徴的な存在。
娘のウンギョンさんの発言は極めて大きな意味を持ち、世論への影響も計り知れません。
日本の主張が完全否定されかねないリスクにも備え、拉致問題を今後どのように解決に導くのか、関係者が苦慮するのは避けられそうにありません。
■キム・ウンギョンさんとは?
ウンギョンさんはめぐみさんと韓国人拉致被害者(拉北者)・金英男(キム・ヨンナム)さんとの間に生まれました。
滋さん・早紀江さんとウンギョンさんとの面会は「拉致問題の幕引きに利用される」との懸念も強く、実現の可否について日本政府内で慎重に検討されましたが、実現には至っていません。
金国際部長との会談は鳩山由紀夫首相(当時)の了承のもとで行われ、会談の際には金正日(キム・ジョンイル)総書記宛ての親書を渡すことも検討されました。しかし、外務省が反対したため、親書を渡す代わりに鳩山首相の名前で「自ら訪朝する用意がある。訪朝が拉致問題を実質的に決着させる歴史的な契機になると確信している」とした文書を会談で読み上げたといわれています。
また、会談では北朝鮮側が経済制裁の一部解除を条件に、拉致被害者を巡る再調査委員会の設置を日本側に打診しました。
■「会うのは難しい」
横田めぐみさんの母・早紀江さん(77歳)は5月28日、孫のウンギョンさんについて
「会いたいという思いはあるが、拉致問題が進展しない中では難しい。北朝鮮が何を考えているのかわからず、(ウンギョンさんを)利用している恐れもある」
と話しました。
また、父・滋さん(80歳)も
「政府から何も聴いていないのでわからない。会っても拉致問題解決にプラスになるかどうか不明だ」
と述べました。
【横田めぐみさん拉致事件】
新潟市内で1977年11月15日、当時中学1年生で13歳だった横田めぐみさんが下校途中に自宅近くで消息を絶ちました。
北朝鮮は2002年の日・朝首脳会談で拉致を認め、その際、「めぐみさんは娘を出産後、1993年に死亡した」と説明したものの、のちに「死亡は1994年」と変更しました。
2004年11月に北朝鮮側はめぐみさんの「遺骨」と称する人骨を提出しましたが、帝京大学法医学研究室のDNA鑑定で別人のものと判明しました。
一方、娘のウンギョンさんのDNAから韓国人拉致被害者(拉北者)・金英男さんとの結婚が確認されました。
◆昭和52(1977)年11月15日
少女拉致容疑事案
被害者:横田めぐみさん(拉致被害時13歳)
新潟市において下校途中に失踪。
平成16年11月に開催された第3回実務者協議において、北朝鮮側はめぐみさんが1994(平成6)年4月に死亡したとし「遺骨」を提出したが、めぐみさんの「遺骨」とされた骨の一部からは同人のものとは異なるDNAが検出されたとの鑑定結果を得た。
平成18年4月には日本政府の実施したDNA検査により、横田めぐみさんの夫が昭和53年に韓国より拉致された当時高校生の韓国人拉致被害者・金英男(キム・ヨンナム)氏である可能性が高いことが判明した。
【拉致事件、捜査の現状】
北朝鮮による拉致事件を巡り、日本の警察はこれまで実行犯や指示役として北朝鮮の元工作員たち合わせて11人を国際手配しています。
拉致には金正日(キム・ジョンイル)総書記が掌握していた対外情報調査部と呼ばれる工作機関が組織的に関わっていた疑いが強いと見て捜査を続けています。
このうち、福井県の地村保志さん・富貴恵さん夫妻を拉致した実行犯として元工作員の辛光洙(シン・グァンス)容疑者が手配されています。
また、大阪府の原 敕晁さんが拉致された事件では、辛容疑者とともに金吉旭(キム・キルウク)容疑者も共犯者として手配されています。
この他、東京都の久米 裕さん拉致事件では金世鎬(キム・セホ)容疑者が、新潟県の曽我ひとみさん拉致事件にはキム・ミョンスク容疑者がそれぞれ関わったとして手配されています。
北海道出身の渡辺秀子さんの子供2人の拉致事件では、工作員グループのリーダー格で北朝鮮にいると見られる洪寿恵(ホン・スヘ)こと木下陽子容疑者が手配されています。
新潟県の蓮池 薫さん・祐木子さん夫妻の拉致事件ではチェ・スンチョル容疑者が実行犯として手配されている他、金総書記が掌握していた対外報調査部と呼ばれる北朝鮮の工作機関の幹部であるハン・クムニョン容疑者とキム・ナンジン容疑者が拉致の実行を指示したとして手配されています。
ハン容疑者たちは工作機関で「指導員」と呼ばれる立場で、辛光洙容疑者たちもこの組織の一員だったことがわかっており、警察は北朝鮮が組織的に拉致を実行した疑いが強いと見て捜査を続けています。
よど号ハイジャック事件のメンバーたちも1980年代にヨーロッパで相次いだ3人の日本人拉致に関わった疑いで国際手配されています。
このうち、有本恵子さん拉致事件では魚本公博(安部公博)容疑者が、石岡 亨さんと松木 薫さん拉致事件ではよど号メンバーの妻の森 順子・若林佐喜子両容疑者がそれぞれ手配されています。