読書の記録

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涼宮ハルヒの直観 (超ネタバレ)

2020年12月02日 | 小説・文芸

涼宮ハルヒの直観 (超ネタバレ)

谷川流
角川スニーカー文庫


 まさか新刊がでるとは思わなかったねえ。

 本ブログで、前巻「涼宮ハルヒの驚愕」をとりあげたのが2011年である。
 よく覚えている。東京駅の本屋で特設コーナーにうず高く「驚愕」の下巻が積まれていたのだ。

 僕はそれまでこの手のジャンルはまったく読んだことがなかった。まして、アニメ版があってこれがまたたいそう人気であるとか、独特のダンスがあって、秋葉原系の人がコスプレしてそれを踊っているというのは、なにかで見聞きはしていても自分の関心領域の外にある話だった。

 ところが、ハルヒの社会現象はそれに留まらず、ユリイカが特集を組んでいたり、筒井康隆が言及したりするようになった。どうも、ただのラノベではない。というわけでまずは第1巻の「涼宮ハルヒの憂鬱」を、その東京駅で買ってみたのである。

 ラノベであるから、その気になればほんの数時間で読みおえる。とはいえ、第1巻を読んだ時点ではなにがそこまで人を追い立てるのかまではわからなかった。テンションの高いハルヒに、宇宙人と未来人と超能力者と単なる人間が集まる、というドタコメで、だからなんだ、という感じである。なぜあのとき第1巻で読むのをやめなかったのかはわからない。

 ところが作者のバックボーンにあるSFの知識が次第に見え隠れするようになって、さまざまな伏線がはられるようになると、俄然のめりこむようになった。第4巻「涼宮ハルヒの消失」以降がやはり読みごたえあるが、作者のインタビューでは、第3巻の短編集「涼宮ハルヒの退屈」のなかに収められている「笹の葉ラプソディ」がターニングポイントらしい。たしかにこの短編での出来事が、このハルヒシリーズの世界観を決定している。つまり、作者は初めからこのシリーズ世界を構想して描いていたのではなく、「笹の葉ラプソディ」にたどり着いたことで、その後のブレイクスルーが可能になったといえる。

 なんてことは、僕なんかよりずっとずっとハルヒシリーズのことに通じている人からは当然の知識なんだろうと思う。とにかくハルヒシリーズは、アニメやコミック化や他の登場人物のスピンオフなど、とにかくマーケットの拡大を続けた。僕はこの角川スニーカー文庫から出ている全11巻だけが頼りで、他のコンテンツに接していないので、まったくの低関与者であろう。

 というわけで、11冊目の「涼宮ハルヒの驚愕」(下巻)までいっきに読み終えたのだが、そこから9年が経ったわけだ。

 

 さすがに忘れてる。とくに「驚愕」あたりは得体のしれない登場人物がわんさと出てきて時空間入り乱れてなんだかわからなくなったという印象が強く、今となってはどんな事件があって誰がどうしたのかもう全然覚えていない。

 なので、9年ぶりに新刊が出るというので、それはなにがなんでも読まねばということで購入したものの、鶴屋さんの裏山に出てきた金属棒って何だっけとか、雪山山荘の出来事ってなんだったっけというくらいの忘却ぶりである。長門がとにかく超絶的な存在だったことはもちろん覚えていたが、古泉がなにゆえに超能力者でどんな機関に所属していたのかなんてのはけっこう忘れている。まして未来人みくるがなぜ現在にいるのかも実は覚えていない。しょせんそれくらいの記憶である。

 まあ、それでも楽しめた。ここからは超ネタバレである。本巻「涼宮ハルヒの直観」は、短編と中編と長編がひとつずつ収められている。最重要なのは長編「鶴屋さんの挑戦」ということになろうか。この「鶴屋さんの挑戦」自体が、3つの短編・中編・長編のエピソードで構成されていて、全体でひとつの本格ミステリものになっている。

 「鶴屋さんの挑戦」はとにかく思わせぶりな記述が多く、僕も油断せずに気をつけながら読んでいった。(堂々と叙述トリックであると宣言しているのだ)ある程度の違和感は僕もすぐにわかったし、本巻で登場するTという通称の交換留学生がただの道化のわけはなく、どこかで真相に絡むとは思っていたが、そういうメタ的な推理の仕方は邪道ではないか、とキョンに指摘されるなど、なかなか機先を制される仕掛けにはなっている。実際にこの種明かしはそれなりに予想外のものではあった。

 ただ、僕はこの「鶴屋さんの挑戦」の構成が、短編・中編・長編のエピソードで成り立っていて、そこに実は謎もヒントもぶちこめられているというところからして、実は、この「涼宮ハルヒの直観」自体が短編「あてずっぽナンバーズ」中編「七不思議オーバータイム」長編「鶴屋さんの挑戦」から成り立っていることから、他の2編がこの最終長編に何かしら伏線となっていたのではないかというのを疑っているのだ。中編「七不思議オーバータイム」は、Tという交換留学生を初登場させて彼女の基礎情報を与える機能を持ってはいるが、それ以外に何かがしこまれているんじゃないかとみている。とはいうものの、その謎が何かというのは実は見つかっていない。最初の短編「あてずっぽナンバーズ」に至ってはまったく無関係に思える。

 だけど、やはり本当はなにか伏線があるんじゃないかとにらんでいるのである。そんなことは作者も言ってないし、長編「鶴屋さんの挑戦」はこれだけで完結している。

 なのだけど、鶴屋さんが最後に「あたしに言っとくことないかな?」とふっかけてきたように、どうも僕はなにか鶴屋さんの挑戦」には解決してない謎を残しているような「もやっ」とした気分があるのである。これは完全に僕の「勘」である。で、その解決していない何かは、実は短編「あてずっぽナンバーズ」と中編「七不思議オーバータイム」に伏線があり、作者の谷川流がイースターエッグのように仕込んでいると疑っているのである。いったいなんだろう?


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