読書の記録

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コーヒーで読み解くSDGs

2021年11月23日 | 環境・公益

コーヒーで読み解くSDGs


Jos-e川島良彰 池本幸生 山下加夏
ポプラ社


 SDGsというのを考えてみたときにどうにも怪しいのは「コーヒー」と「チョコレート」だよなとは常々思っていた。

 SDGsが世間に浸透して久しく、さらに最近では脱炭素の問題なんかも絡んできて、メディアでとりあげられる機会も多い。、
 だけどコーヒーとチョコレートを大々的にとりあげたコンテンツをほとんど見かけない。やはり大スポンサーへの配慮や遠慮があるのだろうかとも思う

 コーヒーとチョコレートの共通点はいろいろある。原材料の生産国が発展途上国であること、生産地の肉体労働に依存していること、消費国は先進国でマーケティングによる過当競争になっていること、原材料から商品までに複雑な加工プロセスが存在すること、世界レベルの企業が参加していること(ネスレなんかコーヒーとチョコレートの両方に携わっている)。
 そして、これらの結果は生産者自身は商品としてのコーヒーやチョコレートを口にする機会が無いということも共通している。

 日本の受験生の必勝を願うひとつまみのキットカットは、アフリカの農園での労働が反映されている。それくらいの想像力は持ちたいと思っている。
 近年の課題意識の高まりをうけてネスレも個装をビニール製ではなくて紙製にしたり、チョコレート農家の育成とモニタリングに乗り出しているようだ。その取り組みは評価できるが、そもそもチョコレートとはウォーラーステインが言うところの世界システムの申し子であるという事実からは逃れられないだろう。


 コーヒーもまた、世界システムの上に構築された歴史を持つ産業だ。今日的目線でコーヒーを学ぶことはSDGsを学ぶことに他ならない。本書はSDGsの17の目標すべてに対してコーヒー産業の取り組みをレポートしている。

 企業や団体のSDGsの取り組みをみていると、ネガティブだったものをニュートラルにするものと、ニュートラルなものをポジティブなものまでもっていくものがあるように思う。たとえば、児童労働や低賃金労働などの不正労働を改善し、人として十分な待遇と保証で雇用することはネガティブからニュートラルへの取り組みと言える。さらにその労働過程を単なるタスクの処理ではなく、その過程を通じて化学や生物学の普遍的基礎を学ばせ、ビジネススキルも学ばせることで、労役人材としてだけでなく広範なビジネス人財として社会に出ていけるプログラムまで意識されるとそれはニュートラルを通り越してポジティブインパクトを持つ取り組みと言える。

 もちろん、ニュートラルに留まるより、ポジティブにまで転じる取り組みのほうがよいに決まっている。しかし、元来がネガティブの根が深いものであれば、ニュートラルに戻すまでがいっぱいいっぱいでもあろう。コーヒーにおいては過去の歴史が相当にネガティブだけに、その多くはニュートラルにまでもっていくのがせいぜいではないかと思う。
 本書の紹介事例もやはり「ニュートラル」のほうが多い。コーヒー産業システムの根の深さを思う。
 しかし、「ポジティブ」なチャレンジもないわけではない。むしろコーヒーだってポジティブインパクトをこの世界につくることができるという例を見ることは大いなる希望が感じられる。
 たとえば、タイの山岳地帯、かつて麻薬のトライアングルと呼ばれた無法地帯をコーヒー生産地に変え、ダークな経済圏に巻き込まれていたケシ農家を、十分にモニタリングされたコーヒー生産と経済にシフトさせたドイトゥンコーヒープロジェクトはその代表的な例だ。
 それから南米コロンビアで知的障害者を雇用したフェダール農園の事例。「障がい者施設がつくったコーヒーだから不味くても買ってあげようというのではなく、美味しいから買いたいと思われるコーヒーを目指す」試みもポジティブインパクトを生むものだと思う。

 どちらのプロジェクトも事業の持続可能性が前提であるが、コロナによる世界経済の打撃もあってその道のりは困難なようだ。まだまだ試行錯誤もありそうだが応援したい。
 


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