読書の記録

評論・小説・ビジネス書・教養・コミックなどなんでも。書評、感想、分析、ただの思い出話など。ネタバレありもネタバレなしも。

生き延びるための作文教室

2015年11月30日 | 生き方・育て方・教え方

生き延びるための作文教室

石原千秋
河出書房新社

  僕が学校の読書感想文について思っていたようなことをまさしく書いてくれていた本。つまり読書感想文における「自由に思ったことを書きなさい」は罠であるということ。「自由」といいながら、実はこの先に行ってはいけない「ガラスの壁」というものが存在することを看破している。

 本書が指摘するのは、だからといって優等生的な文章を書いて花丸をもらっても、果たして卒業後の実社会ではたいしてデキる大人にならないということだ。そんな心にもない予定調和のかたまりをまとめる作文技術がついたところで、誰かの便利屋さんとして重宝がられるくらいで、自分で課題を発見して切り開いていくような才覚は身につかないからだ。

 しかし、だからといって読書感想文はてきとーにすませてよい、というわけではない。なぜなら学校もまた社会の一部であり、この学校という社会では「上手な読書感想文」を書くスキルは求められるからだ。

 つまり、学校において一定以上の評価を得られ、かつ実社会に出ても存在感を確立し、一目おいてもらえるような作文技術とはありやなしや。

 それが本書の「生き延びるための作文教室」である。実社会において存在感を確立できる力がつき、かつ学校の読書感想文としても評価されるガイドラインとして、「ガラスの壁」内側ぎりぎりに立脚して己を見失わないことの手心を教えている。そのコンセプトは「審査員特別賞狙い」。なるほどうまいことを言う。

 「審査員特別賞」というのは、審査会議で満場一致にはならないが、1人か2人の審査員に強烈な印象を残したものだ。実はそのくらいのものがいちばんユニークとインパクトを擁し、人々を動かすチカラがあったりする。今日において価値があるものとはそういう賛否真っ二つにわれるようなものだ。全員が却下したものというのは残念ながら社会評価に到達する以前の力不足であるが、全員が賛同したものというのははっきりいってオトナの評価基準を穴埋め的に満たした(あるいは減点法に強かったというべきか)予定調和であることが多い。オトナの見解の追認でしかなく、なにも新しい価値観を提案していない。ごくまれに全員がうならされる、というすばらしいものもあるわけだが、そんな技術がある人はそもそも読書感想文どころか作文も苦ではないだろう。したがって、みんなにはいい顔してもらえなかったかもしれないが審査員の1人か2人に、「いや、こいつはけっこうおもしろいぞ」「このまま見捨てるのは惜しいぞ」と思わせたものこそが、ホントになにか光るものがあると思ってよい。実社会で力を発揮するのはこういう賛否真っ二つのアウトプットが出せる人間である。

 本書には「審査員特別賞」をねらうための「ガラスの壁」内側ぎりぎりをつく方法論が述べられている。こういうのがわかると、読書感想文という苦行も、ひとつの攻略したくなるゲームのようになるのではないか。

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  海賊とよばれた男 | トップ | 戦略読書 »