海賊とよばれた男
講談社文庫
百田尚樹
出光石油を見直すきっかけになることは間違いない本ではあるし、エンターテイメントとしてもとても面白いのだが、なんか圧倒的な事実背景を持っておきながら2時間ドラマっぽいような鼻白む思いもずっと感じていた。
要するに、人物描写が浅いのである。国岡鐵造は確かに立派な人物ではあるが、あまりにも葛藤がないというか、決断の裏側の逡巡や苦悩が描かれていないのである。国岡だけでなく、他の登場人物も、正義漢はどこまでいっても骨の髄まで正義だし、嫌味なやつは心底イヤミなだけだし、忠臣は果てしなく忠誠心だけ持っている。
プロットだけで上下巻もっていく力量こそが放送作家出身の技なのかもしれないが、もうすこし人物に陰影があってもよいと思う。