眼の前を大きな熊が走っていた。
午前4時半過ぎ、狭い山道のカーブを曲がった時のことだ。
車の音に驚いて逃げ出したのだろう。
水芭蕉で有名な鬼無里の奥裾花自然園の駐車場少し手前だった。
熊の毛は固くてゴワゴワしているものだと思っていたが、近くで見るとふさふさしているのが意外だった。
体長1.5メートルといったところだろうか。
不思議と現実感がなかった。
車の中ということもあって、不思議と怖いとは思わなかった。
熊はしばらく車の前を走ってやがて枠の草むらの中へ消えて行った。
ここはそれほど奥深い山の中なのだ。
元々熊たちの住処だったところにお邪魔させていただいているのだということが肌で感じられた。
駐車場について身支度を整え、歩き出すときは、さすがに少しためらった。
だが、決心して歩き出す。
木の上では猿が沢山食事をしていた。
5時少し前は、もうすっかり明るくて、自然界では朝食の時間なのだろう。
用心にために熊よけ鈴を手に持って盛大に鳴らしながら自然園までの2キロのアスファルトの道を歩いた。
この時間、日曜日とはいえ、駐車場には他の車はなく、当然誰も歩いていない。
ここから水芭蕉園への道と分かれ、山道へと入っていく。
熊は用心深い動物だという。
だが、耳の遠い熊がいたらどうしよう、とか、好奇心旺盛な熊がいないとも限らない。
音の正体を確かめに来るかもしれない。
そんなことを考えながら登る。
予定は稜線に出て、右に行き奥西山から堂津岳、引き返して同じ稜線上を左に行き、中西山から東岳、引き返して下山する。普通のコースタイムは14時間30分ほど。
嘗ては藪山のため、残雪期にしか登れない山だったという。
数年前、夏道が開かれた。だが、あまり人が登らず、手入れも頻繁には行われていないらしい。
1時間ほどで稜線に出た。
周囲はガスが沸いて展望は利かなかった。
稜線上は緩やかな上り下りが続く。
根曲竹の切り株が沢山あり、うっかり転ぼうものなら竹やりになって体に刺さりそうだ。
ユウレイダケともいわれるギンリョウソウ。
野沢菜採りの仕事が一段落して、やっと山へ行けるようになった。
信州百名山の先輩は、『あと19も登る山が残っているなんて羨ましい』といった。
そういう見方があるのだなあ。今、自分はずいぶん贅沢な時間を過ごしているのだろう。
本日はここまで。
大阪で大きな地震があった。犠牲者の皆さんに心からお見舞いを申し上げる。
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