昨日、横田さん(仮称)が外来にやってきた。
うちの病院の緩和ケア科外来は残念ながら、マンパワーの不足で外来フォローを行うことができません。
緩和ケア病棟への入院を受け入れるための外来しかできません。
ですから、ご本人が外来にやってきても、もともと患者さんを診てくださっている病院でのフォローをお願いして、入院の時期がきたら受け入れるという形をとっています。
ですから、うちの緩和ケア科の外来は家族診という形をとります。
患者さんが受診されることはわずかです。
横田さんは例外でした。
外来フォローができない緩和ケア科外来しか開くことができていない状態では、緩和ケア科外来にご本人が受診されるときには、正直にいうと、私はどきっとします。
化学療法などの治療ができなくなった段階で早めに受診してくださる患者さんも増えました。
ご本人やご家族にとっては複雑な気持ちであることには違いないのですが、そのあとの時間の過ごし方を考えると、医療者としては望ましいことだと思います。
なぜ、私がどきっとするかというと、患者さんがうちの緩和ケア科外来を受診されるときには、横田さんのように「例外」の場合があるからです。
それは、もともと治療を受けているまたはかかりつけ医としての病院があるにもかかわらず、入院を希望されて受診されるからです。
理由は、ひとつ。
かかりつけ医となる病院から十分なケアを受けることができないから。
横田さんがそのような感じでした。
外来の診察室にご案内するために声をかけた時、横田さんの表情はこわばっていました。
このままでは診察室へ歩くのも難しいのでは、と思えたので、すぐさま車椅子を持っていきました。
横田さんは、車椅子に移るときに、「あああああっ」と大きな声を出しました。
痛くて痛くて、悶絶しておられました。
診察室に移っていただいた後、事情を伺いました。
ご家族はとにかく、うちの緩和ケア病棟での入院を希望されていました。
正直にいうと、うちの緩和ケア病棟では緊急入院の受け入れはないので、困り果てました。
うちの外来を受診される前日、この地域のがん拠点病院である病院を受診されておりました。そこには、緩和ケア科外来があります。
しかし、その病院の緩和ケア科外来を受診されることなく、なんらかの痛みに対する手立てが施されることなく、当院に紹介となっていました。
その、前日。
ご本人にその病院の医師から説明がありました。
「もう、治らないのだから、残りの時間を大切にするために、緩和ケア病棟に行きなさい。」
横田さんはがんであることは知らされていましたが、「治る」と思っておられたそうです。
前日に相当な衝撃を受ける説明を受けられたその翌日。
痛みに悶絶しながらうちの外来を受診されました。
緩和ケア医とともに、ポンは唸りました。
時間は17:00を過ぎている。
どうも、痛みとともに吐き気を訴えておられる。ひょっとして、肝臓がんなので、血腫で肝被膜が伸展されて嘔気を訴えているのでは…、ひょっとして、予後がすごく短いのでは…。
緩和ケア医は一般病棟への緊急入院を考えていました。
病院のシステムとしたら、それが筋ですが…。
病院の現状と、3連休を考えると、一般病棟での緊急入院よりも緩和ケア病棟への入院が妥当だと、私も緩和ケア医も判断しました。
病棟に連絡を入れて、緩和ケア病棟での緊急入院を受け入れました。
病棟は緊急入院の受け入れで、どよよーんとした雰囲気。
入院の受け入れを手伝ってくれたのはとてもありがたかったけど、受け入れを担当してくれるスタッフは誰もいなかったので、ポンが担当することになりました。
そして、検査をした結果。
横田さんは、高カルシウム血症、高アンモニア血症であることがわかりました。
疼痛は治療で入院後1時間で、半分に減りましたが、予後としてはかなり厳しい状態。
翌日である、今日、昨夜を七転八倒しながら過ごした横田さんは、ご家族との話し合いによって、鎮静になりました。
緩和ケア病棟のスタッフからは、緊急入院の受け入れがあったことに非難の嵐。
この経過で思うことが多々。
うちに紹介される前に受診されていた病院ではなぜ、何もケアがなされなかったのか。
苦渋の決断であったにもかかわらず、非難という形でスタッフから業務優先の意見が出たことへの悲しさ。
横田さんにできることは限られていますが、あの悶絶するような状態でご家族ともに、悲鳴を上げるような時間を過ごさなくて済んだということに、今回の入院はこれでよかったのだと、受け入れは間違っていなかったのだと、私は思います。
ただ。
周りには不穏な空気が漂います。
それは常に漂っていることで。
横田さんが今晩、少しでも楽な時間を過ごせることを願いつつ…。
私の今の病院でのモチベーションは底をつきつつあり、限界を感じています。
四面楚歌です。
患者さんが前病院で何らかのケアを受けられなかったことはとても、とても残念ですが、それよりもスタッフの反応がとても悲しいです。
