花粉を飛ばすように

2006-09-27 06:38:34 | Notebook
    
鯉江良二さんという陶芸家が愛知県にいらして、その作品を拝見したのはもうずいぶん以前のこと、ある雑誌の口絵だった。斬新で、ちいさな子どもの泥遊びの趣があって楽しく、しかし美しく澄んでいた。
その口絵に添えられたご本人の言葉も素晴らしかった。とくに鮮烈なのは「作品に失敗などない」というもので、どんな焼き物も、たとえ水が漏れるような茶碗であっても、それは失敗作ではないというのだ。こういうことを言う画家はいるが、陶芸家がおなじことを言うのを聞くのははじめてだった。
それから、「花粉を飛ばすように、作品をたくさん創りたい」というようなことを言っておられた。それ以来、わたしにとって「花粉を飛ばすように」はお気に入りの言葉になった。

そのお姿を見ることができたのは、その雑誌からまもなくのこと、なんの気なしにつけたテレビに映っていた小父さんが、鯉江さんその人だった。いたずらっ子みたいな日に灼けた顔で、いつも笑顔でくしゃくしゃ。日なたの匂いのしそうな、着心地のよさそうな白いTシャツを着ておられた。
ろくろを回しながら、赤ちゃんみたいな頭を左右にまわす仕草がおもしろかった。

孫悟空が髪の毛をむしって、ふっと息を吹きかけると、小さな孫悟空がいっぱい生まれる。分身の術。鯉江さんが次々作品を生みだすようすを見ていると、孫悟空が分身をばら撒いているみたいだなと思った。