「そう言えば、あの時、自転車に載せてきてくれたのは、空君でしたっけ?」
ヤマさんが、思い出したように、加藤のおじいちゃんに尋ねた。
「嫌、空じゃなくて星だったと思うよ。私が、渚ちゃんを助け起こした所に、ちょうど星が、学校帰りに、通りかかって、自転車に載せたんだと思うよ。」
「そうでしたっけね。空君だったら、赤い糸で結ばれていたんだって話になりますけど、それじゃあ、出来過ぎですもんね。」自分で言っておきながら、照れるヤマさんに、マスターが、「ヤマさんって見かけによらず、ロマンチストだからね。」と、からかった。
「見かけによらずは、ひどいや。長居すると、マスターに、からかわれるから、退散しなくちゃ」と、言ってヤマさんは、帰って行った。
「あの頃は、素直な中学生だったんだけど、もう今では大きくなりすぎて、私の言う事なんか、聞いてくれなくてね。」
マスターには、加藤のおじいちゃんが、何を言いたいのか、聞かなくてもわかる。
もうすぐ、亡くなった星の母親の四十九日が、やって来る。
多分、星は、納骨にも、立ち会わないつもりなのだろう。
「ホットケーキでも、作りましょうか?」
敢えて、そのことには、触れずに、話をそらそうとするマスターの心遣いに、加藤のおじいちゃんも、気づいたのか、「そうしてくれると、嬉しいね。」と、答えた。