三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

「民主主義国」は国際的に立憲民主的か?

2023-11-25 00:12:23 | 国際政治
 前回、当ブログ2023.11.21「イスラエルによる国家テロを許すな」をアップした。

 その後も、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区の人々への虐殺・集団懲罰が続いている。2023.11.22、イスラム組織ハマス側が拘束した人質の一部開放と4日間の「戦闘休止」などで、ハマスとイスラエルの間で合意に達した。だが、予断を許さない状況だ。

 私は当ブログ2022.7.31「ロシアは悪、ならば、米国は善か?」で、ロシアによるウクライナ侵略(*2014年に始まり2022年2月から全面侵略)を批判しつつ、米国による2003年以降のイラクへの軍事侵攻も国際法違反の侵略だと批判した。その上で、以下のように述べた。

〈国際法を蹂躙し続けるイスラエルへの肩入れも、正義と国際立憲主義に反するのではないか? 米国による支持・支援によって、又は「曖昧対応」「見て見ぬふり」によって、イスラエルによる不正義・不法が、「野放し状態」にされ続けているのではないか?〉
*「国際立憲主義」については、当ブログ2015.12.19「最上敏樹『国際立憲主義とは何か』から学ぶ」を参照されたい。

〈パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区などでのイスラエルによる入植活動は、明らかに国際法に違反する行為だ。だが、米国政府は、イスラエルを擁護、あるいは、「軽い苦言」を伴う「実質容認」の姿勢を採り続けてきた。米国政府は、イスラエル政府に乗っ取られ、操縦されているかのようだ。

 トランプ前大統領に至っては、明らかな不法行為であるにも拘(かか)わらず、「イスラエル擁護」あるいは「支持」の言動を繰り返した。トランプ政権は2019.11.18、イスラエルによるパレスチナへの入植活動について、「国際法違反と見なさない」と発表した。あからさまな方針転換だ。この米政府の決定に対し、パレスチナ解放機構(PLO)の交渉担当者は、「国際法を『ジャングル法』に変えてしまう恐れがある」と批判した。〔*WEB「BBC NEWS JAPAN」2019.11.19参照〕〉

〈ロシアによる今回(2022年)のウクライナ侵略戦争は、「国際法を『ジャングル法』に変えてしまう恐れ」が、まさに、現実化した実例と言える。

 こうして見れば、米国による一連の言動は、ダブルスタンダードであり、「説得力に欠ける」と言わざるを得ない。〈ロシアの行為は不当で許されないが、イスラエルの行為は正当(又は「不当ではない」「許す」〉なる内容の言説に、論理で説得される人はいないだろう。〉

〈米国はまず、「イスラエルの後見国」的な立場から、脱却すべきではないか。もしこの方向に進むなら、現在の「イランとの無用な対立」を緩和でき、中国とロシアによる「イラン囲い込み」に楔(くさび)を打ち込めるはずだ。こうした方向性こそが、中東、ひいては世界の安定にもつながり、米国の国益にもつながる、と思うのだ。〉

《当ブログ「ロシアは悪、ならば、米国は善か?」の引用ここまで》

 米政府は「自由と民主主義の価値観を守る」と称し、自国や「お友達」諸国を「民主主義国」と位置づけ、それが無理筋な場合には「米国の友好国」と誤魔化して、「自国連合」の行ない・軍事的行動を正当化してきた。この「民主主義国」「自国連合」の中心には、常にイスラエルが鎮座している。

 これまでも、米国のこうした「自国連合」擁護の言動に対し「二重基準」(ダブルスタンダード)との批判が渦巻いていた。それでも、米国によるプロパガンダが一定の功を奏し、うまく誤魔化し続けてきた。だが、2022年以降の「ロシアによるウクライナ全面侵略」と今回の「イスラエルによるガザ市民へのジェノサイド(集団殺害)と米国のイスラエル全面支持の姿勢」を目の当たりにした大多数の人々は、米国の二重基準のうさん臭さを確信しただろう。

「ロシアによるウクライナ全面侵略」に対する米国の「ロシア批判・ウクライナ支持」の言動は、「民主主義国の親玉たる米国の正義」のイメージにうまくはまり込み、多くの世界市民から支持された。

 それがどうだ? 今回の「イスラエルによるガザ市民へのジェノサイド(集団殺害)」に対しては、国際法も人権も社会正義も後景に押しやり、「イスラエルを全面支持する」と言う。それでも、イスラエルの蛮行によって国際および国内の世論が「イスラエル批判」に傾くと、微妙に軌道修正しつつある。1年後の米大統領選挙の情勢が「接戦州」を中心に急速に悪化していることが、影響しているようだ。

 世界中の大多数の人は、米国の言動は明らかに二重基準であり、「『民主主義国』の親玉たる米国」の謳う「民主主義」「正義」は「自国と『お友達』諸国の利益擁護」のためにつくり出された偽物である、と確信した。

「民主主義」とは何か? 「古代ギリシャで……」という説明はさておき、米政府の考える「民主主義国」とは、「市民による自由選挙で選ばれた代表者が権限を行使する政治形態の国家」「言論・報道・信教の自由が保障され、自由を守る政治形態の国家」といったことではないか。〔A〕

 この基本は、日本を含む「民主主義国」と言われる諸国に、イスラエルも含めてだが、共通する理念だと思う。もちろん、米国にしても他の「民主主義」諸国にしても、この基本原則に様々なオプションが付いたり、又は恣意的な解釈によって、本来の民主主義が歪められる懸念もあるだろう。

 私は、上記Aの民主主義の基本理念に大いに賛同する。「自由選挙」と「言論・報道の自由」こそが民主主義の基本だ、と思っている。

 だが、国内的に「民主主義」だからといって、その国が国際的に常に正しい行ないをするとは限らない。というより、現状を概観すれば、国際社会に於いて「国内的な『民主主義国』=国際立憲主義国」という定義は全く成り立たない。さらに言えば、「国内的な民主主義」と国際立憲主義を併せ持つことなく、強力な軍事力と政治的意志が加われば、他国の権利を蹂躙する強圧・侵略国家になりかねない。

 米国にしてもイスラエルにしても、国内的には一応「民主主義国」であるため、国内有権者の意見は無視できない。だが原理的には、諸外国の意見や国際世論に対して、国益に重大な損失を与えるか有権者の意向に影響しない限りは無視できうる。要するに、国内的な制度としての「民主主義」は、国際立憲主義を担保(保証)しないのだ。もちろん、従属的な相互依存関係が国際的に密であれば、国益面での縛りもあるだろう。だが、米国などの超大国・軍事強国がバックについていれば心配無用だ。

 ただし、そうした「国内的な民主主義国」に於いて、国民の間に国際的な人権意識や立憲民主主義の意識が十分に高まるなら、「国際立憲主義的な国家」にもなり得るだろう。

 だが、米国にしてもイスラエルにしても、そうした「成熟した市民」が社会を国際立憲民主主義の方向に変えるまでには至ってない。というより、徐々に悪い方向に進んでいるようにも見える。心配だ。いずれにしても、市民を「良い方向」に誘導する努力も必要だろうが、同時並行で、国連など国際機関の制度改革も急務だと思う。

 そうでなければ、「民主主義国」と言われる国が「自国民を守るために、脅威となりうる人々を抹殺しても良い」との方針の下、国内の形式的な「民主的」手続きを経たうえで、他国や特定民族の人々を大量虐殺することも正当化されかねない。つまり、「(国内的な)民主主義」の名の下で国際立憲民主主義が蹂躙されかねないのだ。現実を見てほしい。

 米国は国連安保理の常任理事国であり、自国やイスラエルが不利になる採択案に対し、これまで拒否権を行使し続けてきた。だからこそ、イスラエルはパレスチナ自治区などでやりたい放題の非道・蛮行を続けることができた。

 もちろん、ロシアについても同じようなことが言える。自国や「お友達」の国々が不利になる採択案を葬り去ることができるし、実際そうしてきた。

 私は、非民主主義国・集権国家・独裁国家などと言われる諸国に対し、「政治の改善力」を含めて根源的な問題があると思っている。それゆえ、「(国内的な)民主主義国」と言われる諸国のほうが「非民主主義国」と言われる諸国より、人々の覚醒による「政治の改善力」が格段に大きく、国際的に立憲民主主義的な国になる可能性が高いと思っている。

 だが実際は、「国内的な民主主義」の体裁を採っていても、「国際的な立憲民主主義」とは対極の国が出現する可能性も常にある。その典型が、現在のイスラエルではないか。米国にも同種の懸念があるが、同時に、「復元力がある」と信じたい気持ちもある。甘すぎる見方だろうか? 今後どうなるか分からない。一年少し後には、さらに悪い方向に突き進む可能性もある。

 日本は、そうした米国と安全保障面でより強固な関係を追求しようとしている。このまま米国と「運命共同体」を形成するのか? 私は〈今一度立ち止まり、あらゆる可能性を考え、熟考する必要がある〉と考えている。
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