三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

ガザ・ウクライナ虐殺と旧日本軍

2024-06-24 15:47:51 | 歴史認識・社会論
 社会民主党の機関紙「社会新報」に、「ガザ・ウクライナ虐殺と旧日本軍」を寄稿した。署名記事。編集部の許可を得たので、以下に転載する。

「社会新報」2024.6.13号4-5頁
「ガザ・ウクライナ虐殺と旧日本軍 一般市民の犠牲を顧みない侵略戦争 蛮行の実態、今と昔」
  (ルポライター・星徹)


【リード文】
 ロシアによるウクライナ全土への侵略戦争は今も続き、多くの市民が殺傷されている。イスラエルは昨年10月にイスラム組織ハマスなどから襲撃されたことを受け、パレスチナ自治区ガザ地区内のパレスチナ人を、無差別に近い形で虐殺し続けている。

 こうした惨状は、日本がかつて中国などアジアで行なった侵略戦争の実相とも重なる。現在起きている事態を知るとともに、自国の過去についても振り返る必要があるのではないか。

【本文】
 ロシアは一昨年2月、ウクライナ全土への軍事侵略を開始した。ロシア軍は2014年に侵略したクリミア半島とドンバス地域からさらに支配地域を広げ、多くの市民や捕虜を虐殺している。

 全面侵略当初、首都キーウ近郊のブチャなどを占領し、周辺集落を含めて1400人以上の住民を虐殺した。その際、拷問やレイプを伴う事例が頻発した。

 そしてパレスチナのガザ地区(人口約230万人)では、イスラエル軍が市民の犠牲を顧みることなく虐殺を続けている。地区内の死者は3万6000人を超え、うち約7割が女性や子どもだ。さらに1万人以上の遺体ががれきに埋もれているという。

「衝突」は昨年10月に始まったのではない。1948年のイスラエル建国以来、パレスチナ人はイスラエルから不当に土地を奪われ、弾圧・虐殺され続けてきた。ガザ地区は「天井のない監獄」と化し、人々は自由と人間の尊厳を奪われてきた。ヨルダン川西岸地区はイスラエル軍に実質的に支配され、国際法違反の占領地への入植によって侵食され続けている。

敵絶滅へ「三光作戦」
 日本の善良な人たちは、昨今のウクライナやパレスチナ自治区(特にガザ地区)の惨状を見聞きし、「何てひどいことをするんだ」と憤るだろう。だが、かつて日本がアジアで行なった蛮行を同時に思う人は、どれだけいるだろうか。

 都留文科大学名誉教授の笠原十九司(中国近現代史・日中関係史)は、著書『日本軍の治安戦 日中戦争の実相』(岩波現代文庫・2023年)の「文庫版あとがき」で、「ロシア・プーチン政権のウクライナ侵攻を国際法無視、人道法蹂躙と糾弾、非難する日本人のどれほどが、日中戦争における『治安戦』において、日本軍が現在のロシア軍をはるかに凌駕する規模で、侵略、加害、破壊行為を繰り広げたことを知っているのだろうか」と述べている。

 1890年、当時の山縣有朋首相は、日本の独立・自衛のためには主権線だけでなく利益線(主権線の安全に密接な関係のある隣接地域)を防護する必要性を訴えた。

 日本は利益線を朝鮮半島→満蒙→華北(「満州国」を除く中国北東部)→中国全土→東南アジアへと広げ、国際法と国際協調を無視して侵略戦争を推し進めた。

 同書の「プロローグ」で笠原は、共産勢力が支配を強めた華北(山東省を含む)を中心に1940年から43年にかけて旧日本軍が行なった燼滅掃蕩(じんめつそうとう)作戦──中国側が三光作戦(三光政策。焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす)と呼ぶ残虐行為について、次のように語っている。

「抗日根拠地(略)や抗日ゲリラ地区(略)は『敵地区』『敵性地区』といっぽう的に断定し、民衆もふくめて何をやってもかまわない、戦時国際法、国際人道法の適用など考慮する必要がない、共産主義という『悪』を根絶・絶滅するのに手段を選ぶ必要がないと考えた」

 その大目的は、華北を「第二の満州国」化し、アジア太平洋戦争の戦力の培養補給基地とすることだった。

初年兵教育で殺害
 実際に中国でどのようなことが行なわれたか。かつての兵士たち自身が、深い悔恨とともに語っている。

 鈴木良雄は20歳で徴兵され、1940年12月に中国山東省内で独立混成旅団に配属された(後に第59師団)。

 初年兵教育の最後に、野良着姿で杭(くい)に縛りつけられた中国人男性3人を銃剣で突き刺す実的刺突が行なわれた。鈴木が真っ先に突進し、他の20人ほどが続き、3人をめった刺しにして殺害した。

 こうした実的刺突は、筆者がかつて取材した「華北で初年兵教育を受けた」旧日本軍兵士の多くが経験している。

 鈴木の属する部隊はその後、山東省内の「敵性地区」で集落掃蕩を繰り返し、住民を拷問・殺害した。強かんも日常茶飯事だった。「準治安地区」でも、古年兵に命じれ、鈴木ら初年兵数人で全裸の女性6~7人を銃剣で刺殺したこともある。

 金子安次も徴兵され、40年11月に同省内で同じ独立混成旅団の別の大隊に配属された。金子も初年兵教育で実的刺突を経験した後、集落掃蕩で住民への拷問・殺害に加わるようになった。口から熱湯を流し込んで殺害したり、押切りで首を切断するのを手伝った。

 金子自身が古年兵になると、住民の体によしずを巻き付けて焼き殺すなど、率先して殺害するようになった。また、女性を強かんした。

 永富浩喜は42年から山西省で独立部隊の部隊長として蛮行を主導した。

 永富はかつて筆者に対し、「部下にやらせたものも含めると、300人近くの中国人を殺害した」と語った。

 以下は、戦後の軍事法廷で明らかにされた罪行の一部だ。

●43年2月、聞喜県で住民3人をやりで刺殺。部下も5人を刺殺。
●同3月、同県で約70人の住民を殺害。
●同10月、沁源県で十数人の女性や子どもなどを殺害。
●44年10~11月、霍県で7人を拷問・殺害。

 永富は筆者に対し、「上から『(敵性地区では)中国人は見つけしだい殺してしまえ』と命じられていた」と語った。

 山西省などでは、こうした蛮行だけでなく、中国人に対する生体解剖が旧日本軍の管理下で日常的に行なわれていた。

 軍医だった湯浅謙は、山西省内で7回にわたり14人を生体解剖した。

 渡部信一は初年兵教育中、山西省内で生体解剖の助手を務めた。歯科軍医将校になった後も、「満州国」の陸軍病院で生体解剖に関わった。

 湯浅と渡部も、筆者に詳細を語った。

虐殺の現在と過去
 ロシアはウクライナ侵略を正当化する根拠として、「ロシアの『利益線』つまり勢力圏がNATO(北大西洋条約機構)諸国によって脅かされている」「ネオナチにロシア系住人が迫害されている」という趣旨を挙げている。

 こうした主張と行動の全体像は、日本の三光作戦を含む中国侵略戦争に類似するのではないか。

 ただし、ブチャ虐殺などは、三光作戦というより、「予見・制御可能にもかかわらず国家中枢が放置した暴走」といえる37年末の南京事件(南京大虐殺)に近いのではないか。

 イスラエルはパレスチナ人を非人間化・テロリスト化することで、自国による国際法無視のアパルトヘイト(人種隔離政策)・集団懲罰・ジェノサイド(集団殺害)を正当化しようとしている。全体として見れば、日本の三光作戦を含む中国侵略戦争と同類の蛮行と考えられる。

 私たちは過去から学ぶとともに、現在を直視する必要がある。(敬称略)

■文中の5人の中国出兵証言者は、戦後に反省の意を込めて自らの罪行を証言し続けた。星徹『私たちが中国でしたこと─中国帰還者連絡会の人びと─〔増補改訂版〕』(緑風出版・2006年)を参照されたい。

■星徹(ほし・とおる)
 共著に『南京大虐殺 歴史改竄派の敗北─李秀英名誉毀損裁判から未来へ─』(教育史料出版会)や『南京大虐殺と「百人斬り競争」の全貌』(金曜日)など。ブログ「三酔人の独り言」。

《「社会新報」記事の引用、ここまで》

 中国帰還者連絡会に関心のある方は、当ブログの以下記事も参照されたい。

当ブログ2019.7.26「中国帰還者連絡会とは何か?」
同2019.8.8「撫順・大連にて──中国帰還者連絡会の人々を想う」
同2019.8.18「中帰連から私たちが「受け継ぐ」べきこと」
同2019.9.7「日本人加害兵士らへの中国人の思いとは」


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