三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

日本の原発回帰政策の貧困

2024-09-08 09:43:56 | 環境・原発問題
 2011年3月に発生した東日本大震災〔*地震と津波など〕によって、東京電力福島第一原発(全6機)は大事故を起こした。

 この詳細について、ここでは語らない。だが可能性としてだが、現実よりはるかに甚大な被害の可能性も十分にあり得た。

 あの原発大事故から約13年半が経過した。事故からしばらくは、「原発はもうイヤだ」「脱原発しかない」という思いを抱く国民〔*日本に住む人々〕が多数を占めていた。だが、事故から7-8年もすると、原発回帰を望む人が徐々に増え、政府の姿勢もこの方向に傾き始めた〔*「後者が原因で、前者が結果」という見方もできる〕。。

 「朝日新聞」2024.9.7朝刊「自民党総裁選2024 政策検証5 GX旗印に 進む原発回帰」が掲載された。GXは「グリーン・トランスフォーメーション」の略語で、岸田文雄政権が「脱炭素社会を実現するために原発回帰と自然エネルギー推進をする」という趣旨で打ち出した政策だ。

 当該記事のうち、重要部分は以下の(1)~(6)。
 *(3)と(6)は引用。それ以外は要約。

(1)岸田政権がGXを旗印にした原発回帰政策へ流れを変えた切っ掛け(の1つ)は、(2022年2月に始まった)ロシアによるウクライナ全面侵攻に伴う資源価格の世界的な急騰だ。

(2)昨年(23年)2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」では、「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」との政府方針が明記された。同年5月には、原発の運転期間を延長する「GX脱炭素電源法」を成立させた。

(3)高橋洋・法政大学教授は「極めて短時間で、唐突に原発の新増設が決まった。GXが目的ではなく、手段として使われていないか。原発は国民を交えた議論で合意形成すべきだ」と話す。

(4)岸田首相は今年8/27のGX実行会議で、「残された任期の間に、GXを一歩でも前進するために尽力する。その一つが原発の再稼働の準備だ」と宣言した。

(5)自民党総裁選に出馬する意向の小泉進次郎と河野太郎の両議員は、これまで「脱原発」を持論としてきたが、(最近は)態度を軟化させている。

(6)23年に朝日新聞が実施した世論調査では、原発の再稼働に「賛成」する人が、初めて「反対」を上回った。

 このGX政策に関しては、当ブログ2023.5.17「原発推進GX関連法案の非合理性」同2023.6.1「原発推進GX関連法成立のご都合主義」で既に述べた。参照されたい。

 要するに、日本の将来を広い視野で合理的に考えるならば、原発回帰の方向に舵を切ることは極めて不適切、と言わざるを得ない。

「世界の流れは原発回帰」いう現象面の事実を認めるとしても、大地震リスクとそれに伴う津波リスクの極めて高い日本に於いては、独自の合理的リスク評価が必要不可欠なはずだ。

 上記「当ブログ2023.5.17」でも、こうした観点から論を進めた。加えて、安全保障リスクの重要性についても指摘した。この両リスクを併せ考えれば、日本が原発を「保持し続ける」又は「さらに増やす」ことの合理性は極めて低い、と言わざるを得ない。

 政府や原発推進論者らは、GX推進の理由として「エネルギー需要の増大」を挙げる。だが、上記「当ブログ2023.5.17」でも述べたように、エネルギー需要の「意図的なかさ上げ」の結果としての「供給不足」であることを、忘れてはいけない。要するに、「マッチポンプ的な政策」の結果なのだ。

 原発回帰を画策する人たちは、自らに好都合な「エネルギー安全保障のリスク」をより過大に評価し、不都合な「地震のリスク」や「安全保障のリスク」をより小さく評価しているのではないか。こうした姿勢を、一般的には「ご都合主義」と言う。

 一般論で言うなら、日本政府は「中長期的な責任」を問われることはほとんどない。多くの首相の在任期間は数年であり、その政権の寿命も同じ、と言える。要するに、政権の現時点での失敗の責任は、10年後や20年後に問われる可能性は極めて低いのだ。

 また、政権を支える与党の国会議員の任期は、衆院議員で最長4年、参院議員は6年だ。再選はありうるが、有権者の多くは昔の議員の言動など覚えていない。

 それゆえ、全体としてだが、国会議員は「短期の個人的損得」〔A〕や「短期の国家的損得」〔B〕を重視する方向に傾きがちになる。例外はあるにせよ、「全体的としてのベクトルは」ということだ。

 Bを重視するなら、まだ救いはある。だが、たとえそうだとしても、動機としては尊いかもしれないが、「国民の幸福と全体的利益」という観点から見れば、合理的とは言い難い。

 私たちは、こうした「人間の性(さが)」を正面から受け止め、短期・中期・長期の全体像を理性的に見極めた上で、日本の進むべき方向について真剣に考える必要がある。
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