三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

劇場テロで思うロシアのブラックボックス

2024-03-24 18:01:49 | 国際政治
 2024.3.22の午後8時頃(現地時間)、ロシアの首都モスクワ近郊のコンサートホール内に武装集団が押し入り、銃撃等により130人以上を殺害した。その上で、ホールは放火され、火災が発生した。。

 このテロが発生した後、「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。

 ロシア連邦保安局(FSB)は、車で逃走した実行犯らをウクライナ国境付近で拘束した、と発表〔*「朝日新聞」2024.3.24(朝刊14版)1面〕。

 また、ロシアメディアは、容疑者が「(依頼主の)名前は知らない。約100万ルーブル(約160万円)を約束された」と話す、尋問中とみられる映像を公開した〔*同2面〕。

 プーチン大統領は、3/23の午後になって、国営テレビで「ウクライナ側には、国境を越えるための窓口が用意されていた」と述べ、ウクライナ側による協力の可能性を示唆した〔*NHK NEWS WEB2024.3.24「モスクワ テロ事件 ウクライナのゼレンスキー大統領は否定」参照〕。

 これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナの関与を否定した。また、同国外務省は、「ロシアによって計画された挑発で、動員拡大のきかっけにしようとしている」と強く非難する声明を発表した〔*「朝日新聞」同2面〕。

 結局、真相は「藪の中」で、この「テロ」の中枢・黒幕が「どこの誰」なのかは、現段階で断言できる状況にはない。というか、ロシアの独裁体制が崩壊しない限りは、「〇〇が怪しい」とか「××の情報を得ている」とか「△△の命令を受けて自分が関与した」等の重要証言が出てきたとしても、半永久的に「実相は不明」となる可能性が高い、と思うのだ。

 これまでの情報から考えて、以下のような可能性が考えられる。

(1)ISによる単独テロで、ロシアは全く関与せず。
(2)ウクライナとISのコラボによるテロで、ロシアは全く関与せず。
(3)ISによる単独テロだが、ロシアは事前に情報入手するも犯行を放置。その上で、「実行犯がウクライナに逃げ込もうとした」という工作に関与。
(4)ロシア政府〔*実働はFSB〕の主導による自作自演。ISによるテロ情報を利用し、もしくは「相乗り」するなどして、計画および実行。「実行犯」らがウクライナに逃げ込もうとしていた、という「仕込み」も。
(5)上記以外のケース。

 細かく分ければキリがないが、大雑把に分類すれば上記の5つになるのではないか。

 私は、上記(2)の「ウクライナも関与」に関しては、動機面からして「可能性は極めて低い」と考える。ウクライナにとって「プラス面はほとんどなく、マイナス面が極めて大きい」「プーチンの独裁体制を利するだけ」だからだ。

 (3)と(4)に関しては、動機面から見れば十分に「考えられる」ストーリーだ。まず、ロシアはプーチン独裁体制であるため、何をやっても「真相は藪の中」状態にできうる。それに、民主国家であれば「テロを防止できなかった責任」が問われかねないが、プーチン体制では心配無用だ。かえって、「テロを受けるロシア」「邪悪なウクライナに対する正義の戦争」などと国民意識を煽り立て、今後の兵力大量動員への弾みをつけられる。

 だが、もし(3)や(4)だとしても、ロシア国内でも国外でも、プーチン独裁体制が続く限りは「決定的な証拠」は得られないだろう。たとえ得られたとしても、権力者・独裁者が手の指で4を示しても「5だ」と断言すれば「5が正解」になる《二重思考》の国なのだから、事実が葬り去られる運命にある〔*ジョージ=オーウェル著『1984年』(ハヤカワepi文庫、新訳版2009年)参照〕。
 *当ブログ2024.1.6「ロシアの偽の〝民主政体〟から学ぶ」参照

 要するに、独裁者の望むとおりに〝真実〟を「創り出せる」のだ。もちろん、この〝真実〟に事実が何%含まれているかは、その独裁者の「さじ加減次第」ということになるだろう。

 プーチンが首相に就任した1999年8月から9月にかけて、モスクワの集合住宅などで連続爆弾テロ(約300人死亡)が発生した。プーチンは、この一連のテロが「チェチェン独立派武装勢力による犯行」と断言し、チェチェンへの「皆殺し」に近い武力侵攻に踏み切った。この〝功績〟が国民から認められ、プーチンは大統領にまで上り詰めた。

 だが後に、英国に亡命していたFSB元職員アレクサンドル=リトビネンコがこれら「連続爆弾テロ」について「FSBが仕組んだ偽装テロだった」と証言した。だが、リトビネンコは数年後に毒殺されている。

 他にも、プーチン・ロシアでは、政権に不都合な言動を為した数多くの人が暗殺されたり「謎の死」を遂げている。

 最近で言えば、昨年8月、ロシアの傭兵組織「ワグネル」の創設者のエフゲニー=プリゴジン氏が反乱を起こした後に「小型飛行機が墜落」して死亡している。

 また今年2月、ロシアの反体制派指導者アレクセイ=ナワリヌイ氏が極北の刑務所で「謎の死」を遂げた。

 プリゴジン氏とナワリヌイ氏の死に関して、「プーチンが殺害を命じた」という決定的な証拠は今のところない。
*ただし、ナワリヌイ氏の死に関しては、「故意に極めて劣悪な環境の刑務所に入れた」ことからしても、少なくとも「未必の故意の殺人」に近い重大な責任がある、と言わざるをえない。

 要するに、現在のプーチン・ロシアに於いては、プーチンは自身の思いどおりに「人を殺す」ことができ、しかも「罪に問われる」ことはない。権力を失わない限りは、なのだが。

 結局、大本の問題として、「言論・報道の自由」「自由で公正な選挙」「三権分立」を基本とする民主主義がない又は極めて不十分なロシアに於いては、権力者・独裁者の意のままに〝真実〟が創り出され、全てがフェイクになりうる。だからこそ、この民主主義の形式こそが重要なのだ。

 *当ブログ2024.2.22「ジェノサイドUSAとロシア「良い国」化の悪夢」参照

 今回のコンサートホールでの「テロ」の話に戻る。結局、現在のロシアは「プーチンの好きなようにできうる」状況がベースにある、ということだ。ただし、「できうる」と「やった」はイコールではないのだが。

 私たちは、自国を現在のロシアのような国家にしてはならない、と肝に銘じる必要がある。
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