三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

対イスラエル 日米欧は長崎市を見習え

2024-08-09 23:19:07 | 国際政治
 長崎に原爆が投下されて79年になる2024.8.9、長崎市で同市主催の平和祈念式典が行なわれた。長崎市は、ロシアとベラルーシと共にイスラエルも招待しなかった。

 G7〔米・英・仏・独・日・伊・加〕のうち日本以外の6か国とEUの駐日大使らはこの「イスラエル不招待」に反発し、式典に参加しなかった〔*格下の人物が参加〕。

「欧米6か国+EU」は、少し前に「イスラエル不招待」の長崎市の方針を知り、7人の駐日大使らは連名で「イスラエルを式典に招待しないことは、式典に招かれていないロシアやベラルーシのような国とイスラエルを同列に扱うことになり、不幸で誤解を招く」などと懸念を示していた。

 英国の駐日大使は8/6、記者団に「ロシアやベラルーシと違い、イスラエルは自衛権を行使している。同様の扱いをしては誤解を招く」などと述べていた。
 朝日新聞2024.8.8朝刊「米欧6ヵ国大使、式典欠席へ」参照

 英大使の「イスラエルは自衛権を行使している」という言は、国際法上は全く通用しない戯言(ざれごと)だ。こうした滅茶苦茶な主張を公然と吐けるのは、2001年以降に無理筋として広まった米国主導の「テロとの戦争」の悪影響ではないか。この“自衛権”が認められるなら、軍事強国は難癖をつけて好き放題に軍事攻撃ができることになる。

当ブログ2024.5.10「米国の「9・11」後とイスラエル」

 こうした欧米諸国による難癖・いちゃもんにも拘わらず、長崎市の鈴木史朗市長は当初の方針を変えなかった。「ブラボー!」と褒めてあげよう。当然のことをやっているだけなのに、この「逆立ちした」世界では「勇気ある英断」となるのだ。

 ただし、鈴木市長がイスラエルを招待しない理由として「不測の事態が発生するリスク」などを挙げているが、できればもう少し直截的に理由を述べてほしかった。例えば、「イスラエルによる昨今のガザ攻撃は非人道的であり、国際人道法に違反する可能性が高い」「昨年10月以降、ガザ地区ではすでに約4万人が殺害されている」「国連や国際司法機関などの判断およびイスラエルの対応も併せて考えれば、同国を招待するのは相応しくない、と判断した」など。(この段落、2024.8.10追記)

「欧米6か国+EU」の言い分は、支離滅裂で説得力に欠ける。要するに、「『正しさ』なんかどうでもいい。我々には力があり、イスラエルを支持するんだ」ということなのだろう。堕落している、としか言いようがない。

 確かに、イスラエルは昨年10/7にハマスなどから襲撃され、多くの人が殺傷された〔*イスラエル軍に殺された国民も多くいるという〕。元はと言えば「イスラエルによるパレスチナ人への弾圧・迫害」に原因があるのだが、それを置くとしても、イスラエルの自衛権はこの「ハマスなどによる襲撃」が続いている限りにおいて主張できうる権利のはずだ。もちろん、その場合でも、自衛権が成り立ちうるには様々な限定条件があるのだが。

 それなのに、「自分たちの国が武力攻撃されたら、相手国(又は組織)に何をしても自衛権として許される」「自衛権だから、女性や子どもを含む一般人の犠牲を顧みずに殺傷しても構わない」とはならないはずだ。そんな暴論が認められるはずがない。

 日常の社会で考えるなら、以下のような例えが適切ではないか。絶対的な力のある男Aがひ弱な男Bに対し日常的に虐待し、これまで100発以上の殴打を行なってきた。Bの体はもうボロボロだ。Bはこのままでは殺されると思い、Aが寝入った隙に1発だけ殴り返した。だがAは「俺には自衛権がある」と主張して、Bを半殺しにして、なおも殴り続けている。それでも、周りの取り巻き連中は皆「Bの暴力は良くない」「Aを怒らせたBが悪い」と主張し、Aを応援し続けている。

 イスラエルは、上記Aのように無理筋の言動を押し通し、その無理筋を欧米諸国は追認・支持している。これが実態ではないか。

 本来は、このような「正義に唾(つば)する」言動は許されるはずがない。世界の大多数の人々は、こうした“先進”欧米諸国の傲慢な不正義に対し、怒りかつ反発するに違いない。そして、長崎市の鈴木市長の英断を支持するだろう。

 当ブログで繰り返し述べているように、私は根源的に、自由民主主義国が世界中に広まることを願い、ロシアのような集権国家には反対している。だが、米国を筆頭とするG7など欧米諸国は、国際的な視点で見るならば「真の民主主義国」とは言えず、正義を体現してもいない。もちろん、イスラエルもそうだが。

当ブログ2023.11.25「『民主主義国』は国際的に立憲民主的か?」
同2024.1.8「ロシアの独裁体制と西側諸国の「半民主制」」


 イスラエルは圧倒的な軍事力を持ち、しかもパレスチナを事実上「占領」している。そのパレスチナ自治区のガザ地区(約230万人)で、「ハマスがいた」と主張して、女性や子どもなど一般市民の中にミサイルや爆弾を撃ち込んでいる。そのため、多くのパレスチナ人が無差別に近い状態で殺害され続けている。イスラエル側がいくら「ハマスを狙った」と主張しようが、その真偽はともかく、故意に一般市民を大量殺害しているのと同じことだ。昨年10月以降、同地区内の確認死者数は約4万人に及んでいる。

 こうした行為は明らかに国家テロであり、ジェノサイド(集団殺害)と言える。それを継続するイスラエルを、これら欧米諸国は何ゆえに擁護しなければならないのか。正義と不正義が逆転している、としか言いようがない。

 私は、今回の鈴木市長の判断を絶対的に支持する。本来は、同市長のこうした判断・言動を日本政府こそが率先して為すべきなのだ。だが、今の日本政府は「米国に嫌われたらどうしよう」「G7諸国やイスラエルなどとの関係に亀裂が入ったらどうしよう」などと心配しているのだろう。情けない限りだ。

 当ブログで繰り返し述べているように、日本政府の「イスラエル擁護」の背景には日米軍事一体化の推進があり、付随して、G7諸国などとの協調路線がある。

当ブログ2024.5.1「日米軍事「一体化」とイスラエル擁護」参照

 だが、この前提たる日米軍事一体化自体が相当に危ういものだ。さらに、イスラエル擁護という不正義の姿勢を採ることによって、世界的な地位の低下が大いに懸念される。将来的な日本の外交の幅を狭めることに繋がりかねないのだ。

 私は、現在の日本政府は進むべき路線を決定的に間違っている、と思う。イスラエル擁護という「禁断の果実」をあえて欧米諸国と共に食べる必要はないし、そうすべきでもないのだ。

 日本はこれまで、アラブ・イスラム諸国などとも良い関係を築いてきた。視野狭窄に陥ることなく、広い視野で世界を見すえ、国際立憲民主主義を基本に据えて、賢くかつ正しく行動すべきだ。

当ブログ2024.6.2「そろりと「米国離れ」を進め、日本の独自外交を」参照
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