三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

「出来レース」的教科書採択の実像

2016-01-04 23:51:20 | 教科書・教育
  「東京新聞」2016.1.4(朝刊)「首都圏19教委 教科書採択前に非公開会合」同「教科書採択前 非公開会合 横浜で6回 議事録なし」は、以下のことを中心に報じている。

*特に重要な部分のみを取り上げ、要約した。[   ]内は引用者(星徹)が補った。

(1)[昨年(2015年)7~8月、公立中学校で今年度(2016年度)から4年間使用される教科書の採択が全国で行なわれたが、]首都圏の県庁所在地など37自治体の教育委員会のうち19教委で、採択前に教育委員[*通常は5~6人]が非公開で話し合っていた。このうち14教委では、この非公開会合の議事録を作っていなかった。

(2)文部科学省は「教科書採択の結果、理由の積極的公表」を求め、昨年4月にも通知を出した。

(3)神奈川県横浜市教委の中学校教科書採択(2015.8.5)について、本紙が情報公開請求したところ、事前に4日間で6回(計13時間)の非公開会合が行なわれていたことが判明した。同市教委によると、議事録は「作成していない」という。

(4)横浜市教委の同採択では、岡田優子教育長と5人の教育委員は、教科書会社名を特定しないで曖昧な発言に終始した。また、無記名投票の多数決で採択教科書が決められた。

                  ≪「東京新聞」の記事紹介終わり≫

 上記記事ではあまり述べられていないが、実質的・内容的に重要なのは、「日本の侵略戦争や植民地支配の歴史を美化・正当化している」「国家主義的だ」などと批判の絶えない育鵬社版「歴史」「公民」教科書の採択の行方だ。事前・非公開会合の議事録を公開しない教委の多くではこの問題が中心議題だったのでは、と勘ぐられても仕方がないだろう。

 私は昨年(2015年)8月5日、この横浜市教委の中学校教科書採択(市教委定例会)を取材した。これに関しては、「週刊金曜日」2015.8.21号「〝右派〟育鵬社版「歴史」「公民」教科書の採択相次ぐ」(1ページ)を参照されたい。この記事でも、教育委員らが「歴史」について、教科書会社名を避けて意見を述べる例を紹介している。

 また別の観点で、当ブログ2015.8.20「中学校教科書採択 「日本の現状」は世界の非常識」 を書いた。参照されたい。

 この採択会議(定例会)は傍聴者や取材記者らに対する「見せ物」(お披露目)的要素が大で、事前に6回も非公開会合が行なわれていた、ということなのだろう。しかし、「見せ物」のストーリーが何%決まっていたのか、部外者には分からない。30%なのか、50%なのか、はたまた90%なのか・・・。

 こういった「事前の非公開会合」の存在は、横浜市教委に関しては、少なくとも2009年夏の中学校教科書採択では確認できたことだ。

 私はこの採択会議(2009.8.4)の傍聴取材も行なった。この時の最大の関心事は、現在の育鵬社版に近い(*扶桑社版から派生した)自由社版の「歴史」教科書の採択の有無だった。この教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導したものだ。

 私はこの採択に関する取材を元にして、月刊「世界」2010年12月号「教科書は誰が決めるべきか~横浜市「歴史」教科書採択から検証する」を書いた。以下、関連する部分を抜粋する。

<八月四日の定例会で小濱委員が「自由社の教科書が加わったことで、これまで帝国書院と東京書籍も含めて、委員の皆さんと検討を重ねてきた」と述べたように、市教委に答申案が提出(七月一六日)された前後に、教育委員と市教委事務局職員を交えた「勉強会」が、計七回ほど非公開で行なわれた。同事務局総務課によると、「議事録は存在しない」という。「歴史」教科書に関する審議の実質は、この「勉強会」で行なわれ、八月四日の定例会は「市民向けのショー」に過ぎなかったのではないか。>

 実質は、この2年後の採択でも、そのまた4年後の昨年採択でも、変わっていないのではないか。いや、変わっているところもある。「市民向けのショー」を思わせる採択会議で、以前は教育委員らが教科書会社名を挙げて意見を言っていたが、昨年は会社名を一切挙げずに〝意見〟を述べていたことだ。これは、民主的採択という面では、「より一層悪くなった」ということを意味する。

 教科書採択から、教育的要素がますます消えていき、政治的要素がより大きく強くなってきた。教育が政治の道具になりつつある、ということだ。この国は、政治だけでなく、教育という面でも壊れつつある。

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2 コメント

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大阪の教育行政も同じ (takechan)
2016-01-20 11:18:47
安倍政権のいう「教育の中立性」という言葉にひるんではいけない。憲法の3原則を培う営みこそが「中立」といえる。東京、横浜の状況は大阪と同じです。自民党の別動隊、補完勢力であるおおさか維新の会の謀略によって。しかし、あきらめず逆転をめざして闘うしつこさが今こそ大切です。
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Re.大阪の教育行政も同じ (星徹)
2016-01-20 17:11:08
takechanさん、コメントをありがとうございます。

大阪近辺の政治・教育情勢も、大変なことになっているようですね。アベ政治の策動とそれを補完する大阪勢力。今年最大の問題になる可能性がありますね。
返信する

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