読書備忘録

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桐野夏生著「燕は戻ってこない」

2022-10-22 | 桐野夏生
北海道出身非正規労働者29歳の独身の、大石理紀が主人公。子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女の物語。北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない「代理母出産」を持ち掛けられた。リキに代理母を依頼してきたのはある程度裕福な元バレエダンサー草桶基とその妻悠子。不正規雇用の問題や借りた奨学金返済の悩み、不妊治療、代理母など現代的なテーマが書かれている。また北海道や沖縄から出てきた田舎者を徹底的にリアルに描かれている。依頼者の家族・夫婦の浮世離れした無知ぶり、身勝手ぶり、無節操ぶり、傲慢ぶりもリアルに見事に描かれている。代理母を契約してから妊娠、出産に至るリキの心の変化変わり方が面白い。「赤ん坊の力はやたら強大だ、と思うのだ。・・・ただ見ているだけで、ポジティブな気持ちが沸き上がって来るのはどうしてだろう。・・・赤ん坊は、この子を守りたい、この子を育て上げなえればならない、という保護本能とでもいうようなものをかき立て前向きな気持ちにさせる。それはあまりにも、この生き物が無防備で無力だからだ。」(P432)。ラストに彼女がとった行動には女性の本能的な力強さが感じられて痛快だった。
2022年3月集英社刊


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