読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

桐野夏生著「インドラネット」

2022-01-22 | 桐野夏生
美しく聡明なカリスマ性を持つ同級生、野々宮空知がカンボジアで消息を絶った。取り柄のないことにコンプレックスを抱いてきた八目晃は、愛しい友人を追い、東南アジアの混沌に飛び込むが・・・。主人公の八目晃は、平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない、何の取り柄もないことに強いコンプレックスを抱いて生きてきた、非正規雇用で給与も安く、ゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた。唯一の誇りは、高校の同級生で、カリスマ性を持つ野々宮空知と、美貌の橙子・藍姉妹と親しく付き合ったこと。大学生になり疎遠になった空知は、アジア旅行に出て帰ってこなかった。同じ時期に姉妹も海外に出た。彼らの消息を知りたいと彼らの父親の通夜に行ったが、姿はなく、逆に橙子の元夫と称する安井、また藍のマネージャーだったという三輪という男たちから旅費と報酬を条件に、3人を探しにカンボジア行きを依頼される。海外旅行も初めてという八目は、旅慣れた旅行者たちから見たらカモのような存在。機内で知り合った女性から紹介された安宿では、30万円の現金を盗まれる。同室の女性のアドバイスでゲストハウスのアルバイトとして働くことになった八目は、まかないを食べる隣のしもた屋の婆さんの流暢な日本語に驚く。彼女はポル・ポト政権時代の虐殺で家族を失い、難民として日本に逃れた経験を持つ親日派だった。彼女の助けを得て、本格的に旧友の消息を探し始めるのだが・・・、やがて明らかになる美貌の三人の凄絶な過去は壮絶。旅の終点のラスト、空知への究極の愛と、強い意志で自分の運命を決めた晃の行動には衝撃を受けた。晃が空知に対して命を捨てるほど執着する根拠が理解できなかった。今のカンボジアの闇、日本と東南アジアとの付き合い方に改めて考えさせられた。2009年、私はバックパックを担ぎバンコクからタイ国鉄で陸路アラニャプラテートへ行き、国境を渡りカンボジアの街ポイペトからタクシーをチャターしてシェムリアップの安宿のゲストハウスに逗留してアンコールワット・トンレサップ湖などを観光した。この小説はそんな懐かしい地名が出て来て当時を思い出させてくれた本になった。「子供たちはどこに行っても繋がって光る、インドラの網に絡まる宝石だ。」(P355)
2021年5月KADOKAWA刊

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