メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『とらえられたスクールバス(前編・中編・後編)』 眉村卓/著(角川文庫)

2017-05-28 14:09:00 | 
『とらえられたスクールバス(前編・中編・後編)』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑、本文イラスト/依光隆

「作家別」カテゴリーに追加しました。

これも昔読んで、もう一度読みたいとずーーーーーーっと思い続けてきた作品
そもそも、一度読んだら、何度も読むタイプではないので
3冊に渡る長編だから、なかなか読み直す勇気がなかったが
やっぱり読みたくて、新しく買い足したものより先に読むことにした

あっという間に世界観に入りこみ、ぼんやりとした記憶も時々浮かび上がりつつ
勘違いして記憶していた部分もあり、ほぼ新しい気持ちでドキドキして読んだ
眉村さんの作品で3本指に入るくらい好き



前編:(昭和56年初版 昭和58年8版)

[カバー裏のあらすじ]
信じられないことが起こった! 得体の知れない少年が乗り込んできて、エンジンをかけた瞬間、
信夫たちの乗ったスクールバスは、一気に終戦直後の混乱期に、タイム・スリップしてしまったのだ。
もう元の世界には戻れない! しかもその少年は、いずれ戦国時代を目指すというのだ。
戦国時代などへ行けば、全員いつ殺されるかわからない。
信夫たちの行く手には、いかなる試練が待っていることか、、、?
時間旅行に巻き込まれた少年少女たちのスリルあふれる冒険、前編。


あらすじ(ネタバレ注意
新聞部の山崎信夫は、サッカー部の長谷川真一とともに下校し、スクールバスへ向かった
そこに妙な学生服を着ている1人の生徒がいて、なにか光る機械をいじっている
運転席の後ろには1年生の女生徒・早坂哲子、そして国語教師・北勉先生がいた

見知らぬ少年は、運転席に機械を取り付け、運転しはじめ、
それを見た運転手がドアの前まで来て、消えた
あたりの景色も消え、濃い霧のようなミルク色となる

少年の喋り方は妙なアクセントのぎこちない日本語で、
飛びかかっていった真一を武器のようなもので撃つと絶叫して倒れた



「しんけいに、しょっくをあたえた、だけ、だ 15ふんたらずで、もとに、もどる、だろう」

バスは振動はないがエンジン音は続き「もくてきのじてんに、ついた、ぞ」

外はひどく粗末な家が並んでいた

みんなは協力して少年から武器を奪う
「そちらたちは、やばん、だから・・・こちらを、ころすのだろう」

ワケを聞くと、少年の名はアギノ・ジロ
自分の時代がとても厳しくて、嫌になり、戦国時代に逃げるのだという

バスは昭和22年にいた 見慣れぬ服やバスから進駐軍に間違えられて、取り囲まれる
警官まで来て、みんなは進駐軍関係者を装って切り抜ける

北先生は、食べ物を分けてもらうため、安田という青年の家に行き経緯を話す

「イギリスの作家のH.G.ウェルズのタイムマシンという本を読んだことがある」と言いつつ信じられない様子
「食べ物なら闇市にありますよ あなたの着ている背広と交換すればいい」



お礼に現代のお金をやろうとすると、慌てて止めるアギノ
「みらいの、あきらかな、しょうこひん、は、のこしては、いけない、のだ」
歴史が変わってしまうという

先生が帰ってきたと同時に、アギノと同じ服の男が現れ、
アギノは先生をその時代に残したまま反射的に時間走行してしまう

男は、時間を行き来する者を取り締まる「時間航行管理局員」で、捕まれば殺されるという
アギノの時代では、少しでも自分のしたいようにすると逮捕される
彼らは、自らも危険な目に遭う時代には行きたがらないため、戦国時代を選んだ

バスはアギノもコントロール不可能になっていた 過去に遡るだけで、どこに着くかも分からない


次に着いたところは、まさに第二次世界大戦の空襲の真っ只中
階級章をつけた男に「とりあえず防空壕に入れ!」と怒鳴られる

焼夷弾がバスの天井をぶち抜いたが、幸い不発弾だった
アギノは恐怖のあまり、どこかへ走って行ってしまう

アギノを引きずってきた少年から罵倒される真一たち
「皇国が危急存亡の時に、そんな自動車に乗って、何をしているんだ! 恥ずかしくないのか?!」


なんとかバスに戻り、時間走行して逃げる

「じだいによって、にんげんの、かんがえかた、は、いろいろとちがう
 しかも、それぞれのじだい、の、にんげん、は、じぶんたちの、かんがえかた、が、とうぜんだと、おもって、いる
 いや、ああいわなければ、ほかの、にんげん、に、つまはじき、される、のだ」


アギノは、最初は馬鹿にしたような口ぶりだったが、みんなで危機を乗り越えるに従って、仲間になっていく
バスは、1つの時代に長く留まるほどエネルギーを蓄えて、さらに過去にさかのぼれるという


次にたどり着いたのは昭和15年の青田の真ん中で、
不審に思った農民らがすぐに鍬や鋤を持って近づいてくる

バスを走らせ、山林に隠し、2人組に分かれて、周囲を探っていると
管理局員のクタジマ・トシトと北先生が自転車に乗ってやって来た

みな、クタジマの威圧的で馬鹿にした態度に激しい反感を抱き、
哲子が神経衝撃銃で撃たれた時、アギノの銃でクタジマを撃ち、
未来式の手錠で後ろ手に縛り、木にくくりつける

アギノ「きみたち、は、すてき、な、ばか、だ! えらい、ばか、だ! ありがとう!」



クタジマは意識を取り戻すと激怒して「みんな死刑だ!」と叫び続ける
管理局員の制服には探知機が着いていて、管理局に居場所が知れるのも時間の問題

みんなはやっと睡眠をとり、クタジマの乗っていたタイムマシンをバスの中に引き入れる

先生は、クタジマから昭和22年の人間に何を話したのか執拗に聞かれたという
歴史が変わらないよう心理操作で記憶を奪うため
彼が有無を言わさず、子どもでも片っ端から銃で撃つ様子を見て、先生はうんざりした様子

アギノを戦国時代に送った後、奪ったタイムマシンで自分の時代に戻る案を考え出す
タイムマシンには一度に2人しか乗れない アギノにもよく操縦は分からない

また地元の人間が追いかけてきて、とりあえずバスで地上走行して逃げる
山林の中に粗末な家があり、中から分別のありそうな男性・石原泰造が出てきた
この人なら理解してもらえるかも、と事情を話すと、半信半疑ながら、とりあえず家に招いてくれる

大学教授をしていたが、危険思想だという理由で官憲に捕まると思って覚悟していたという

「あんたたちに備品や食料を提供する代わりに、私を一員に加えてはくれないだろうか?」

一瞬迷ったが、アギノは共感し、先生は大人が自分一人だけなことに重責を感じていたためホッとして誰も異存はなかった
その話しぶりに感心する教授

「それぞれの意見を尊重しているのが、私には珍しい
 年齢の違いに関わりなく発言し、対等に喋り合うのを見ると、やはり別の時代の人たちだと思う」



先生と教授が寝ずの番をしていると、サーベルを持った3人の警官がやって来る
「治安維持法違反容疑で逮捕する」

銃で2人を気絶させ、また時間走行に入る

「彼らは特高だ 明治43年の大逆事件をきっかけに、特別高等課を独立させ
 危険思想の人間を片っ端から逮捕するんだ」

アギノのいる時代はもっと酷く、10年に1度、意識探査装置で調べられ
危険思想と分かると、再教育し、最悪の場合は、強制的に意識改造をされるという


「そうしないと、しゃかいがくずれてしまうのだそうだ
 そのため、きかくからはみだすにんげんを、きかくにはめこむのだ」

意識調査まであと6日となり、歴史が好きで、人間が自由に生きられる時代が好きなアギノは
意識改造されるのが嫌で逃げてきた



闇の中に着いた一行
教授「夜は本来こうしたものだ だから、妖怪変化が本気で信じられたんだろうね」

信夫
「僕らは、文明の進歩でどんどん立派になっていると考えがちだが
 素手になれば、昔の人より劣るのかもしれない」


明るくなると、大名屋敷が見え、江戸時代、幕末だと分かる
屋敷から数人の武士が馬で駆けつけ、永井伊豆守家来で、主人が屋敷に招いているという
この時代をもっと見たいという気持ちは皆いっしょで、結局、教授と信夫が行くことにした



主人は谷口五兵衛
「わしはああいう車輪をつけたものの絵を見たことがある 蒸気機関のようなものかな?
 どうじゃ、わしをあれに乗せてくれぬか?」

外では攘夷派の浪人がバスに難癖をつけ、バスは信夫らを残して逃げてしまった

家臣「あんなものに、この神州を横行させておいてよいものか?」
谷口「これも、幕府の弱腰が招いたことだ!」

2人は浪人を銃で気絶させると、クラクションの音を聞く
クタジマを含め、3台のタイムマシンがバスと交戦していた
信夫が加勢したお蔭で3台は視界から消え去る

谷口に助けてもらおうという意見に、疑いを持つ教授

「あの谷口はいわゆる開明派だ そんな人々が、保守的な上級武士の
 妬みや反感を受けて命を狙われたりするのはありがちなことだった」


バスを地上走行させ、壊れかけた寺院に隠す
教授の案で、着物に着替え、男性らはざんばらな髪に切り、哲子は後ろで結んだ
焚き火と井戸の水、教授の七輪などで米を炊き、やっと食事らしい食事をとる

そこにまたタイムマシンが現れる
アギノ「局員は、ぼくたちのけいけんするじてんのじゅんばんに、あらわれるとは、かぎらない」



銃で撃ち、タイムマシンごとなるべく遠い過去に送ることにする
アギノが外から木の枝でスイッチを押すと、先の1/3はなくなった

「たいむましんは、それがしはいするくうかんのなかにあるものを、みなもっていってしまうのだ」


しばしの時間があり、信夫は考えた
今となると、自分の時代のなんと平穏だったことか
自分では何かと忙しく、あれこれ苦労していたつもりだったが

終戦後のボロボロで何もなく混乱していながら、未来を信じていたらしい時代
空襲下で、少しでも妙な言動をすると非国民扱いされる時代
国家が総動員体制になり、思想を取り締まる特高が人々を逮捕していた時代・・・

どれも日本なのに、それぞれまったく別のもののようだ
そして連続し、原因が結果を生んで、次の時代につながっているのが不思議に思えるのだった

その時代には当たり前のことが、自分には変に見え
そこの感覚を知るにつれ、他の時代がおかしく思える
わからない、ともかく、今は眠っておかなければならない





中編:(昭和56年初版 昭和59年10版)


[カバー裏のあらすじ]
未来からやってきた少年が乗り込んだために信夫たちが乗ったスクールバスは過去へ過去へとタイムトラベルしてしまった。
そして今、ついにあの混乱の戦国時代へと突入しつつあった。
血で血を洗い、弱肉強食の掟が支配するこの時代で、少年たちは果たして生きてゆけるのか!?
そんなとき目の前で繰り広げられた戦国武士どうしの残酷な殺し合い! しかも武士たちはついにバスにも攻撃をしかけてきた!
スリルあふれる冒険SFの世界・中編!


あらすじ(ネタバレ注意
みんな腕時計をしていたが、現地時間を知るために北斗七星を頼りに大体の時間を合わせる
江戸時代の時刻法は「不定時法」で昼夜をそれぞれ六等分する それも季節により変わる

先生はこれからに備えて食べ物をもらいに行くと提案し、外に出ると薬売りの男がいる
「百姓はよそ者に滅多に気を許しません 忠告ですが明日の朝までに立ち去っていただきたい」



彼はこの時域を担当して常駐する局員で、自分の担当する時代で歴史が変えられないようにするのが任務
職種も専門も違うから逮捕はしない
撃ち合いをして、その後何か成すべき人間が精神的ショックを受けたりするほうが問題だという

「もし、ここで何かあれば、上に連絡して、乗り物ごと神隠しの形で消したほうが騒ぎとしてはずっと小さい
 時間航行は、あんたの時代のもっと未来の時代のもので、
 管理局自体、何万、何十万年にもわたる巨大組織だから
 私も自分の知っていること以上は知らない」

男はとりあえずの食料を渡す


男に言われる通り、翌日、また時間跳躍する
時間跳躍中は、管理局に捕まる心配はないが、バスには1回ごとにムリがかかるから、
いずれ時間跳躍出来なくなる可能性があるとアギノ

みんなが寝ている間に起きてしまった信夫と教授は、ご飯を炊こうとしてアギノに慌てて止められる
外は超空間で、出ればバラバラになる
空気はバス周辺にしかないから、ものを燃やせば酸素が足りなくなると聞いてゾッとする

戦国時代の話になる

「戦国時代といっても100年もあるからな」
「応仁の乱から、信長の天下統一までですか?」
「それも後世の人が定義づけしたに過ぎない 当時の人々はそれほど明確に意識していなかったと思うよ」

アギノのイメージでは野蛮だが、1人ずつのデータもろくに記録されていない自由な時代
先生のイメージは、意外に1つ1つの領国はまとまって、文化も発達していたのでは
信夫「1つの土地から見れば、合戦はそれほど多くなく、むしろ静かだったと本で読んだ」
教授「江戸時代のように武士道が確立していないから、人殺しをなんとも思わぬ連中が多いのでは」

それぞれの意見が、それぞれの個性を表しているようだと信夫は思う



次に着いたのは海岸で、みんなの目の前で落ち武者が次々と刀で切り殺され、首を落とされるのを見てしまう
これは集団による虐殺だ 信夫はどっと吐き、哲子は絶叫をあげた



それらの軍勢が気付いて、こちらに向かってくる
矢がバスのシートに突き刺さり、鉄砲弾まで飛んできた
止む無く、神経銃を使って逃げ切る
戦国時代の農民はある程度の自衛力を持っているのでは、と教授

バスを走らせ、これ以上進めない所に、粗末な家があり、男が1人出てくる
「うぬら、ばてれんか?」
「侍だが・・・今は、こうして商人に身を変えておるゆえ、刀も槍も持っておらぬ」

いろいろ言い逃れを試みるが、疑惑は晴れないまま、先生とがっぷり四つで組み合うことになった
ドラマのように、2人は疲れ果てるまでやり合った後に笑って和解し、バスの中を見せた後に家に招かれる

平野兵助というその男は自分のことをひと通り話す
織田信孝に仕えていて、信孝は亡太閤を憎んでいたため、形勢不利となり切腹してしまった
侍が嫌になり、百姓になったが、検地が厳しくなり、西軍が敗れて徳川の世になるに違いないという

ここは関ヶ原合戦直後だった



今度は、信夫らのことを話せと迫る 「言葉も面妖だ 名も異風ではないか」
もう誤魔化すのもムリだと思った先生は「のちの世から来たんだ」と話してしまう

平野は動揺するが「この世には、ないはずのことが、まま、起こるものじゃ」と一応納得する
それには信夫らも驚く
戦国末期の、動乱が絶えない時代の人間のほうが
理屈で固まった時代の人より、柔軟な思考力や処世術を身につけているのかもしれない


アギノは、平野自身は歴史に影響はないだろうが、誰か重要人物に話したりしたら影響が出る可能性があるという


バスに戻ると、クタジマが待っていた
神経銃を奪い取り、平野にいろいろ話したことを知り、先生に連れてくるよう命じる

教授
時代や体制によって、犯罪の範囲など、いくらでも変わるものだがね
 あなたは、自分の時代や、法律を、どこにでも適用しようとしているが
 法律が及ぶのは、一定の、その法を法としている地域だけだ よそで通用させるのは治外法権だ

 それに私たちに、やたらと死刑というのは実にまずい
 どうせ殺されると思った人間は、何をしでかすか分からないから逆効果だ」

クタジマは高圧的な態度をとりながらも、少し動揺していた

先生が戻らず、信夫が調べに行かされる
先生と平野は「予想通りだ」と作戦を話す

「先生たちは逃げました!」と信夫が言い、クタジマが外に出たところを皆で押さえつける

平野「殺さないのか?」と聞き、当て身で気絶させる
こんな時代に来て、気付かないうちに、戦闘的な感覚に慣れているのではないかと不安になる信夫



そこに軍勢が押し寄せてきた 西軍に味方したため、追ってきたのだった
平野は、刀を5、6本持ってきて「これをやるから、わしも、この乗り物に乗せてくれ」と言う
百姓も合わず、西軍に味方したとなれば、自分も制裁されるという

騎馬武者も来て、考えるゆとりもなく、平野を乗せたまま時間走行に入る
平野は、バスが過去にしか行けないと知り
「なまじ、勝手の分からぬ後の世に行くより、そのほうが良かろう」

哲子「前に会った常駐員がどの時代にもいるなら、何とかしてくれるとは考えられない?」

平野「戦となれば、恐れていても仕方あるまい 当たりどころが悪ければ死ぬ そうでなければ助かる それだけだ」

さっき襲ってきたのは九鬼の軍勢で、親子が敵味方になって戦っていると聞き驚く哲子

教授
「小さい大名はどっちにつくかハッキリさせなければならない
 だから身内が両方に分かれて一方は家が残るようにした 真田家もその例だ」(観た、観た!




次に着いた所を見て、平野は「京だ! あの大き寺は本能寺、向こうには南蛮寺も見えていた」と叫ぶ
そして、「わしも、世の中も、新規まき直しじゃ 世話になった さらばじゃ」と途中で降りて行ってしまう
あっけにとられながら、諦め、バスを山林に隠す信夫ら

そこに茶人風の男ら数人がやって来た
この時域を担当する常駐局員で慌てている様子

平野が途中で降りて姿を消したため、急いで探さなければならないという
ここは本能寺の変の前日で、もしこれが起こらなければ歴史がどう変わるかと考える人間が多く
いろんな連中が歴史を変えようと入り込んでくる

鳴門屋または曲安と名乗る豪商は、その手伝いをしている女性みねに皆を別宅に案内させる



久々、風呂に入れると喜んだが、五右衛門風呂は、円い板を足でバランスをとって沈め、
その上に座らなければならないので苦心する
先生と教授は、まげを結って武士風、信夫たちは若侍の格好に扮した

みねが説明する

常駐局員は、原則として、その時代の人間がなります 疑惑を招きがちですから
 訓練を受け、実習では他の時代へも行きます
 曲安は、20世紀後半がとても気に入っていて、私もです
 日本の歴史の中で、いろいろ問題はあるにしても、一番自由で進取性に富んだ時代だからでしょう」


皆が寝てから、しばらくして急に起こされる

みね
「本能寺に泊っていた信長公が出て行かれました
 何者かが矢文を射こんでしらせ、それが平野に似ているというのです
 私たちの歴史は、主流から潜在時流に転化したかもしれない
 一刻も早く修復作業を行うため、あなた方も協力してもらいます」



(本書の巻末の最新刊にある阿刀田高さんも読んだことあると思い出した!
 ユーミンの本もあるし、昭和50年代って思ったほど遠い過去じゃない気もしてきたからフシギ




後編:(昭和58年初版 昭和59年5版)


[カバー裏のあらすじ]
思わぬところから戦国時代の別な時間流に飛び込んでしまった信夫や哲子たち。
早く時間流を修復してしまわないと、二十世紀の現代に戻ることはおろか、永遠に時間の漂流者となってしまう恐れすらあった。
しかも、神経衝撃銃を手に、彼ら一行を追う時間航行管理局員は、すぐ後ろまで追いついてきている。
果して彼らはどの世界にゆき着くのだろうか・・・!?
スリル満点、危機一髪の傑作歴史冒険SFの完結編。


あらすじ(ネタバレ注意
みんなは、信長が生き延びた場合、20世紀に帰っても、自分たちの家があるかどうかも分からないと話し合う

鳴門屋は、平野が矢文を射る以前に取り押さえるという

「この修復作業には、当然、妨害が入る
 現在、主流となりかけている時間のほうにも管理局があるからだ」


こんな時にまたクタジマが現れる
今は修復作業のほうが最優先だということも通じない

「たかが常駐局員のぶんざいで、私に指示するつもりか?」

老夫婦が銃でクタジマを気絶させる(かっけー!

みんなの前に別の時流の管理局員が現れて交戦する
地元の武士がきて、歴史への干渉を防ぐために退散していく



必死の撃ち合いで仲間とはぐれた信夫は、鳴門屋の場所を初老の男に尋ねると
「あそこへは先ほど、何者かがつけ火をしたという話じゃ」

行くと大混乱していて、見張りもいる 鳴門屋が死んだという噂も聞く
謎の女性に案内されて、アギノらと落ち合う なんとなくみねに似た声だが「問うてはなりませぬ」
箱の中に隠れて運ばれ、先生とも合流する 「妨害される前に時を飛ぶのです」


バスの中では、みねと教授が怪我をしていた
アギノ「過去へ行くほど、医学の水準は低くなる」

みねから、やはり曲安が死んだと聞く

「未来でなく過去に行くのが大切
 天正10年より先は急速に潜在化し、実在性を失っているが
 過去は、共通で、そこの常駐局員とも連絡がつく」

クタジマのタイムマシンがあることを言うと、悪用されないため1人ずつの身体に合わせてセットされているため
他の人が乗ると心身に大きな障害が起こり、死ぬこともある、と聞いて、アギノらはゾッとする

みね
「修復の間は、クタジマは何も出来ないと思います
 彼自身が最初から存在しないこともあり得る

 この絡み合いは、ふつうの論理では片付きません
 修復が上手くいっても、本流とそのまま同じではなく、細かいところは違う流れなのです
 私たちはいったん変化を経験した流れの中にいるので、いたはずの人がいないとか奇妙な体験をする





バスが急に上下に揺れ、集落に着いたが、ついにエンジンもかからず、地上走行も時間航行も不能になってしまう
荷物を減らしてバスを離れ、周りを調べていると、種々雑多な常駐局員と会う



みんなが着いたのは、天正10年から29年前の堺のはずれ
バスは、未来にも見つからない場所に埋められた

とりあえず、旅絵師の小山内、別名セドウド・ジンという統括時域の連絡員の家に入り、時流の話を聞く

無数の時間の流れをよじり合わせ、輪切りにすれば、無数の同じ世界が同時に存在する
その1つが主流になるという

教授「もう一度時間をさかのぼって別のコースで待ち受けるのは無理なのかね?」

ジン
「一度失敗すると、次も失敗する率が高まる この作業は1回のみで成功させなければならない
 そして、初めて到着した自分たちに姿を見られてはならない
 私たちも、前後150年以内には行けない 当人の死や運命を知ってしまうから

 主流に戻っても、過去の記憶は残る
 鳴門屋も殺されずに済む すると、そこに、もう1人、みねさんがいる可能性がある
 同じ時流で両者が接近しすぎると、片方が消滅してしまうことが多い
 みねさんは天正10年に戻っても、帰る先がない」


ジンは、これからの計画を話す

「やはり、平野があなたがたと別れた直後に捕まえるしかない
 平野を見つけたら、即座に気絶させる 殺してもやむを得ない」


教授は、本能寺の変が起こらなかったほうの歴史を聞きたがる

ジンが見た時流では、秀吉は羽柴のまま終わった 光秀は孤立する 信長は天下統一を果たさない
豊臣秀吉による天下統一はゆるい統治だったから大連合体の上に成り立ったが、
信長は自分が神だと信じだした 長子・信忠は器量が足りなかった
だが、徳川の代にもならず、戦国時代に逆戻りのようになる

その後、鎖国もなく、日本は海外にたくさん植民地をつくり、
アジア・アフリカの民族運動により、100年近い沈滞の時代が来る
(どのみち第一次世界大戦、第二次世界大戦も起こるって哀しい・・・

教授
「その未来も1つの時流に過ぎない
 あれは正しかったとか、過ちだったと歴史の事柄や人物に価値判断したがるが
 そいういうのが空しい気になってきた

 歴史は正しいも悪いもなく、ただ様々なことが起こり、消え、それが原因になって、何かが始まる
 その連続にすぎない感じがしてきたな」


先生
「その歴史も、記録や資料をすべて入手出来るわけじゃないから、いわば作られたものでしょう
 全貌をつかむのは不可能じゃないですか?」

ジン
「だからこそ、私たちは自分なりに歴史を見つめ、自分の置かれた場の中で
 信じることをやるしかないのだろうね」

ここの常駐局員のリーダーで、呉服商の有力者・錦屋が到着して、大きな土蔵に入る



その奥には、透明な素材でできた機器だらけの部屋があり
遊園地の客車のような、複数が乗れるタイムマシンがある

哲子は錦屋の機嫌が悪い気がして、ジンに尋ねると
常駐局員のリーダー級は、勢力家の場合が多く、
未来の大筋を知っているのを利用して金儲けすることも認めてられている
自分のほうが立場は上でも、この時代では単なる絵師だからついそう振舞ってしまうのだと説明する

タイムマシンを2時間後に到着するようセットして消す
バスを待つ間、別の時流の管理局員同士の撃ち合いが間近で始まり、みんな動けなくなる

そこに、埋めたはずのスクールバスが現れ、平野が降りるのを見る
平野は子どもに今は何年か聞き、本能寺の変の前日と知る

そこにさらに違う時流の管理局員が加わり、ふたたび交戦となり、
ジン「こうなれば、たとえこちらが全滅しても、平野を殺すしかない」

北先生は、それを制し、銃を置いて、侍姿のまま平野に声をかける
気を許した平野を確保し、また銃での交戦 しかし銃のエネルギーが尽きる

そこに、味方のタイムマシンが現れ、他の局員らの銃エネルギーが尽きる
決着がついたが、味方の管理局員は無言で平野を気絶させる



「私たちは、平野を元へ戻す
 自分の家で意識を取り戻せば、夢を見ていたということになる
 それが、もっとも無難な処理法なんだ」


信夫らはジンとともに、到着場所に戻り、主流の時流に回復したことで
とうとう自分たちの身の振り方を考えなければならなくなる
さらにクタジマという追跡者は存在しない、と聞いて驚く

ジン
「前に言ったように、完全に前と同じにはならない
 あなたがたは誰にも追われていないばかりか、修復に従事した功労者だ
 これからどうするか、自分の意思で決めることができる」

信夫らは20世紀に帰りたい
アギノは「追ってくる者がいないなら、僕は、みんなが行く所へ一緒に行きたいんだ」
みね「戸籍のことくらいなら、その時代の局員が工作できます」

教授
「私は未来で生計を立てるのは難しいだろう 昔の教え子と会う可能性もある
 それより、この戦国時代の堺で己の可能性を試してみたい
 秀吉によって濠を埋められるまで堺の自立は続く 東洋のベニスとして
 私なりに才覚を働かせて、何かやってみようと考える」

元の時代に戻れないみねも、未来ではとてもやっていけないし、
知り合いがいる所に行きたいと、教授と供にすることになる


ジンは、みんなに相談する時間を与えて戻ってくるが
実は、それぞれの行き先はもう未来に記録されていて知っていたという

「あなたがたは、バスごと消失したことになっている
 周囲をうまく納得させれば、前の生活を続けられる」

ジンは、教授とみねを希望の時流に送り、信夫らを送る

哲子「やっぱり、私たちを助けてくれたあの人は、みねさんだったと思うわ」

ジンは、それはあり得るが、それも存在しない記憶で、
潜在時流のほうのみねさんが、たまたま京にいて助けたとも考えられるという

タイムマシンを先生のアパートのそばに到着させる
アギノは萩野次郎という名前をもらう




6月になり、3月に起きた騒動を思い起こす信夫

着物姿で気絶して、何も覚えていないといって通し
真一は両親に話しても信じてもらえず、哲子の両親は他人に言うなと釘を刺された
萩野は先生が引き取り、すっかり溶け込む

しかし、以前より学校の雰囲気がずっと厳しいことに気づく
とうに死んだはずの教授やみね、平野までが、自分たちと平行して生きているような気がして仕方がない

信夫らは先生に呼び出され、図書室で久々集まる

先生
実は、ある人物から、僕たちに時間航行管理局の、常駐局員にならないかと言われた
 当然、厳しい訓練や勉強をしなければならず、しかも、普段は社会人として生活しなければならない
 返事はすぐでなくてもいいそうだ」

信夫は、局員になれば、また教授やみねに会うことがあるかもしれないとふと思う
たぶん、自分は誘いを受けるのだろう、そうしたいのだ





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