ソーシャルワークの TOMORROW LAND ・・・白澤政和のブログ

ソーシャルワーカーや社会福祉士の今後を、期待をもって綴っていきます。夢のあるソーシャルワークの未来を考えましょう。

地域でのネットワーキング論?(4)<ネットワーキングができていない現状①>

2008年04月24日 | 地域でのネットワーキング論
 私自身は在宅介護支援センターを中心にして、コーデイネーション論なりケアマネジメント論の研究を深めることが出来た。

 在宅介護支援センターを作るときに、当時の厚生省の老人福祉課は私のケアマネジメントの論文をよく読まれて、大蔵省への在宅介護支援センターの予算を取るための説明に臨んだことを、最近当時老人福祉課課長補佐であられた長橋茂さん(現在、(社)シルバーサービス振興会常務理事)等から聞かしていただいたことがある。大変、名誉なことであり、学者冥利につきることである。

 私も意気盛んな年で、当時の在宅介護支援センター職員の人々と関西だけでなく全国に亘っていくつもの事例研究会を立ち上げ、そこでのメンバーとの関わりや支援のおかげで研究を深めることが出来た。当時の在宅介護支援センターのメンバーの顔が何人でも頭をよぎる。私のとっては、あれが理論と実践をつなげる大きなばねになったと思うと、感謝の気持ちで一杯である。

 ここでは、みんなでコーデイネーション機能をいかに果たすかという、今まで漠としていたことが見えるようになり、在宅介護支援センターの職員が生き生きしていたという印象がある。私も、見えなかったことが見えてきたことで、楽しかった。それまで、措置権をもっている機関がサービスの資格要件を尋ねることの相談(例えば、福祉事務所での老人福祉の担当者は、ヘルパーが利用できる資格要件が整っているかどうかの相談をすること)から脱皮し、生活上でのニーズを明らかにし、そのニーズを満たすためにサービスの利用を支援していく仕組みができあがり、そうした実践ができることに、意義を見いだしていた様な気がする。

 ただ、その時には、確かにひとりの要援護高齢者を支援するコーデイネーションの方法については相当解明されたと思う。しかしながら、当時個々のセンターの基礎となる「中学校区」で何をするのかについては、気になりながらも、ほとんど煮詰めることができなかったと考えている。

 あえて言うなら、個々の高齢者を支援することに関心を向けることだけで精一杯であった。当時から、地域の実態把握といった仕事も求められていたが、十分理論化され、実践されてはいなかったことが反省点である。あの時期に、多くの研究者が参画し、現場と力を合わせておれば、もっと、中学校区でなにをすべきかについて、理論と実践をつなげられたはずである。

 そのことができなかったことが、今日の生活圏域を基にした地域包括支援センターが出現してきたのではにだろうか。今度こそ、生活圏域をもとにした支援体系を作らなければならない。

 これについて、未だ地域でのネットワーキング機能が弱いことを示した調査結果がある。それは(社)日本社会福祉士会の地域包括支援センター評価研究委委員会が昨年度地域包括支援センターの社会福祉士を対象とした『平成19年度 地域包括支援センター社会福祉士職 業務環境実態調査 調査結果の概要』である。

 ここでは、利用者といった個別レベル、地域包括支援センター内の組織レベル、生活圏域といった地域レベルで、様々な業務ができているかについての自己評価を、社会福祉士に尋ねている。その結果、地域レベルでの業務実施の自己評価が他に比べて極めて低くなっていた。

 これは、私たちが実施した調査でも、調査対象者は異なるが、同じような調査結果がでており、次回にでも紹介したいと思う。

 ここで問題にしたいのは、この結果は社会福祉士に時間がなくてできていないのであれば、それは人を増やせば解決できることである。実際には、そうした地域レベルでの活動方法が分からない、さかのぼれば、学生時代に教えてもらっていない、さらにさかのぼれば、具体的な方法が理論的に明らかになっていない、とすれば、ソーシャルワークの教育者としてだけでなく研究者としての責任も極めて大きいと言わざる得ない。そのことがあって、この不連続の連載を始めることを決意したのであった。



地域でのネットワーキング論?(3)<在宅介護支援センターからの宿題>

2008年04月18日 | 地域でのネットワーキング論
私がケアマネジメントの研究成果を得ることができたのは、平成元年のゴールドプランで中学校下に1カ所を目標にした「在宅介護支援センター」ができ、そこで現場の人々と一緒に仕事ができたことが大きく、在宅介護支援センターには愛着も強く、その当時現場でおられた人には大変お世話になり、感謝している。また、その後、今日まで多くの皆さんと親交を深めてきた。

 ここで、確かに、日本のケアマネジメントは大きく発展し、その後の障害者領域でのケアマネジメントや介護保険での介護支援専門員に引き継がれていった。その意味では、当時、このセンターの創設は画期的なものであったと考える。これを企画したのは、当時の老人福祉課長であった辻哲夫さん(前厚生労働省事務次官)であった。辻さんからは、ゴールドプランで多くのサービスを量的に充実していくが、それをいかに利用者のもとにデリバリーしていくかの仕組みが不可欠であるとの自らの信念を、何度か伺ったことがある。

しかしながら、センターをベースに現場の人々が仕事を進めていく上で、センターの職員は辛苦をなめることも多かった。その最大のことが、在宅介護支援センターで利用者と一緒に作成したケアプランが実行できないことに遭遇することであった。当時は、措置の時代であり、行政がサービスの利用決定やサービス内容を決定しており、在宅介護支援センターで利用者と一緒にケアプランを作成しても、そのプランが絵に描いた餅となることがしばしばであった。

 そのため、当時の厚生省の老人福祉課にいくつかの提案をしてきた。その成果の一つが、それぞれの市区町村で高齢者サービス調整チームを作り、実務者会議と代表者会議を行うことで、措置の弊害を除こうとしたことである。この会議を介して、作成したケアプランが適切なものであれば、実質化できることも目的の一つにした。もう一つ、在宅介護支援センターが行政に代わって、代理決定できないか厚生省に詰め寄ったが、当然無理であった。ただ、利用者に代わって、在宅介護支援センターから行政にサービス利用の代理申請できることにはなり、それならの成果を納めることができたが、気分としては繕いものをしているような情況であった。

 こうしたことから、ケアプランには、①実践を高めること(practice)と同時に、②システムを作ること(syastem)が重要であることを強く知らされた。これは、ケアマネジメントの第1人者でもあるカナダのカルガリー大学教授オースチンも言っていることである。後者は、ネットワーキング論を示唆するものでもあり、センターがある中学校区なり、その市区町村で、どのようなサービス等の社会資源のデリバリー・システムを作るかであった。

 その宿題が今も残されており、これは連載している意味でもあろう。

地域でのネットワーキング論?(2)<ネットワーキング、コーデイネーション、カンファレンスの関係>

2008年04月13日 | 地域でのネットワーキング論
 ソーシャルワーカーが地域でのネットワーキングを進めていくためには、まずは、基本的な2つの要件が必要であろう。そこから考えてみたい。

 ①ソーシャルワークの両機能である、コーデイネーション機能とどのような関係にネットワーキング機能を位置づけ、両者でもってソーシャルワークの目的をどのように達成するのかが示されなければならない。

 ②具体的に、ネットワーキングを進める際には、PLAN→DO→SEEの過程が不可欠であり、理論と実践のすりあわせのもとで、最終的には一定のマニュアル的なものが必要となる。

 ①は理念なり枠組であり、②は具体的な展開方法である。まずは、何回かに分けて、①について、どのようにネットワーキング機能を位置づけるかを、徒然考えていきたい。

 私は1992年に『ケースマネージメントの理論と実際』(中央法規出版)を著したが、その時から、コミュニテケアを進めていくためには、ネットワーキングが理論的にも、実践面でも必要と感じていた。そのため、その著書で、上記のような図(クリックすれば、大きくなります)を書いている。その当時は、どこまでが私の研究していく領域かは全く分からなかったが、今考えてみると、その後はコーデイネーション研究に終始してきたことになる。

 さらに、コーデイネーション研究をする中で、ネットワーキング研究が必要であると実感したことを、3点ほどふれておきたいが、今日は、その1つを話題にする。

 ケアマネジメントの研究を始めた当初、社会資源もない日本で、こんな研究をしてどうするのかという批判があった。これについては、コーデイネーションの仕事をするからこそ、新しい社会資源を作り上げていくことにつながっているのだということを主張した。こうした批判に応えて、それを理論化するために、この図を作るきっかけになったと思います。(当然それだけで作ったのではありません。)ここから、コーデイネーションとネットワーキングは切っても切れない関係があり、そこを私は、実務者と代表者の両方のカンファレンスで結びつけた。

その当時、私の師である岡村重夫から、このカンファレンスをもって突き詰めろとのご指導を受けたが、結果的にはさぼってしまったことになる。岡村重夫はここにソーシャルワークが機能する鍵があると感じたのだろうと思う。その当時、岡村重夫は、事例研究方法について熱心に研究されていた。また若き頃は厚生省に行き局長と議論するのがおもしろかったとの話をきいたことがあるが、一度、局長を囲んで、名の通った社会福祉研究者が集まり、「地域で大きな震災が起これば、社会福祉は何をするか」がテーマで議論した時の思い出話をされたが、その時に先生の一言が印象に残っている。局長が「岡村理論からすればカンファレンスを開くことだよね」と念をおされ、その通りと答えたとおっしゃっておられた。

 その意味では、コーデイネーションにもネットワーキングにも「会議」の目的や「会議」のマネジメントが重要な意味をもっているのではないでしょうか。

ケースマネージメントの理論と実際―生活を支える援助システム
白澤 政和
中央法規出版

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地域でのネットワーキング論?(1)<問題提起>

2008年04月12日 | 地域でのネットワーキング論
 今まで、時々厳しく綴ってきた、日本のソーシャルワークには地域でのネットワーキング機能が理論的に弱く、ひいては理論と実践がつながっていないことについて、今日から、「非連続の連載」で、「地域でのネットワーキング論」というテーマで、問題提起や、具体的なネットワーキング方法の提案を始めようかなと思案している。

 思案しているのは、私は、ソーシャルワークに不可欠なもう1つの最重要機能であるコーデイネーションの研究を、主としてケアマネジメントという方法を介して行ってきたわけで、ネットワーキングについてはずぶの素人が発言することになるからである。しかし、あえて発言することにしたのには、それなりの思いがある。
 
 ①ソーシャルワークの仕事は何かが、保健・医療等の他専門職から問われ、新しいカリキュラムに基づいて実践を容易にする教科書が作らなければならない時期にきている。その際に、他職種と際だって異なる特徴は、地域でのネットワーキング機能にあるからである。

 ②研究者と実践者の多くが地域のネットワークづくりについて発言し、皆で理論化し、それに基づいた実践ができるようにしなければ、理論化が進まない。コーデイネーションを理論化し、実践につなげていくことについても、今までに研究者と実践者のつながりの中で25年程度がかかっており、ネットワークについては、確かに実践の蓄積はあり、ある程度の理論の蓄積もあろうが、相当な時間がかかることを考えると、起爆剤的な役割が大切である。

③一方、広義のケアマネジメント(コンプリヘンシブ・モデル)では、ケアマネジメントの一部に地域のネットワーキング機能を含めており、私としては、従来からの仕事であるケアマネジメントでの一連のものとして整理することもできる。

 ただし、このブログを介して、研究者や実務者が意見を出し合うことの場をつくることであり、是非、多くの皆さんにコメントを頂き、一緒に考えていきましょう。