原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

原告適格~平成21年・公法・第2問を素材に

2011-02-10 | 行政法的内容
辰巳のサイトで講義DVD等の月間売上ランキングを見ていたら,「合格ライン労働法」が…

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という変遷をだどっていました。選択科目でありながら,よく頑張ってくれています(笑)順位が上がっていくのって,嬉しいですね。購入いただいた皆様,ありがとうございます。9時間という短い講座ですが,労働法の上位答案の作成法,それから,他の科目にも通ずる「コツ」をお話しできていると思います。試験で狙われる可能性のある新しい判例についてチェックしたい方は,「実戦演習『狙われる新判例』」を聴いてみてください。対新司法試験という観点「のみ」から,12時間,出題可能性が高いと思われる判例について「的中を狙って」解説しています。

さて,今日は,平成21年・公法・第2問について,徒然に書いていきます。単なる過去問講座ではなく,出題趣旨等を指摘していきながら,合格者だから書ける観点を示していきたいと思います。問題などは各自ご用意ください。私が合格した年なので,試験会場での思考なども適宜書いていきたいと思います。

事案ですが,マンション建築に関わる紛争ですね。近隣住民がマンション建築に反対しているわけです。本問で特徴的なのは,原告の立場がそれぞれ違うこと。F(問題のマンションから10mのところに住む住民),G(Fの住むマンションの居住者),H(問題のマンションの近くにある児童室に通う小学2年生の女児),I(Hの父親)です。で,誘導で,「建築確認の取消訴訟」を提起するという限定があります。細かいことを言うと,本当はこれでは不十分なのですよね。建築確認の取消が認められて工事の続行を防ぐことができても,既にできてしまった部分(骨組みなど)を除去することはできないのですね。建築確認(建築基準法6条参照のこと)はあくまでも工事をする地位を与えるものにすぎないのですから。原状回復(出来上がってしまった部分の除去)のためには,建築基準法9条による措置(除去命令なり原状回復命令なり)の義務付け訴訟が必要です。次に出るときは,こういった訴訟選択も適切にさせる問題になるかもしれないので,チェックしておいてください。

さて,本問は,処分の名宛人以外の者(建築確認の名宛人は建築主=業者です)が原告になるわけですから,まずは「原告適格」が問題になります。行政法の超重要テーマです。が,どうも受験生ができなかったらしい。

採点実感によると,「原告適格に関する一般的な判断枠組みは,言葉として暗記して答案に再現しているものの,内容を理解せずに適用されている例,事案に即した具体的なあてはめが弱い例が,かなり多くみられる。ここには,丸暗記に頼った従来型学習の弊害(*ここは要確認!試験委員は「論証切り貼り」をこう表現しています)がなお払拭されていない状況がうかがわれる」,「何が個別的に法令で保護されていると解釈できるのかについて,法令を注意深く,丁寧に分析した答案は極めて少ない」とあります。

ヒアリングによれば,「『優秀』に属する答案としては,第一に,事実の分析が的確であるもの,例えば,原告適格を判断する場面であれば,当事者が原告としてどのような利害を主張しようとしているのかを具体的な事案に即してきちんと書き分けているようなものである。第二に,穂分の理解が正確であるもの,例えば,建築基準法や条例がそれぞれどのような利益を保護しようとしているのかということを,まず自分で確定し,こなれた論述で事実を法文にあてはめて,自分なりの答えを出しているというものである」

以上をもとに,原告適格の論述について,検討します。

まずは,判例理論の確認からする必要があります。「法律上の利益」(行訴9Ⅰ)の解釈につき,「法律上保護された利益」という上位規範を示し,それは,「法規が不特定多数人の利益を一般公益に改称させず,具体的な個々人の利益として保護している場合」を意味し(中位規範),それをどうやって判断するのかは行訴9Ⅱが示してくれているのですね(下位規範)。根拠法令だけではなく,関係法令の趣旨・目的も加味して考えるわけです。この関係をしっかり理解してください。

したがって,まずは,根拠法令を特定し,示す必要があります。言わずもがな,建築基準法(6条)です。そして,この建築基準法の趣旨・刻的は,「生命,健康,及び財産の保護」(1条)です。まずは,1条から出発するのがよい。もちろん,着目すべきは,

近隣住民との良好な関係

などが,法の目的として明示されていないことです。

で,多くの受験生が1条だけを見て満足してしまうのですが,実はそれだけでは不十分。この点は,ヒアリングなどにも指摘されています。その後,法の中身を確認します。どのような規定があるか。問題文に抜粋されている部分だけで結構です。見てみると,建物の構造に関する規定(21条),接道義務(43条),容積率(52条)などですね。もちろん,「近隣住民との良好な関係」を目的とする規定が存在するか(建築基準法がそれをも保護する趣旨か)という観点から読んでいきます。見る限り,そういう規定はないのですね。ですから,それを答案に「ない」と示しておくことが重要です。

要するに,根拠法令である建築基準法は,違法建築物が倒壊しては困る(構造や容積率を規定するとはそういうこと),あるいは火災にあった時に被害が拡大しては困る(接道義務を定めるのはそういうこと。緊急車両が入れなかったら困る),という観点から,「生命,身体及び財産」を保護するために規定されているのです。

そのうえで,関係法令の考察です。

安全条例は,関係法令にあたります。1条は,建築基準法43条の接道義務についての詳細を定めたものと明確に規定しています。ですから,これはまさに建築基準法の接道義務と同じ趣旨です。

対して,紛争予防条例はどうか。これは関係法令にあたらないでしょう。1条によれば,「良好な近隣関係」の保持が目的ですが,先にも述べたように,建築基準法はかかる利益を保護するとは読めません。

ですから,建築基準法(根拠法令)と安全条例(関係法令)が保護する「生命,健康及び財産」の利益を,F以下の各原告が有しているか,検討することになります。

Fは,問題のマンションが倒壊したら死んでしまうかもしれない。つまり,「生命」の利益を有しています。Gは,同様の場面において,自身のマンションも倒壊して甚大な被害を受ける恐れがある。マンションの財産的価値が非常に大きいことからすれば,「財産」の利益を有しています。H(児童室に通う女児)は少し難しい。安全条例には「児童室」という文言はありませんが,これは要は「子供の安全を守る」趣旨なので,制限列挙とは解されない。ですから,「児童公園」に読み込むなり,「これらに類するもの」と解釈するなりして,「児童室に通う子供の『生命』利益も保護している」旨を示す必要があります。児童室は,児童の利用しやすい設備になっていて,多くの児童が利用していることを予定しているという「事情」がありますので,これを根拠とするのですね。だから,「児童公園と同じだよ」と言えるのです。この,思考過程をしっかり表現することが大事です。対して,父親Iは難しいでしょう。安全条例を見る限り,父親の利益までを保護しているとは読めません。「親だから子供の安全に関心がある」などの記述は不適切です。法的には親と子は別人格であり,それは事実上の利益,一般公益にすぎません。「法律上保護された利益」とは,法が「直接に」保護している利益,ということなのですね。

なお,ここでの検討は,F・G・H・Iの具体的な人格についての検討ではありません。例えば,「Hは,この児童室によく通っているのだから,法律上保護された利益を有する」という記述は不適切です。原告適格は,訴訟要件です。実態に立ち入った判断ではありません。「児童室に通う児童」というカテゴリーとして捉え,そのカテゴリーの者に法律上保護された利益があるか,という視点の検討です。ここ,気づきにくいですが,かなり重要な点です。

では,原告にJ(問題のマンションから20メートルのところにある駐車場を借りていて,そこに車を停めている者)がいたとします。この,Jの原告適格は難しい。「財産」が問題になるという意味でGと同じなのですが,その財産がGのマンションに比べれば僅少なのですね。建築基準法を読む限り,法が保護するのは生命などの重大な法益であるので,100万円程度の車までここでの「財産」と言っていいか,若干,迷うところではあります。まぁ,100万円の財産的価値があるならば,やっぱりそれは法が保護する利益と言えるでしょうかね。もっと,経済的価値の小さいものだったら,シビアな問題になるでしょう。

このあたりをきっちり書ける受験生は意外に少ないようですが,これは紛れもない重要テーマ。出来が悪かった,と試験委員が評しているので,近いうちにまた出題される可能性がありますので,よく勉強しておいてください。

過去問は,やっぱり勉強になります。

さて,三連休。私は,広島からちょっと足を伸ばして倉敷に行ってきます。パソコンは持っていかないので,金曜と土曜は更新しないと思われます。「要件事実30講」でも読みながら,ローカル線でゆったりと行こうかな,なんて思っています。受験生の皆さんは,試験が終わったら思う存分旅行ができますので,今は我慢してください。広島に来る方がいらっしゃったならば,広島ビギナーでもよければご案内いたします(笑)


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