荻原 浩 著(光文社文庫)
<評価>
感動度:☆☆☆☆☆
知識度:☆☆☆☆☆
娯楽度:☆☆☆
難易度:☆☆☆
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今年読んだ本の中でも最も印象に残ったと言っても過言ではない一冊。
正直、映画化された作品というのは映画を観ていなくても、何となく予告編等で見た俳優の顔が思い浮かんでしまうので敬遠しがちだったのだが、先日読んだ「半落ち」も良かったし、本作も非常に良かった。
やはり、映画化されるにはされるなりの理由があるということだろう。
「若年性アルツハイマー」という重い題材を扱ってはいるが、意外と軽快な語り口でところどころにユーモアも交えており、読みやすい。
…が読みやすいがゆえに、読み進めるのが恐ろしい…と言った感じ。
私ですらそうなのだから、主人公と同年代の人が読めばもっとその気持ちが強い気がする。
痴呆症を題材とした作品といえば、有吉佐和子が「恍惚の人」で先鞭をつけ、その後世の中でクローズアップされるに従っていろんな人が書くようになった感があるが、「若年性アルツハイマー」について扱ったのは、本作が初めてではあるまいか?
一人称で語られる構成、徐々に誤字脱字が増えていく日記などは、「アルジャーノンに花束を」を髣髴とさせる。
「記憶が消えても、私が過ごしてきた日々が消えるわけじゃない。私が失った記憶は、私とともに同じ日々を過ごしてlきた人たちの中に残っている。」
終盤、主人公が自分に言い聞かせる言葉。
そして、悲しくも美しいラストシーン。
クライマックスへ持って行き方は抜群に秀逸で、深い余韻を残してくれる。
幸いにして身内に痴呆症を発症した者がいない私には、この病気に対する知識があまりなかったが、「知識」としても役に立つと思われる一冊。
作者の詳細な取材振りがうかがい知れる。