大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

ひじ傘雨 第七章 10

2013年05月06日 | ひじ傘雨
 「颯太の件は、口出しは出来ないが、その役人は元々粗暴が目立ち、外国人の間でも評判が良くないので、その何だっけな、外国人からの要請でお役御免にしてくれるって約束したんだ」。
 晴れやかに言ったは良いが、言った側から腕で頭を庇う宗太郎。
 「馬鹿、拳骨を落としはせん。お前にしては上出来だ」。
 「本当ですか、兄様」。
 初めて直明に褒められ、形相を崩す僧宗太郎だが、以外な声が喜之助から漏れた。
 「兄様とは、では皆様は全てご承知なのですか」。
 これは直明、宗太郎の二人にも驚きだった。
 「やはり旦那さんはご存じでしたか」。
 瑾英は、眉を八の字にする。
 「吉乃が私に嫁いでくれた折から、好いたお人がいることは分かっていました。それでも私は構いやしませんでした」。
 月足らずで産まれた子は、己の子ではないとしても、上総屋で生を受けた命。上総屋の総領息子だと詮索はしなかったと喜之助は言う。
 「実の父親よりも、先に私の指を握ったのです。私の子に間違いありません」。
 そして須坂藩のお家騒動の折りに、堀家からの使者が訪れ、事は明らかになったが、それでも颯太は渡せぬと抗ったと喜之助は振り返る。
 「兄様は、俺と颯太坊を、堅苦しい大名の跡取りになぞしてはならぬと、ご自分で継いでくだすったのさ」。
 「宗太郎、過ぎた事を掘り返すな。それでは喜之助さん、どちらを選ばれます」。
 直明の言葉に、深い溜め息を洩らす喜之助。命を欲するか、世間的に地位を奪うかの選択である。
 「地獄か、生き地獄にございましょう」。
 苦しめてやりたいのは当然ではあるが、再びこのような事が怒らぬ為に公にする策はないものやと、喜之助は言う。
 「でしたら、新聞がよろしかろう」。
 この年に、東京日日新聞、郵便報知新聞が刊行されていた。
 「東京日日新聞でしたら、浅草の日報社です」。
 ここからも近い故、直ぐにも知らせに行こうと瑾英。
 


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