大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~ 五十

2011年11月20日 | 百花繚乱 夢の後 ~奥女中の日記~
 兄様。文月二十日。御存じでございますね。十四代将軍家茂様が、大坂城にて御逝去されましてございます。
 長州様との戦の途中で、お倒れになった知らせが届くや否や、天璋院様、和宮様から侍医の大膳亮弘玄院様、多紀養春院様、遠田澄庵様、高島祐庵様、浅田宗伯様らが急ぎ大坂へと上りましたが、間に合わなかったのでございましょうか。
 天子様からも、典薬寮の医師であられる高階経由様、福井登様が大坂に下賜され御治療に当たられた由にございます。
 高階様ら漢方の典医様は脚気との診断を下したそうにございますが、西洋医の幕府奥医師様たちはこれをりうまちだとして譲らなかったが為に、お手当が遅れたことがお命を縮めたのでないかといった剣呑な話も漏れ聞こえておりまする。
 御葬儀は、御遺体が江戸城に戻られましてからになりますが、将軍様の御遺言として、徳川宗家の後継者であり、次期将軍として田安家の亀之助様の名を上げられたそうにございます。
 されど亀之助様は未だ御幼少。平穏な時でありますれば何ら差し障りはございませぬが、時が時でありますだけに、表では、水戸様の御子息であられます一橋慶喜様のお名前も上がっております。
 これには、瀧山様始め大奥では皆、難色を示しておりまするが、慶喜様をお嫌いと申し上げるよりも、水戸様嫌いと申し上げた方がよろしいかと思われまする。



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