獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

友岡雅弥さんの「地の塩」その19)童謡「赤とんぼ」

2024-06-08 01:20:38 | 友岡雅弥

友岡雅弥さんは、執筆者プロフィールにも書いてあるように、音楽は、ロック、hip-hop、民族音楽など、J-Pop以外は何でも聴かれるとのこと。
上方落語や沖縄民謡にも詳しいようです。
SALT OF THE EARTH というカテゴリーでは、それらの興味深い蘊蓄が語られています。
いくつかかいつまんで、紹介させていただきます。


カテゴリー: SALT OF THE EARTH

「地の塩」という意味で、マタイによる福音書の第5章13節にでてきます。
(中略)
このタイトルのもとに書くエセーは、歴史のなかで、また社会のなかで、多くの人々の記憶に刻まれずにいる、「片隅」の出来事、エピソー ド、人物を紹介しようという、小さな試みです。

 


Salt37 - 童謡が生まれて100年

2018年9月24日 投稿
友岡雅弥

今年は、「童謡」が生まれて100年になります。

「童謡」と「唱歌」は、そう区別されずに使われますが、「童謡」はある意味、「唱歌」に反抗して創られたものという側面があるのです。

明治時代に学制が出来て、学校で教えられるカリキュラムもだんだん整理されてきます。

音楽の授業は、始め、海外の楽曲に日本語の歌詞をつけたものが多く歌われていました。

「埴生の宿」は、イギリス生まれ。「蛍の光」は、スコットランド民謡。
「真白き富士の根」は、歌詞はもろ、日本で起こったボート転覆事件の鎮魂歌ですが、もともとの楽曲は、アメリカの霊歌作曲家、ジェレマイア・インガルスの手によるもの。

1910年ぐらいから、日本人の作詞・作曲による曲が創られるようになり、狭義のというか、厳密な意味の「唱歌」は、これを意味します。文部省(現・文科省)が作らせたものであり、まさに国が認めた歌だったわけです。
よく飯舘村の方々と一緒に歌う「故郷」(「♪うさぎ追いし♪」です)や「菜の花畠に」の「朧月夜」とか、 大名作もありますが、 概して、「よき国民」「よき臣民」 を作ろうという、 国の画一的な教育観が出た作品も多かったのです。

この、政府による上からの「日本臣民たるに相応しい子をつくる」という目的で作られた「唱歌」に抵抗して、子どもたちの本来持つちからを育てようと、芸術家たちが、本気で取り組んだのが、「童謡」です。

「童謡」は、一つの雑誌から生まれました。
雑誌「赤い鳥」です。1918年7月1日創刊なので、ちょうど「創刊100年」になります。

日本の「児童文化運動の生みの親」と言われる鈴木三重吉が創刊しました。
すでに、それまで十数巻の個人文学全集を出していたほどの文学者でしたが、子ども (すず)が生まれ、その子どもの成長を願い、童話を作りだします。

それで、彼は「子どもであるから、手軽な文化を与えておればいいのだ」という考えに真っ向から反対し、子どもだからこそ、一流の文学者、一流の音楽家が、その才能のすべてを傾けたものを提供すべきと考えたのです。

西条八十・作詞、成田為三・作曲の「かなりや」、有島武郎も「一房の葡萄」、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」。その他、北原白秋、新美南吉、泉鏡花、高浜虚子など、多くの人たちがこの雑誌に投稿、またこの雑誌を「拠点」として活動を続けました。(ちなみに、 7月1日は「童話の日」となっています)

また、「赤い鳥」は、教育界にも大きな影響を与え、おりからの大正デモクラシーと呼応して、「大正自由教育運動」の一大潮流の渦の中心の一つとなっていくのです。

「大正自由教育運動」は、やがて「従順なる臣民」を作る国家体制からにらまれ、弾圧を受けることになります。

1938年8月、「赤い鳥」は廃刊。この年の6月には、「国民歌謡」と呼ばれる「日本よい国」「愛国行進曲」「千人針」「海ゆかば」などの曲がラジオで毎日流されていき、8月には、あの731部隊の前身である関東軍防疫部ができています。

いよいよ、戦時体制に突入しようとするときでした。

一つ、「童謡」の例を挙げましょう。

三木露風・作詞、山田耕筰・作曲の「赤とんぼ」です。

十五で姐(ねえ)やは
嫁にゆき
お里のたよりも
たえはてた

この「ねえや」は「姉や」ではありません。貧しい家から、この歌の主人公の家に、「子守り奉公」に来ていた、まだ年端も行かない子どもです。「奉公」は、何年間の年季契約で、基本は給金なしで、家事労働者として働くのです。その間の給金は、前払いもしくは後払いで、基本は親に行きます。

いわば、「人身売買」です。

そして、十五歳ぐらいで、そのまま、別のところに「女中奉公」に行き、やがては「妾(めかけ)奉公」となるわけです。

「童謡」は、また戦後復活しますが、「童謡」の背景に見える社会に、目を凝らすのも、とても、大事なことだと思います。

 

 

 


解説
「童謡」の背景に見える社会に、目を凝らすのも、とても、大事なことだと思います。

たしかに、この話を読んだあとに、「赤とんぼ」を聴くと、しみじみしますね。

 


友岡雅弥さんのエッセイが読める「すたぽ」はお勧めです。

獅子風蓮