★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

迷い込んだ椋鳥

2022-06-05 22:48:43 | 日記


そこで私は椋鳥主義と云ふことを考へた。それはどう云ふわけかと云ふと、西洋にひよこりと日本人が出て來て、所謂椋鳥のやうな風をしてゐる。非常にぼんやりしてゐる。さう云ふ椋鳥が却つて後に成功します。それに私は驚いたのです。小さく物事が極まつて居るのはわるい。譬へて見れば器の中に物が充實してゐる。そこで歐羅巴などへ出て來て新しい印象を受けて、それを貯蓄しようと思つた所で、器に一ぱい物が入つてゐて動きが取れぬ。非常に窮屈である。さう云ふやうに私は感じました。何だか締りの無いやうな椋鳥臭い男が出て來て、さう云ふのが後に歸る頃になると何かしら腹の中に物が出來て居る。さういふ事を幾度も私は經驗しました。物事の極まつてゐるのは却つて面白くない。

――森鴎外「混沌」