★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

彼らは原風景をめざす

2018-12-12 22:10:23 | 映画


園子温は、「地獄でなぜ悪い」以降、量産体制に入ったと誰かが言っていたので、なぜかあまりに観る気になれなかった。学者でも、そういうときに自分の仕事がどのレベルなのか訳が分からなくなるときがあり、どちらかというと、観るのが怖かったのである。

「恋の罪」「ヒミズ」「冷たい熱帯魚」、いずれもすばらしかったので、余計恐ろしかったのである。

先日「ラブ&ピース」(2015)を観てみたら、これが結構良かった。特に感心したのは、音楽の使い方で、これは授業で喋ってみるつもり。

観始めて五分ぐらいで気づいたのであるが、主人公が長谷川博巳であった。この俳優を憶えたのは「夏目漱石の妻」であるが、すごく上手いと思った。俳優ってすごいなあ……

脚本は園子温がかなり若いときに書いたもののようである。ロックンローラーを目指す青年は仮面で?サラリーマンをやっているが、酷い扱いを受けている。彼はぼろい下宿でうつらうつらしているが、「朝まで生テレビ」で自分への批判を言われていると錯覚するほどに追い詰められている。この番組に出ているのが、田原総一朗をはじめ、脳学者の茂木氏や宮台真司、津田大介がいて、もっともらしいことを言っている。宮台など、主人公を「あり得ないですね。国辱です」とかなんとか言っている。彼が会社のビルの屋上で亀を買う。亀をつかって人生ゲームなどをやったりしながら、自分が2020年五輪会場でコンサートをうつ夢をみたりする。それから主人公は本当にロックスターになったりするが、なんだかんだあって、栄光の頂点で結局この下宿に帰ってくることになる。惨めな時代は、社会的な自分が仮の姿で真の自分が隠れているような気がしているのだが、結局成功しても同じなのである。西田敏行演じるサンタクロ-スは、捨てられたペットや人形を、下水道の隠れ家で綺麗にしてクリスマスに配っているらしいのだが、彼らはたぶんまた捨てられるであろう。愛は、下宿や下水道の中にしかない。

はじめ、「バットマン・リターンズ」みたいな映画だなと思ったが、少し違う。われわれの文化では、社会への絶望が深いせいか、主人公たちは自分の原風景のなかに帰って行く。