原随園は西洋史家でずいぶん昔の人のように思っていたが、八十年代まで生きていた。こういう書物をいつか書いてみたいものである。
「手と指」というエッセイの中で、ペルジーノの礼拝図などの合掌に比べて日本の千手観音の方が「心をもって窺う」に足るのだと言っているところなど面白かったが、われわれはもうこういう素朴な見方は出来なくなっているなとも思う。案外、インターナショナリズムというのは、こういう素朴な感覚から生まれるものかもしれない。いまは、グローバルリズムとはグローカリズムだとか詭弁を弄しているうちに、肝心なことを忘れてしまう傾向にある。要するにわれわれは知識も身についていなければ感覚も良くなっていないのに、小賢しくなっているだけなのである。
そういえば、確かに最近は手の動作が美しい人が減ってきている気がする。板の上のボタンを叩いたりなでたりして暮らしているからかもしれない。