背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

栗原小巻とコマキスト

2005年10月27日 02時41分58秒 | 日本映画
 女優の栗原小巻といえば、ひと昔前、絶大の人気を誇っていた。吉永小百合の熱烈なファンは「サユリスト」と言ったのに対し、栗原小巻の熱烈なファンは「コマキスト」と言った。男のファンが自分のことを人前で「僕はコマキストだ!」などと公言して憚らなかったのだから、今にして思えば気持ちの悪い話だ。が、その頃は誰も恥ずかしさなど感じなかったようだ。
 栗原小巻は、吉永小百合と同い年(1945年生まれ)だったが、子役から始めた吉永とは違い、ずいぶん遅れてデヴューした。60年代後半のことで、確かテレビで一躍人気が上昇したように思う。私が覚えているのは、司馬遼太郎の歴史小説のテレビドラマで、確か「十一番目の志士」だったと思うが、加藤剛と共演した時の栗原小巻だった。その時の彼女の熱演ぶりを見て、純粋そうでイイ女だなーと感心した。しかし、好きな女優のリストに入れはしたものの、正直言って私はコマキストを自称するまでには至らなかった。実はその頃私は、同時期にデビューした新藤恵美のファンだった。これもテレビなのだが、竹脇無我が主演した「姿三四郎」で新藤恵美は三四郎の恋人役をやっていて、その可憐で一途なつつましさにメロメロに惚れていた。後年、事もあろうにその新藤恵美が、大胆なヌード集を出したり、ポルノ映画に出演したりしたのだ。いや、これにはまったく失望した。
 話がわき道にそれてしまった。栗原小巻の映画について書こうと思う。私のなかで彼女の代表作といえば、「忍ぶ川」(1972年)と「サンダカン八番娼館、望郷」(1974年)である。どちらも熊井啓監督の名作だが、前者は極上の純愛映画だった。そして、当時最大の話題作だった。なぜ話題になったかといえば、あの栗原小巻が全裸になったというからだ。「コマキスト」たちの驚きたるや推して知るべし、見てはいけないものを見たいとばかり、みんな映画館に詰め寄せたのだった。私も映画館へ行った。確か浪人の頃だった。今か今かと固唾を飲んで見ていた覚えがある。
 「忍ぶ川」は、暗い白黒映画で、東京に下宿している苦学生(加藤剛)が、飲み屋で働く若い娘(栗原小巻)に惚れて、そこに通いつめ、ついに彼女を射止める話だった。問題の全裸シーンというのは、郷里で古風な結婚式を挙げたその初夜の場面だった。真冬の凍てつくような田舎家の古い日本間で、愛し合う二人が寝床を共にする。そして、氷をも融かす熱さで抱擁する。ロマンスの極致でのヌードなのだ。これなら許せる。栗原小巻の女優魂に対し、詰め掛けたコマキストはみな脱帽して映画館を後にしたことは言うまでもない。


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