背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

チャーリー・パーカーの半生 (10)

2019年08月04日 22時56分38秒 | チャーリーパーカー
 レベッカの母ファニーは、道徳心の強い女性だった。娘がチャーリーと仲良くしているのを知って、注意するようになった。最近色気の出てきた娘が年下の少年と肉体関係を持って、子どもをはらみでもしたら、大変だと思ったにちがいない。レベッカに対しファニーは、一階のチャーリーの部屋に入って二人きりになることを、禁じた。下の娘たちにも、そんなところを見かけたら、教えるようにと命じた。
 ファニーは、チャーリーの品行が良くないことも気になっていた。人づてに聞くと、学校の成績も悪いそうだし、ぐうたらな不良少年だとしか思えなかった。ファニーはレベッカに、チャーリーのことを悪しざまに言うようになった。黒人の俗語で「汚らわしい嫌なヤツ」を意味する「ドブネズミ」(alley rat)とまで呼ぶようになった。それでもレベッカがチャーリーの肩を持って、交際を続けているので、何とかしなければと思っていた。
 ある日、チャーリーの部屋にレベッカが彼と二人だけでいるところを妹が目撃して、ファニーに告げ口した。ファニーは怒って、レベッカをきつく叱った。
 
 チャーリーの母アディは、二人の交際に反対ではなかった。息子がレベッカに夢中になっているのも知っていたし、自分が息子をかまってやれないだけに、放任していた。レベッカのことも気に入っていたようだ。
 後年、レベッカは、その頃のアディとチャーリーの母子関係について、こう語っている。(Stanley Crouch “Bird Land: Charlie Parker, Clint Eastwood, and America”1989 から引用。筆者のスタンリー・クラウチは、1980年代にレベッカを探し出し、彼女に初めてインタビューを試みた黒人の評論家である)
 「アディはいつも彼の思いのままにさせていたけど、深い愛情みたいなものは欠けていたように感じました。不思議でした。あれだけ息子のことを自慢して、彼のために働いて、何でも与えていたのに、二人の心は通じ合っていなかったようでした。彼は与えられるだけで愛されていなかった。彼には心の渇きがあるように思えて、そういう感じがひしひしと伝わって来て、私の気持ちも動かされたんです」(拙訳)

 1935年6月、レベッカはリンカーン・ハイスクールを卒業した。
 卒業式の日、チャーリーは、学校のオーケストラでバリトン・ホーンを演奏していた。それを見て、レベッカは初めて彼が実際に楽器をやっているのを知って驚いたという。それまでデートをして、いろいろな話をしたのに、そんな話は一度も出なかったからだ。演奏壇からチャーリーはレベッカの方をちらちら見ていた。そして、その日の祝賀会で、二人はダンスを踊った。

 チャーリーは、今度こそ学校を中退しようと決心を固めた。昨年の夏前、落第が決まって、1年生をもう一度やらなければならなくなった時、退学しようと思った。しかし、レベッカに説得されて、退学は断念した。彼女といっしょに登校し、学校が終われば、デートできる楽しみがあったからだった。彼女がいるから学校に通っていたわけで、彼女がいなくなってしまえば、学校に行く意味もなくなっていた。それに、今年もまた落第で、三年目の1年生をやらなければならない。
 ハイスクールを中退して、レベッカと結婚しようとすれば、自活の道を考えなければならない。チャーリー・パーカーがプロのミュージシャンを目指そうとしたきっかけは、案外単純で、早くレベッカと結婚したかったことだった、と私には思えてならない。
 レベッカは、ハイスクールを4年で卒業すると、カンザス・シティの公立図書館に就職した。夕方仕事が終わると、チャーリーと会って、デートを続けた。
 チャーリーは、学校の先輩ローレンス・キーズのバンド”ディーズ・オヴ・スウィング“(間もなく”テン・コーズ・オヴ・リズム Ten Chords of Rhythm”と改名したようだ)に入って、アルト・サックスを吹いていた。が、一日11時間から15時間、猛然とサックスの練習に励むようになったのは、この頃からだろう。1935年秋、15歳になったチャーリー・パーカーは、人生の目標を定め、それに向かって走り始めていた。
 1936年の春、ラフィン一家が、2年そこそこでアディ・パーカーの家の二階を引き払い、引っ越すことになった。母ファニーは、娘とチャーリーの仲を無理やり引き裂こうとした。
 しかし、レベッカは母親にチャーリーとの交際を禁じられたにもかかわらず、密会を続けた。妹たちも協力するようになり、二人のデートを取り持つ役を務めた。



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