背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

『佐々木小次郎』

2012年10月29日 10時50分53秒 | 日本映画
 28日(日曜)、大谷友右衛門のデビュー作『佐々木小次郎』を観る。
 東宝作品。監督稲垣浩、脚色松浦健郎、原作者の村上元三も脚色に参加。音楽深井史郎で、東映時代劇で聞きなれたテーマが流れる。
 私が観たのは、総集編(タイトルには「総篇」となっていた)、141分。データベースで一応調べてみると、第一作『佐々木小次郎』は昭和25年12月19日封切、第二作『続佐々木小次郎』は昭和26年3月31日封切、第三作『完結佐々木小次郎 巌流島決闘』は同年10月26日封切。第二作と第三作の間が半年以上開いている。第一作と第二作は東宝と森田プロとの提携作品、第三作は東宝だけの作品になっている。森田プロとは、争議で東宝を離れた森田信義の会社である。
 上映時間は、第一作116分、第二作116分、第三作はデータベースに記されていないが10巻とあるので約95分であろう。足してみると327分ではないか。大変な大作である。総集編は半分以上カットして141分。それでも長く、ビデオで観たので、途中休憩した。
 村上元三の原作は読んでいない。が、吉川英治の「宮本武蔵」のアンチテーゼとして戦後書かれた作品だけあって、佐々木小次郎を恋に悩む現代青年のように描いている。映画を観て、これは時代劇の恋愛映画ではないか、と思った。
 小次郎は決して驕慢でエキセントリックで女好きの剣士ではなく、心の弱い普通の若者である。剣も強くなりたい、立身出世もしたい、が何よりも恋する女と幸福になりたい、そこで何度も挫折も味わう、そんな若者なのだ。
 小次郎が恋する女が三人登場する。まず、幼馴染で小次郎の初恋の相手で生涯のマドンナだった娘、とね(兎禰)。これを山根寿子がやっている。が、娘にしては老けて見えた。山根寿子と言うと後年の母親役のイメージが強く、やや面食らった。山根寿子はこの時何歳だったのだろう。調べてみると、28歳。やっぱり娘役をやるにはトウが立っている。
 大谷友右衛門はこの時30歳だったが、意外に若く見える。が、前髪で小姓のような派手な着物(白黒映画で色は分からない)を着るには、彼もどうかと感じた。背が低く、小太りで、顔もふっくらしているのだ。小次郎より金太郎の方が似合いそうだった。
 ともかく、娘とねは許婚があるのに、小次郎と駆け落ちしてしまう。映画は二人の駆け落ちシーンから始まる。とねの兄貴が怒り狂って追い駆けるのだが、この兄貴役が清川荘司。例のごとく、メークに懲り、目をひんむいて異様な顔付き。そこへ旅からひょっこり帰って来たのが許婚の男、この役は徳大寺伸で、小次郎の親友なのだが、まったくの善人。許婚を奪われたにもかかわらず、男としての自分に自信がないようで、小次郎と闘うどころか、とねと小次郎の恋をかなえてやろうと、協力者になってしまう。
 小次郎はとねと駆け落ちを図ったが、追っ手が迫り、とねを置きざりにして、一人で逃げていく。ただし、必ず迎えに来ると約束して。
 ここまで観て、私は『宮本武蔵』のパロディだと思った。小次郎が武蔵、とねはお通、兄貴がお杉婆さんで、許婚が又八だ。
 そして、小次郎は剣の修業に励んでいく。越前の名門道場などを荒らし回って、京都に上る。
 友右衛門の剣さばきや立ち回り、下手なことこの上ない。稲垣浩も困ったのか、カット割りを細かくして誤魔化すしかなかった。剣戟映画ではないから許そう。ただし、友右衛門のセリフ回しは、まったく歌舞伎調ではなく、口語的でなかなか良かった。また、恋に悩む表情もアップに耐え、デビュー作とは思えない。やはり、歌舞伎で役者をやっていただけのことはある。というよりむしろ、映画に向いた演技ができる素質があったのだろう。これが、この映画がヒットした一因だと思う。
 次に登場する娘が、琉球国の女王で、これを高峰秀子がやっていた。怪しげな服を着て、変った役だった。なぜ、琉球から大坂(堺だったかもしれない)に来ているのかは不思議だが、南蛮貿易をしている豪商に招かれ、滞在していたようだ。この豪商役は月形龍之介で、これも変った役どころ。月形は戦前の『宮本武蔵』では小次郎をやっていたのに、この役は何なのか、と戸惑う。
 小次郎はこの女王と豪商に町で初めて出会うのだが、映画の後半で女王に再会して恋をし、結局振られて、お姫様は琉球に帰ってしまう。
 三人目の娘、小次郎がとねの次に恋をして、また駆け落ちする娘は、出雲の阿国の愛弟子で、まんと言う。この役は、宮城野由美子。三人の娘の中では一番可愛い。純真で一途な娘。小次郎に思いを寄せ、小次郎に身を委ねるのだが、その愛に不信を抱き、入水自殺してしまう。『佐々木小次郎』が宮城野由美子のデビュー作。これで人気が出たそうだが、セリフ回しも表情も硬い。
 宮本武蔵は三船敏郎が演じているが、データによると第三作から登場。総集編では武蔵の出るシーンが三度あり、最後は巌流島の決闘シーンだった。粗暴で強いだけの武蔵で、主役でないから当然、魅力がない。しかし、これは仕方がない。後年、三船は同じ稲垣監督で『宮本武蔵」を撮るが、この映画がきっかかけになった。
 巌流島のラストシーンは大変良かった。佐々木小次郎の側から決闘を描いているので、小次郎が倒れた後に余韻が残る。最後に、小次郎は武蔵に破れ、浜辺に咲く花を握り締め、とねとの幸福を夢見ながら息絶える。
 全体を通して、甘ったるい映画だった。が、なぜか飽きずに鑑賞。ただ、稲垣浩得意の点景カット(花や鳥や川のせせらぎなどの挿入カット)は私の好みではない。画面に詩情を添えようとする意図は分かるが、押し付けがましく感じてしまう。また、オーバーラップが多すぎると感じた。
 出演者はほかに、藤原釜足(小次郎に付き随う忍者で大変良い役)、浜田百合子、東野英二郎、高童国典、森繁久弥など。(了)
 


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