背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

映画「ふたたび SWING ME AGAIN」

2012年06月28日 23時43分12秒 | 日本映画
 DVDで映画「ふたたび SWING ME AGAIN」(2010年11月公開)を観た。
 いい映画だった。暗くて重いテーマが背景にあるのに、それを前面に出さず、老人の青春回帰のドラマにしていて、とても良かった。老人と孫息子との心の交流、老人の昔のバンド仲間たちと暖める旧交も、ヒューマニスティックに描かれ、感心した。

 この映画は一種のロードムービーで、ハンセン病で島の療養所で人生の大半を棒に振った老人・貴島健三郎(財津一郎)が、大学生の孫息子(鈴木亮平)の運転する車であちこちに住む昔の仲間を訪ねていくというストーリーである。主人公の老人は元トランペッターで、昔の仲間とは、50年前に結成していたジャズバンドのメンバー。バンドの名は、クールジャズ・クインテット。レコードを一枚出していて、孫息子は子供の頃、家にあったそのレコードの「ALIVE AGAIN」を聴いて、ジャズが好きになり、大学のジャズ研でトランペットを演奏しているという設定。実は、老人の息子(陣内孝則)は、ハンセン病の父が生きていることを家族にずっと隠していたのだが、父の死期が近づいて初めてみんなに打ち明け、神戸の自宅に招くのだった。だから、孫息子はそのレコードのトランペッターが祖父だったことを知って、驚く。そして、バンドのメンバーを訪問する旅に付き合うことになるのだ。
 この映画、ファーストシーンから徐々に主人公の家族関係やジャズバンドのことを観客に知らせていくので、観ていて飽きないし、惹き付けられていく。財津一郎の存在感が大きく、また孫息子の鈴木亮平という男優もなかなか良い。



 ただ、回想シーンがちょっと多いのが気になった。主人公の50年前の様子がほとんど回想シーンで説明され、しかも二十代の主人公役が財津一郎でないので、違和感を感じた。たとえば、神戸のジャズクラブにバンドの出演が決まって、メンバーが喜んだのも束の間、主人公はハンセン病を発病。主人公が療養しなくてはならなくなって、出演が流れてしまう。これは回想シーン。また、主人公の恋人がバンドの女性ピアニストで、この時すでに婚約者の彼女は妊娠していて、結局主人公と彼女は離れ離れになってしまう。ここも回想シーン。女性は出産後、赤ん坊と引き離され、両親に冷たくあしらわれる。この回想シーンは誰の回想なのか不自然で、描き方も拙劣だった。また彼女がなぜ死んだのかよく分らなかった。自殺でもしたのだろうか。この子供が主人公の息子(陣内)なのだが、この息子の半生は不明。苦労したようだが、この映画のドラマの軸は息子にはないので、説明できなくとも仕方あるまい。
 とはいえ、主人公が孫息子と車の旅に出るまでの流れはうまく描かれ、ユーモラスなシーンもあって、この映画のシナリオライター(矢城潤一)と監督(塩屋俊)の手腕とセンスの良さを感じた。
 また、登場人物で言うと、療養所の看護師(福祉士か)の韓国人の若い女性が重要で、MINJIという女優だが、演技はうまくないが不思議な魅力があった。一人二役で、主人公の恋人のピアニストもやっていた。彼女は最後に主題歌のバラードも唄っているが、この歌が心に滲みた。
 ほかに、孫息子の恋人と姉が出て来るが、たいした役ではない。姉の結婚が破談になったり、恋人が親に反対されて、いったん別れてしまうところなど、サブストーリーとしてやや取ってつけたような印象を受けた。また、主人公の息子の妻(古手川祐子)の描き方は類型的で中途半端だった。
 一方、主人公と孫息子が訪ねるバンドの元メンバーたちの面々は、それぞれ個性的で、キャスティングも良かった。犬塚弘、佐川満男、藤村俊二であるが、みんな年を取ったものだと思った。なかでも犬塚弘がとくに目立っていた。療養所の友人宅で織本順吉も出ていたが、年を取って、最初誰だか分らなかった。
 ラストシーンで、バラバラになったメンバーが50年ぶりに神戸のジャズクラブに集り、ジャズを演奏するのだが、ここは感動的だった。この時、ジャズクラブのオーナー役で渡辺貞夫が出て来て、アルトサックスを演奏するのも見せ場だった。
 最後に主人公の老人は、想い出の教会に赴き、早世した恋人の元へ帰っていくのだが、この終わり方も悲惨ではなく、幸福感が滲み出て、良かったと思う。
 映画「ふたたび」は、最近作られた映画の中では出色の出来ばえで、心に残る一作であった。(了)



 


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