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万引き家族

2018年08月14日 | 映画

是枝裕和監督が、犯罪を重ねることで生計を立て、肩を寄せ合って生活している家族の姿を描いたヒューマンドラマ。2018年カンヌ国際映画祭にてパルムドールを受賞。リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林が共演しています。

万引き家族 (Shoplifters)

東京の片隅で肩を寄せ合って生活している5人家族。一家は初枝(樹木希林)の年金を頼りに、それぞれ日雇いや非正規雇用、アルバイトで働き、足りない分は万引きで補うという、ぎりぎりの収入で支え合って暮らしていました。

ある日、治(リリー・フランキー)は近くのアパートの廊下で震えている幼い女の子を見つけ、心配して家に連れて帰ります。女の子が虐待を受けているらしいことを知った家族は、一家の娘として迎え入れ、育てていくことにしますが...。

カンヌ受賞作ということもあって、イギリスのケン・ローチ監督や、ベルギーのダルデンヌ兄弟のような作品をイメージしていましたが、想像以上にガツンとくる作品でした。この映画には今の日本にあるさまざまな社会問題が描かれていて、私自身なんとなくわかってはいても目を背けていた現実を、目の前につきつけられたように感じました。

特に、この映画が公開されたちょうど同じ時期、都内で幼い子どもが虐待死した事件が起こったこともあり、どうしても映画のりん(佐々木みゆ)を重ねて見てしまいました。映画では最後に実の親元にもどされますが、あの後りんはどうなっただろう... 無事を願わずにはいられませんでした。

ただ、暴力のような命の危険こそないけれど、学校に通わせず、万引きさせることも、りっぱな虐待なのですよね。治と信代(安藤サクラ)のしていることは一見優しいけれど、愛とは言えないと思ってしまいました。祥太(城桧吏)はそれがわかっていたから、最後まで彼らを親と認められなかったのではないかな?と思いました。

彼らを見ていると、りんは自分たちで引き取るのではなく、警察に連絡するべきだったのでは?とか、しかるべき方法で公的支援を受けて生活すべきだったのでは?と思ってしまいますが、それは健全な側の”正論”に過ぎないのでしょうね。実際には警察はなかなか動いてくれないし、ほんとうに必要としている人が援助を受けられない現実がある。

そしておそらく彼らは、これまでさんざんNoをつきつけられてきて、期待できないとわかっているから、世間の目の届かないところで息をひそめ、肩を寄せ合って生きていくという道を選ばざるを得なかったのかもしれません。いつか終わりが来ることを予感しながら、束の間の幸せを謳歌するために。

彼らの生き方を認めることはできないけれど、ここまで来るまでに、どこかで彼らを救う手立てはなかったのか、やり直す方法はなかったのか、考え込んでしまいました。

映画の終盤では、まるでトランプのカードを表に返していくように、登場人物たちが抱えている事情が次々と明らかになっていきます。根拠はないですが、なんとなく初枝と信代と亜紀(松岡茉優)は親族だと思い込んでいたので、全員みごとに血のつながりがないとわかった時にはあっけにとられました。

亜紀の実の家族のことも衝撃でした。一見何不自由のない理想の家庭に見えて、亜紀をいない者として何事もないように生活しているのが怖ろしかった。りんの両親にしても、何も知らなければ、きっと子どもを誘拐された気の毒な夫婦にしか見えなかったでしょう。血のつながりがあっても、仮面家族だったという真実。

家族っていったい何でしょう。そもそも家族の最小単位ともいうべき夫婦が他人であることを思えば、血のつながりは必ずしも必要ではない気がするけれど...。無条件の愛? 揺らぐことのない信頼関係? 映画を見たあともいろいろ考えさせられました。


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12 コメント

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Unknown (ノルウェーまだ~む)
2018-08-15 10:10:47
セレンさん☆
セレンさんの感想をずっと待ってました!
仮面家族も恐ろしいし、愛が強すぎても破たんするし、愛や絆があっても正しくなければダメだし…本当に家族って難しいです。
セレンさんのご家族が理想のファミリーですよね☆

彼らはそもそもこっそり死体を庭に埋めていたので、警察に通報したりとか出来なかったのかな。匿名で通報も出来そうですが、そのような倫理観がある人なら万引きとは無縁なはずですし(笑)
彼らが一番欲しかったのが、家族の絆だったのでしょう~~
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☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ (セレンディピティ)
2018-08-15 14:53:32
まだ~むさん、こんにちは。
見てから一ヶ月経ってしまいました。><
早速のコメント、ありがとうございます。
理想のファミリー...
う~ん、ちょっとしたボタンの掛け違いで崩壊することもあるかもしれないし
この映画を見ると、今いい関係を築いていることが奇跡のようなものかもしれない
なんて考えてしまいました。

初枝はひとり暮らしということになっていたみたいですし
よけいなことをして警察に詮索されたくない事情があったのでしょうね。
それぞれが家族という夢を追い求めて集まったのでしょうが
幻に終わってしまったのが切ないですね。
それぞれにとって新しい居場所が見つかるといいのですが...。
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現代社会の縮図 (ごみつ)
2018-08-15 21:28:44
こんばんは。

私も見てからだいぶ時間がたちますが、折につけこの映画の事を思い出したりしています。

私たちが子供の頃は高度成長時代、社会に出てすぐにバブルがやってきて、20年くらい前に破綻。
私自身、生活が苦しいな~って思い始めたのは最近になってからですが(ローンのせいもありますが)、もしも失職したら、今の生活を維持出来るか自信ないですよね。

社会の破綻って、時間をかけてじわりじわりとやってくるものだという事がよくわかる様になって来ました。

あんなに好景気で浮かれていた日本の現状がこれ。もちろん普通に生活出来ている人が大半ですが、それもこれからはわからないですよね。

映画の大きなテーマは家族という形についてだったので、そこも心にひびきましたが、やっぱりいつの間にか貧乏になってしまった日本社会の姿が辛い映画でした・・。

素晴らしい作品でしたが、色々ときつい映画でしたね。

https://22596950.at.webry.info/201807/article_3.html
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☆ ごみつさま ☆ (セレンディピティ)
2018-08-16 10:27:52
ごみつさん、こんにちは。
今の日本、オリンピックに沸いて、次々と新しいビルや施設ができて
一見景気がいいように見えるのだけれど
その陰では、こうしたさまざまな社会問題がそのまま置き去りにされている
という現実がよく伝わってくる作品でした。

気がつくと、日本はいつの間にか貧しい国になりましたよね。
高度経済成長期は、貧しくても未来への希望があったけれど
今は衰退する未来しか見えないのがつらい...
それだけでなく、社会の不寛容が気になります。

いろいろ考えさせられる作品でした。
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家族 (ここなつ)
2018-08-16 12:50:53
こんにちは。
私は自分自身の考え方として常日頃から「生みの親より育ての親」という風に思っていて、必ずしも血縁があることがベストだとは思っていないのです。それを前提にしても、やはりこの家族のあり方には諸手を挙げて賛成しかねます。そしてそれが社会の歪がもたらしたものだということも一方では納得しています。でももう一方で、「正しくないこと」が生活の糧になるのはやっぱり違うよ!と思っていて…。
そんな中、セレンディピティさんが書かれていらっしやる
>暴力のような命の危険こそないけれど、学校に通わせず、万引きさせることも、りっぱな虐待なのですよね。
という言葉に、我が意を得たり!と思いました。子供に生きる術を教えないで何でも親が先回りをしてしまうことを「優しい虐待」と言うのですってね。本作では一見生きる術を教えているかのように見えますが、実は正しくない術を共有しているだけであり、彼らが最終的にどんな大人になっていくのかを考えたときに、やはりこれはりっぱな虐待なのだと思います。
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☆ ここなつさま ☆ (セレンディピティ)
2018-08-16 20:01:21
ここなつさん、こんにちは。
子どもを学校に通わせず、犯罪の片棒をかつがせるところは
やっぱり看過できませんよね。
最初はお菓子だったのが、釣り竿になり
やがては車上荒らしと、どんどんエスカレートして...
祥太はずっと疑問に思っていて、いつかこの生活を終わらせなければならなかったのでしょう。
新しい環境で、まっすぐに育ってくれることを祈ります。
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基本ですな (だぶるえんだー)
2018-08-17 21:10:12
実際に見ていない私が評してはいけないのでしょうが、盗みはいけません。つい先日
「ある世捨て人の物語」
というノンフィクションを読んで猛烈な不快感に襲われたところでして。

基本の基本を教えるのは案外困難なのでしょうか。
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Unknown (なな)
2018-08-17 22:10:22
ほんとうにいろいろ考えさせられる作品で
観客はそれぞれ、自分の抱えている問題にリンクさせながら観た人もあったんじゃないかなと思いました。
血がつながっていればこその逃げられない苦悩もあるわけで。
私は独居老人問題が他人事ではありません。
心細くて他人でもいいから一緒に住んでほしいと
その気持ちは年取った親を見てるとわかるようになりました。

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☆ だぶるえんだーさま ☆ (セレンディピティ)
2018-08-18 10:26:12
だぶるえんだーさん、こんにちは。
生きるためにはしかたがない...という言い分なのでしょうが
人のものを盗るのはいけませんね。
ましてやそれを子どもに指南するなんて...。

「ある世捨て人の物語」ググってみました。
身をもって生きる実験をしているのでしょうか?^^;
盗みはいけませんが... 興味深いです。
やはり人間は、野生動物のようにはいかないのでしょうね。
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☆ ななさま ☆ (セレンディピティ)
2018-08-18 11:30:59
ななさん、こんにちは。
見た後も折に触れ、考えさせられる作品でした。
いろいろな社会問題が描かれていましたが
特に高齢化社会を迎えた今、介護の問題や独居老人の問題など
誰にとっても他人事でなく、避けられない問題ですね。

日本は血のつながりが重視されるので
何事も家族の中での解決が求められる傾向がありますが
これからは変わっていく必要があるかもしれませんね...
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