セレンディピティ ダイアリー

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炎のランナー/バベットの晩餐会 他

2017年12月09日 | 映画

DVDで鑑賞した中から、3作品の感想です。

炎のランナー (Chariots of Fire) 1981

ハクソー・リッジ」と同じく、信仰上の理由からオリンピックのレースを棄権したランナーがいたと知り、見てみたくなりました。それぞれの思いの中で陸上競技の頂点を目指してひたむきに努力する選手たちの、清らかな美しさに心が洗われましたが、1920年代のイギリスの権威主義・階級社会についても考えさせられる作品でした。

ケンブリッジ大学に入学したハロルドは、ユダヤ人であるがゆえに差別を感じ、特技の走ることでイギリス社会で認められようとオリンピックを目指します。一方、スコットランドの宣教師の家庭で育ったエリックは、走るという自分の才能を生かすことが神の恩寵に応えることだと信じ、オリンピックを目指します。

ハロルドとエリックはともに1924年パリ・オリンピックの代表選手に選ばれます。しかし予選の日が安息日と重なることを知り、エリックは出場を断念することを決めますが、他の選手が種目を代わってくれて、無事に出場することができたのでした。

ハロルドに対する大学の上官の態度や、アメリカ選手に対する見方などイギリスならではと感じるところもありましたが、選手たちは実力の世界で結果を出し、互いに敬意という絆で結ばれていることが伝わってきて救われました。 ヴァンゲリスのテーマと浜辺を走る選手たちの尊い姿が心地よい感動を与えてくれました。

バベットの晩餐会 (Babettes gæstebud / Babette's Feast) 1987

19世紀デンマーク・ユトランドの小さな村に、2人の美しい姉妹がいました。姉妹は若い頃に村を訪れた名士に求婚されたこともありましたが、牧師である父を助け、神に仕える道を選んだのでした。父亡き後、姉妹はパリの動乱から逃れてやってきたバベットという女性を受け入れます。

バベットは身の上を何も語りませんが、お料理上手で家政婦としてよく働きます。ある時、宝くじで1万フランを当てたバベット。当然パリに戻るだろうと姉妹は落胆しますが、バベットはこのお金で姉妹の父である亡き牧師の生誕100年のお祝いのディナーを作らせて欲しいと申し出ます。実は彼女はパリの名門レストランの伝説のシェフだったのです...。

バベットがフランスから手配したウミガメやウズラが生きたまま運ばれてきて、村人たちは恐れおののきますが、テーブルセッティングも完璧に、バベットはウミガメのスープに、ウズラとフォアグラのパイと、食べる芸術とよぶのにふさわしい数々のお料理を用意します。(私は舞台裏の厨房のシーンも大好き!)

最初は恐々口にしていた村人たちも、あまりのおいしさに日頃のいがみ合いも忘れ、誰もがいつしかとろけるような笑顔になっていきます。極上のお料理は時に魔法をかけることもあるのですね。何十年かぶりに腕をふるうチャンスを得て輝く、バベットの誇り高い幸福な表情が心に残りました。

ストレンジャー・ザン・パラダイス (Stranger Than Paradise) 1984

パターソン」の独特の世界が気に入って、ジム・ジャームッシュ監督の他の作品も見てみました。全編モノクロで撮影され、ニューヨークを舞台にした"The New World"、クリーブランドを舞台にした"One Year Later"、フロリダを舞台にした"Paradise"の3部で構成されています。

ハンガリー出身でニューヨークでギャンブラーとして生計を立てているウィリーは、クリーブランドに住む叔母から頼まれ、10日間ブタペストから来た従妹のエヴァを預かります。ウィリーの相棒エディも加わり、親しくなる3人。1年後、ウィリーとエディはエヴァが住むクリーブランドを訪れ、そのまま3人でフロリダに向かいます...。

東欧移民の若者たちの何ということはない日常がだらだらと描かれる...といってしまえばそれまでですが、喜怒哀楽、勧善懲悪、起承転結のはっきりしたハリウッド映画とは一線を画していてそこが新鮮でした。3人のバランスも絶妙で、シーンのひとつひとつがセンスよく絵になります。

ウィリーがアメリカに来たばかりのエヴァに先輩風を吹かせたり、エヴァがウィリーから餞別にもらったドレスが気に入らなくてすぐに脱いでしまったり、ちょっとしたところにリアリティが感じられておもしろかった。スローな物語もラスト近くで急展開し、きっちり着地を見せてくれます。


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8 コメント

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Unknown (Bianca)
2017-12-10 13:39:34
セレンディピティ様 こんにちわ。
3つとも見ています。「パラダイス」移民が先輩風をふかすところ、クリーヴランドの叔母さんが分からない母国語で文句を言うところ、飛行機を茫然と見送るラストシーンが特に好きですが、おかしい所満載ですね。「ランナー」スポーツ青年と信仰者の清らかな感じが充満していますね。「晩餐会」はフランス革命前のゴージャスな宮廷と北欧の寒村の空気が対照をなしていて面白いと思いました。この作品でセレンさんはさぞ、台所とか材料とかをお楽しみになったことと思います。
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Unknown (なな)
2017-12-10 20:58:30
こんばんは

「炎のランナー」は観ました~
細かいところは忘れていたけど
セレンさんの感想で思い出しました。
そうそう「ハクソーリッジ」のような「信念」を貫いたお話。
こういうのは絶対実話でないと・・・・。

「バベット・・・」幸せな気持ちになりますよね。
やはり「胃袋を掴む」って大切だなぁと思いました。
美味しいものを食べると、恋愛したときのような幸福ホルモンが出るんですってね。
バベットも、天性の料理の腕を振るう機会をr堪能できて
みんなハッピーな気持ちになれる素晴らしい物語ですよね。
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名作三昧 (ごみつ)
2017-12-10 23:06:27
こんばんは!

今回の3本、どれもその年のベスト1級の映画ばっかりで凄いですね!

「炎のランナー」は、ロンドンオリンピックの陸上競技での実話をもとに、当時の英国社会を描いた作品で、私は当時、心の底から感動した作品です。
オープニングとラストのシーンが一緒で、映画が終わってからの余韻が凄かったです。

「バベットの晩餐会」は、これ料理をテーマにした作品としては映画至上ベストじゃないですかね?バベットは、あれですよ、フランス版「宮廷女官チャングム」ですよ。(違)

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はジャームッシュが「俺も小津映画が撮れるんだ!」っていう意気込みでつくった秀作で私も大好きです。

競馬のシーンで出てくる競走馬の名前は全部、小津安二郎の映画のタイトルなんですよ。
当時、「どんだけ小津が好きなんだ!?」と思いました。

名作映画は、やっぱりいくらでも語れますね~~。
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☆ Biancaさま ☆ (セレンディピティ)
2017-12-11 08:59:43
Biancaさん、こんにちは。
映画好きのBiancaさん、さすがに全部ご覧になっていらっしゃいますね。
「パラダイス~」そうそう、ちょっとしたところがおかしいんですよね。
クリーブランドのおばさんといえば、せっかく作った故郷のお料理に
ウィリーがエディに食べろ、食べろとせっつく場面もおもしろかった。
最後のたたみかけるようなエンディングも大好きです。
「ランナー」はおそらく当時見たら純粋に感動したでしょうが
今見るとイギリスの権威主義がどうも気になってしまいました。
「晩餐会」バベットが助手の少年に味見させるところとか大好きで。
あの少年はきっといつかシェフを目指すのでは?と想像しました。
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☆ ななさま ☆ (セレンディピティ)
2017-12-11 09:17:37
ななさん、おはようございます。
「炎のランナー」国の代表として出ているあの場面で信念を貫こうとするのは
ドスにも負けない強さですね。
種目を代わってくれた、仲間の選手の懐の深さにも感動しました。

「バベット」の白眉はやはりあの晩餐会のシーンですね。
食べることは喜びだな...と改めて感じました。そして作る喜びも。
久しく乏しい予算の中でやりくりしていたバベットにとっても
あの晩餐会は特別な意味をもつものだったでしょう。
見ている方も幸せのお裾分けをいただきましたね。
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☆ ごみつさま ☆ (セレンディピティ)
2017-12-11 09:30:39
ごみつさん、おはようございます。
どれも80年代の名作ながら見る機会を逸していたので、よいきっかけとなりました。
「炎のランナー」リデルのことを教えていただいてよかったです!
選手たちの清らかさ・ひたむきさに心打たれましたが
当時のイギリス社会についても考えさせられました。

「バベットの晩餐会」は以前ごみつさんがお料理映画の中で一番好きとおっしゃってたのを覚えていますが、ようやく見ることができてよかったです。
いつかチャングムも見てみたいです♪

「ストレンジャー~」は小津安二郎に影響されて作った作品なんですね!
そういえば、Tokyo Storyとか言ってましたっけ。
映画ではなんじゃそりゃ?と思ってましたが、そういうことだったのですね。
小津映画も見なくちゃな~~
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王冠よりも大切なもの (だぶるえんだー)
2017-12-11 21:50:23
どれもよさそうですが、特に
「炎のランナー」
に引きつけられます。原題も興味深いですね。

大昔に米国に遠征した日本のレスリング選手が、地元の名もない選手の強さに驚愕したという挿話を読んだことがあります。オリンピックに出た選手より強いので、不思議でならず
「あなたはどうしてオリンピックに出なかったのか」
と問いかけると
「予選の日、試験があったの」
と言う返事だったそうで。

競技に対する姿勢、選手によりずいぶん違うようです。
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☆ だぶるえんだーさま ☆ (セレンディピティ)
2017-12-12 10:11:46
だぶるえんだーさん、こんにちは。
「炎のランナー」心に残る作品でした。
原題は聖歌の歌詞から来ていますが
スポーツの崇高な精神ともつながっている気がしますね。

>「予選の日、試験があったの」
興味深いエピソードです。
なんてもったいない!と思ってしまいますが
一瞬の栄光より、その後に続く日々の暮らしを重んじる
という考え方もあるのでしょうね。深いです...。
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