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猫を棄てる/一人称単数

2021年03月07日 | 

昨年出版された村上春樹さんの本2冊の感想です。

村上春樹「猫を棄てる 父親について語るとき」

これまで私が読んだ自伝的小説の中で、最も衝撃を受け、心に残っている本は、三浦哲郎さんの「白夜を旅する人々」と、宮尾登美子さんの「櫂」です。それらと比較するつもりはまったくないものの、作品としては少々物足りなさを感じてしまいました。

本作は、村上春樹さんが初めてお父様について書いたエッセイです。おそらく村上さんは、亡くなられたお父様のとの関係について、心の中でまだ整理できていなかったのではないか、と思いました。

無理やり絞り出すように書かれた文章に、私は少々痛々しさを感じてしまいました。今の段階で本として出版する必要がはたしてあったのか、疑問を感じますが、出版社としては是非とも出したかったんだろうな。。。との事情も理解できます。

ちなみに「猫を棄てる」という物騒なタイトルは、村上さんが子供の頃、さる事情から飼っていた猫とお別れせざるを得なくなり、お父さんといっしょに猫を段ボール箱に入れて、自転車に乗せて海浜に猫を棄てに行くというエピソードからきています。

その後、家にもどると棄てたはずの猫が先にもどっていて、その後も飼い続けることになったという顛末なので、猫好きの方もどうぞ安心してお読みになってください。(=^・^=)

村上春樹「一人称単数」

この本は、短編集で雑誌「文学界」で発表された7作品と、書下ろしの表題作が含まれています。最初の短編「石のまくらに」の冒頭の1パラグラフから ”春樹節” 全開で、思わずにやりとしてしまいました。

私は初期の頃の村上春樹さんの小説が好きでしたが、いつしか苦手だと感じるようになったのは (といいつつ新作が出るとつい読んでしまうのですが) 自分のものさしに合わない人を、冷ややかなことばで断じるところにカチンとくるのだと思います。

本作では特に、女性蔑視やルッキズムともいえる表現がそこここに散見され、正直言って、不愉快に感じる描写や作品もありました。このご時世に、よくぞこのまま出版にこぎつけられたと少々驚きもしました。

8編の短編の中で、私が一番気に入ったのは「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」です。村上さんの小説は、時にどうしようもなく死の気配を濃厚に感じるものがありますが、本作もそうしたタイプの作品で、不思議な余韻が残りました。

「謝肉祭 (Carnaval)」はストーリーとしては悪くないのだけれど、全編に貫かれたルッキズムに辟易。「品川猿の告白」は人間のことばを話す猿が登場する、シュールでちょっと気持ちの悪い物語。

なんだか悪口みたいにばかりになってしまってすみません。


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4 コメント

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おはようございます♪ (にゃんにゃん)
2021-03-07 08:30:28
今日の記事にとても納得しました。
私は、一つの作品が気にいるとその作家の作品ばかりを続けて読むという癖があり、宮尾美子さんの作品も多分全部読んだと思いますが、
今日驚いたのは三浦哲郎さんの白夜を旅する人々のことです。この本を読んだ時、とんでもなく衝撃を受けました。私にとっても忘れられない一冊です

実は、たいそう話題になるので村上春樹さんの本も何冊か読みましたが、正直なことを言えば私は村上春樹さんの良さがよくわからないのです。
セレンディピティさんが今日紹介していらっしゃる本は読んでおりません。ちょっと読んでみようかなという気になりました。
☆ にゃんにゃんさま ☆ (セレンディピティ)
2021-03-07 16:53:38
にゃんにゃんさん、こんにちは。
コメントをありがとうございます。
そして、宮尾登美子さんの作品を全部読まれていること
三浦哲郎さんの白夜を旅する人々も読まれていて
にゃんにゃんさんも同様に衝撃を受けられたこと
共感していただけたことを、とてもうれしく感じています。
どちらも好きな作家さんで、一時期よく読んでいました。
にゃんにゃんさんは、青森に住んでいらしたことがおありなので
三浦哲郎さんの本は、青森の風土や気候、文化などとともに
より深く思うところがおありだったのではないでしょうか。

村上春樹さんの本は、若い時には共感できるところがありましたが
最近は失礼ながら力を抜いていると感じることもあります。
今回の2冊は、ご紹介しておいてなんですが、
あまりお勧めはできないかな。。。
でももしご興味がありましたら図書館ででも。
ルッキズム (ノルウェーまだ~む)
2021-03-07 22:45:38
セレンさん☆
お恥ずかしながら『ルッキズム』という言葉を初めて知りました。
彼の作品をそう多くは読んでいないのですが、読もう♬という気になかなかなれないのは、きっと作品のそこここにそういった『見た目』だけでなくどこかエリート意識を感じてしまうからなのかもしれません。
作者との相性ってありますよね・・・
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ (セレンディピティ)
2021-03-08 00:10:46
まだ~むさん、こんばんは。
あまりに差別描写に対して過敏に反応すると
文学ではなくなる、ということにもなってしまいますが
それにしても女性の醜さをあからさまに連呼している作品があって
ちょっと不愉快になりました。

初期のころの作品にはみずみずしい感性が感じられたものでしたが
最近の作品は人を小馬鹿にしたようなところがあって
なんだかうんざり。やれやれです。

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