「トータルコスト」
気にしているようで案外忘れがちなこの言葉、原発事故で改めて思い知らされた次第である。
月に数百円とは言え、千円弱とすれば年間1万円程度の値上げなわけで、あ~ぁというのが実感。
そもそも「原子力発電は石油火力やLNG火力に比べてもコストが安いです!」って謳い文句で導入された(導入してくれと般ピーは頼んでない...)けど、原子炉の建設費や使用済燃料保管(プールで冷却)費や再処理(プルトニウムの化学的抽出)費用、高レベル放射性廃棄物の処理(場所すら未選定)費用などなどなど、運転以外に膨大なお金がかかることは、ちょっと興味のある人ならみんな疑問に感じていたことだと思う。
まぁ今回、「炉が停止中でも外部電源で冷却を継続しなければならない」ことを恥ずかしながら初めて知ったが、これもよく考えれば当たり前だったな。核分裂生成物からの崩壊熱は臨界が起きていない時でも相当大きいことは、「最終処分場に埋める前に30~50年冷却させる」という説明から推測できたのに。あぁ、見抜けなかった自分が情けない!(逆に言えば、そうやって事実を薄いヴェールで覆い隠しながら般ピーに説明していたってことか。)
そのうち、
「同じ費用で再生可能エネルギーに投資しておけば!」(太陽光とか風力とか黒潮とか...)
「熱効率の悪い軽水炉ではなく、高温ガス炉だったら水素爆発はしなかったのでは?」(これはかなりマニアック...)
などの意見が出てくるかもね。(軽水炉の燃料棒被覆にはジルコニウム合金が使用されているが、高温下で水と反応して水素が発生するのは、化学をかじったことがある人には常識。最近では超臨界水を使った炉も研究されているらしいけど。)
ちょっと話は変わるが、よく質問されるので、改めて「核爆弾」と「原子力発電」の違いを考えてみる。
瞬間的な爆発と、継続的な発熱を比べるのはちょっと分かりにくいので、いささか乱暴だが、放出された総エネルギーとして比較する。(ここらへんが「難しい」と感じるところなんでしょうな。)
【1.核爆弾】
広島に投下された「リトルボーイ」型の核出力は約55TJ(TNT換算15kt)との試算がある。
※実際に核分裂したU235は50kg中、1kg程度だったとの試算から。
【2.原子炉】
電気出力:1GW(100万kW=1GW=1GJ/sec=0.001TJ/sec)
→熱出力:約3GW(原子炉としての実際の出力はこちら。残りの2GWは利用できず捨てている。)
おおざっぱだが、上記から商用の原子炉では約20,000秒で広島型原爆と同じエネルギーを熱出力として産み出していることが分かる。20,000秒って5時間ちょっとであり、年間連続運転と過程すると1600発分のエネルギーが出ていることになる。
※電気出力80万kW弱の福島第1原発2号機、3号機では、ウラン装架量100t程度らしいので、濃縮率3%としても3tのU235があり、それは「リトルボーイ」型の核出力の3千倍となる。もちろん全部使い切るわけではなく、使用済核燃料にもU235は残留しており、エネルギーの計算としては間違っていないと思われる。
こう考えると、原子力発電所の中(圧力容器だけでなく、使用済核燃料保管プールも)には相当量の核燃料があることになる。
日本で一般的に発電に使用される軽水炉では、U235への熱中性子の衝突による核分裂によって生じる熱(核分裂時の中性子や質量欠損、核分裂生成物の崩壊熱)を利用しているが、高速中性子が周囲のU238に吸収され、2度のベータ崩壊で生じるPu239は長崎へ投下された「ファットマン」型に使用されたものである。
フランスやイギリスに再処理を委託した際に出たプルトニウム輸送の護衛用に、専用の大型巡視船「しきしま」を350億円もかけて建造したり、国内で発生する使用済核燃料を全て処理できないからと六ヶ所村に2兆円もかけて再処理工場を建設したり(まだ試験運転中で未完成)と、とにかくお金がかかっている。今回の東京電力福島第1原発だって、廃炉にするって言っても更地になるには50年程度かかると思われる。50年後って、俺はたぶん生きてないよ...
「原発を作って!」とお願いしたわけでもないのに原発は際限無く建設され、「トイレなきマンションは困る!」と言い続けてきたのに無策のまま突っ走ってきたツケがここに来て噴き出てしまったのが本当のところだろう。さて、これまでこの政策を進めてきた政治屋のみなさん、いったいどうやって責任を取ってくれるのかな?そういう議論が聞きたいね。建設的な議論なら国会中継も意義が出てくるよ。今の国会中継はヤジと居眠りしか印象に残らないもんね。
おっと、最後はただのグチになっちまった。
とにかくトータルコストだよ。日本の財政状況を考えると、コストは無視できないからね!