とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

COVID-19ワクチン開発の問題点

2020-04-27 18:39:41 | 新型コロナウイルス(治療)
現在世界中の企業がSARS-CoV-2のワクチン開発にしのぎを削っていますが、Yale大学免疫学教室の岩崎明子教授らによる、ワクチン開発の問題点についてのCommentがNat Rev Immunolに掲載されました。内容をかいつまんで紹介させていただきます。
あるワクチンが有効かどうかは、当然どの程度感染抑制効果のある抗体(中和抗体)産生を誘導できるかにかかっているわけですが、SARS-CoVとのアナロジーから考えると、中和抗体の作用点はウイルスの細胞への侵入、融合、排出(出芽)などの抑制であろうと予想されます。
一方で抗体はantibody- dependent enhancement (ADE)と呼ばれる、かえって病原性を高めてしまう作用を示すことがあります。SARS-CoVの場合には、抗体がFc receptorを発現する単球、マクロファージ、B細胞などに作用して、これらの細胞へのウイルスの侵入を促進し、TLR3, TLR7, TLR8などを活性化して炎症や組織障害を惹起することがあり、ADEと呼ばれています。抗体が病原体に対して中和活性を発揮するか、ADEを誘導してしまうかは、どのようなタンパク、エピトープを認識するかなどによって、また誘導される抗体濃度やaffinityによっても異なります。また高齢者にも安全で有効な抗体誘導が可能かも確認が必要です。COVID-19臨床例においては、高タイターの抗体誘導は不良な予後と関係する場合もあること、一方で回復した患者の70%で中和抗体が検出され、持続的に検出されるという報告もあり、どのような抗体がどの程度の量誘導されるかが極めて重要になってきます。
このような観点からは(コストのことを度外視すれば)、著者らが最後に述べているように、ワクチンよりも中和抗体そのもの(生物学的製剤)の方が確実性があるのかもしれません。


Revision TKAにおけるLCCKの長期成績

2020-04-27 16:37:40 | 整形外科・手術
Legacy Constrained Condylar Knee prosthesis (LCCK; Zimmer)は内外反の制動性が強い人工膝関節で、よほど不安定性や破壊が強い膝でなければprimaryに使用することはないのですが、再置換の際には私も好んで使用しています。韓国のEwha Woman’s University Seoul Hospitalから人工膝関節再置換術(reTKA)例におけるLCCKの長期成績についての報告が出ましたので紹介します。
成績評価に用いたのはLCCKを用いてreTKAを行った中で、ある程度長期にフォローできた97患者(114膝)です。平均年齢は65歳で男女比は77:13で男性が86%でした。再置換の理由としてはaseptic loosening 56%, tibial polyethylene wear 21%, infection 11%, instability 7%などが主なものでした。結果は平均19.2年(16ー21年)のフォローアップでKnee Society scoreやWOMAC scoreなどもとても良くて、可動域はまぁまぁですが患者満足度は高いものでした。再々置換は全部で10例で、理由はaseptic loosening 5例、infection 4例(2例が早期、2例が晩期)などでした。Mechanical failureをエンドポイントにするとsurvival rateは96%(95% CI, 84ー100%)、再置換をエンドポイントにすると91%(95% CI, 87ー98%)と大変良好な結果でした。
再々置換になった症例の背景はどうであったか(どのような理由でreTKAになったか)?男性の比率が非常に高い理由はどうしてか?など疑問点はありますが、概ね自分の印象とも合致する結果です。



ヨーロッパ各国の超過死亡は?

2020-04-27 06:29:20 | 新型コロナウイルス(疫学他)
新型コロナウイルスの影響、そしてロックダウンを含めた政策の効果を判断するうえで、今後出てくるであろう超過死亡を見ていくことは重要です。ヨーロッパのデータベースであるEUROMOMOにはヨーロッパ各国の超過死亡が年代別に示されています。厳しい制限をしていないスウェーデンをはじめとして、ほとんどの国で超過死亡は減少傾向にあるにもかかわらず、UK(England)ではまだ減少傾向が見られません。これは当初集団免疫政策をとったためかもしれませんが、ロックダウンをスタートした段階ではそれほどひどくはなかったのですが。。またヨーロッパ全体で見ても14歳以下の超過死亡は実は減少しているというのも興味深いデータです。インフルエンザや他の感染症が低下していることを表しているのかもしれません。
このような一次データをにらみながら次の一手を考えていこうというヨーロッパの科学的な姿勢はすばらしいと思います。しかしこのような状況でもボリス・ジョンソン首相の人気が衰えていないとしたら(実情は知りませんが)、日本の首相とどこが違うのか一考の価値はありそうです。。