van DoremalenらがNEJMにcorrespondenceという形で発表した、エアロゾル中のSARS-CoV-2およびSARS-CoVの感染性や様々な物体(プラスチック、段ボールetc.)の表面上での安定性についての報告(N Engl J Med. 2020 Mar 17. doi: 10.1056/NEJMc2004973)はマスコミがこぞって取り上げるところとなり、わが国においても大きな衝撃を与えました。エアロゾル中に長時間感染性のあるSARS-CoV-2が存在し続ける、プラスチックや段ボールの表面にもウイルスが長時間とどまる、などの情報に多くの人は恐怖を感じました。しかし実はこの報告に対する反論も数多く出されており、下記のcorrespondenceは様々なletterをまとめて掲載したものです。これらを読むと、1つの報告内容をうのみにすることの危険性も見えてきます。例えばvan Doremalenらの研究は「ネブライザーで部屋にウイルス入りエアロゾルをまき散らした」というモデルであり、これが通常診療のエアロゾルとはかけ離れているのではないか、というあたりは皆さんの指摘している問題点です。私もこの研究を根拠に、診療でエアロゾルが発生するような手技(例えば挿管とか吸引)で感染するリスクが非常に高い、とは結論できないと思います。N95マスクも不足している中ですし、このような手技であればサージカルマスクとフェイスガードでも十分なのかもしれません。Letterの中でも引用されているケースレポート(Ng et al., Ann Intern Med. 2020 Mar 16. doi: 10.7326/L20-0175)によると、挿管が必要(しかも困難)だった患者の治療にあたった41名の医療従事者において、サージカルマスク着用者でも感染が生じなかったとのことです。もちろん1例報告なので確実なことは何も言えませんが、実際はこんな感じなのではないでしょうか。なんといってもやはり注意すべきは飛沫感染、接触感染なのだと思います。
”Stability and Viability of SARS-CoV-2”
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2007942