とはずがたり

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アイスランドにおけるCOVID-19の広がりに関する研究

2020-04-15 19:23:21 | 新型コロナウイルス(疫学他)
「アイスランドにおける感染の広がりに関する調査」
アイスランドは人口36万4000人と日本で人口の最も少ない鳥取県(57万人くらい)よりも少なく国際空港も1つしかない国ですが、一人当たりのGDPは$74,515.47(世界6位)と高いレベルを誇る島国です。新型コロナウイルス感染症に関しても、人口密度が低いからかもしれませんが、ヨーロッパの中では良好な経過をとっているようです(4月15日のJohns Hopkins大学のデータでは感染者1720人、死亡者8人)。対策としてはロックダウンのような厳しい政策はとっておらず、海外からの帰国者の自宅待機、多人数の集会の禁止、大学は休学ですが、小学校では授業を継続しているなど、比較的制限は緩やかなものです。この報告ではtargeted testingおよびpopulation screeningという2つのstrategyによってSARS-CoV-2の拡散状態を調べています。またゲノム解析から、ウイルスのオリジンの検索も行っています。
Targeted testing(TS)というのはリスクが高い人、つまりすでに咳嗽、発熱、身体痛、息切れなどの症状がある人、そしてリスクが高い国から帰国した人、感染者と接触した人9199人を対象にPCR検査を行った群。Population screening(PS)群は無症状、あるいは軽い風邪症状(アイスランドではこの時期多い)の人でオンラインでの参加募集に応募した人(3月13日―4月1日)10797人(PS1とします)、20-70歳の国民をランダムに選択し、電話で参加を呼び掛けた人(4月1日―4月4日)2283人を対象にPCR検査を行った群(PS2とします)です。
TS群では調べた9199人中7978人が陰性1221人が陽性で、陽性率は13.3%でした。一方PS群ではPS1では10797人中87人が陽性(陽性率0.8%; 95% CI, 0.6 to 1.0)、PS2では2283人中13人が陽性(0.6%; 95% CI, 0.3 to 0.9)でした。
前半(1月31日―3月15日)のTS群では陽性者の65.0%が海外からの帰国者でしたが、後半(3月16日―4月1日)では15.5%と減少しており、PS群でも同様でした。またTS群における陽性者で感染者との接触があったのは、前半では40.1%、後半では60.2%でしたが、PS群では6.9%のみでした。PCR陽性者におけるCOVID-19症状は、TS群の93%、PS群の57%に見られましたが、PS群の陰性患者でも29%に症状を認めました。またPS群で症状をうったえる割合は後半になるにつれ徐々に低下していました。TS群、PS群の陽性者の年齢は、それぞれ40.3±18.4歳、39.7±18.0歳と有意差はなく、陽性患者の年齢は年齢が高い傾向がありました(とはいえ平均で40代半ばから50歳くらいなので、中央値66歳の日本と比べてずいぶん若いです)。TS群では10歳未満は6.7%が陽性、10歳以上では13.7%が陽性、PS群では10歳未満は0人、10歳以上が0.8%と有意に若年者で少ないことが示されました。性別はTS群(女性11.o% 男性16.7%)、PS群(女性0.6% 男性0.9%)といずれも男性が多いことがわかりました。ウイルスゲノムのhaplotypeとしては様々なものが見られましたが、前半と後半では変化しており、A2a1, A2a2 haplotypeが前半では65.6%、後半では31.9%で、後半ではA1aおよび他の A2a haplotypeが増えていました。
さてこの研究から明らかになったこととして、無症状あるいは軽微な症状のPS群の中での陽性率が前半0.8%、後半0.6%とあまり変化がなかったことで、これは行動制限などの緩やかな対策が有効であった可能性を示していると考えられます。またPS群陽性者においても少なくとも当初は43%で無症状であり、前半後半でPCR陽性の割合は変わらなかったにもかかわらず、TS, PS群ともに後半のほうが症状が軽かったことです。これは他の呼吸器感染症の合併が少なかったためではないかと考察されています。
感染患者の年齢層が異なる、人口密度が異なる、などの違いがあることから、このデータをそのまま日本に当てはめることは難しいかもしれません。ただ無症状の感染例の割合としてはおそらく日本でもこの程度(かもう少し少ない)ではないかと推定されています。また陽性例でも有症状患者の割合が徐々に低下することなどは、今後の医療体制を考える上で重要な示唆を与えてくれるかもしれません。 
Gudbjartsson DF et al., "Spread of SARS-CoV-2 in the Icelandic Population."
N Engl J Med. 2020 Apr 14. 
doi: 10.1056/NEJMoa2006100. [Epub ahead of print]
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2006100?query=featured_home 


大規模サーベイによるCOVID-19早期検出の可能性

2020-04-15 11:58:28 | 新型コロナウイルス(疫学他)
イスラエルはサイエンスのレベルも高く、その取り組みは我々も大いに参考になります。イスラエルで初めてCOVID-19患者が確認されたのは2020年2月21日でした。その後、特定の国からの入国者を14日間自宅待機にしたり(2月21日)、100人以上の集会を制限したり(3月11日)、緊急事態宣言を出したり(3月19日)など、日本に近いようなグレードや時間軸で対策が取られ、4月15日時点で感染者12046人、死者123人(Johns Hopkins大学のデータベースより)と、これまでのところ医療崩壊にもならず比較的良好なコントロールが行われています。とはいえ日本と同様の悩みは抱えており、感染の広がり(クラスター形成)をいかにして早期にとらえるかがその後の感染の広がりを制御するために重要だということはわかっていても、全例にPCRを行うことは現実的ではないので(日本でもいまだにそのような主張するヒトもいますが、イスラエルのガイドラインではCOVID-19の濃厚接触者のみPCRを行うということになっているそうです)、無症状感染者からの広がりを早期に捉えるのは非常に困難です。このNature Medicineのcorrespondenceでは、1分間程度でできる簡単なサーベイで、ある程度感染の早期像を捉えられるのでは?という彼らの取り組みを紹介しています。
質問はオンライン(https://coronaisrael.org/) で回答する形になっており、各人の年齢、性別、居住地、隔離状態、喫煙などの基本情報に加えて、体温(および39度以上の熱発の有無)、悪心嘔吐、筋痛、鼻漏や鼻づまり、倦怠感、息切れ、咳嗽、下痢などを質問します。症状の陽性割合を確定したCOVID-19患者で頻度を調べるとともに、地域ごとに解析して、COVID-19患者がいる地域(プラス地域)、いない地域(マイナス地域)で比較しました。その結果、COVID-19患者がいる地域といない地域では症状の分布が異なることが明らかになりました。具体的には咳嗽や倦怠感など、COVID-19患者でよくみられる症状についてはプラス地域で多く、鼻漏や鼻閉などは逆にプラス地域での頻度が少ないという結果でした。もちろんかなりroughな解析ではありますが、この結果は簡単なサーベイによってある程度感染早期の兆候を捉えることができる可能性を示しています。今後このサーベイ結果を前向きに検討して、〇〇という症状の多い地域では実際に××日後にCOVID-19のアウトブレークがあった、というようなデータがあれば良いなと思います。
また日本で行われているLINEを用いたサーベイなども同様の効果を目的にしており、その結果の詳細な解析が待たれます。
Rossman, H., Keshet, A., Shilo, S. et al. A framework for identifying regional outbreak and spread of COVID-19 from one-minute population-wide surveys. Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0857-9
https://www.nature.com/articles/s41591-020-0857-9