「アイスランドにおける感染の広がりに関する調査」
アイスランドは人口36万4000人と日本で人口の最も少ない鳥取県(57万人くらい)よりも少なく国際空港も1つしかない国ですが、一人当たりのGDPは$74,515.47(世界6位)と高いレベルを誇る島国です。新型コロナウイルス感染症に関しても、人口密度が低いからかもしれませんが、ヨーロッパの中では良好な経過をとっているようです(4月15日のJohns Hopkins大学のデータでは感染者1720人、死亡者8人)。対策としてはロックダウンのような厳しい政策はとっておらず、海外からの帰国者の自宅待機、多人数の集会の禁止、大学は休学ですが、小学校では授業を継続しているなど、比較的制限は緩やかなものです。この報告ではtargeted testingおよびpopulation screeningという2つのstrategyによってSARS-CoV-2の拡散状態を調べています。またゲノム解析から、ウイルスのオリジンの検索も行っています。
Targeted testing(TS)というのはリスクが高い人、つまりすでに咳嗽、発熱、身体痛、息切れなどの症状がある人、そしてリスクが高い国から帰国した人、感染者と接触した人9199人を対象にPCR検査を行った群。Population screening(PS)群は無症状、あるいは軽い風邪症状(アイスランドではこの時期多い)の人でオンラインでの参加募集に応募した人(3月13日―4月1日)10797人(PS1とします)、20-70歳の国民をランダムに選択し、電話で参加を呼び掛けた人(4月1日―4月4日)2283人を対象にPCR検査を行った群(PS2とします)です。
TS群では調べた9199人中7978人が陰性1221人が陽性で、陽性率は13.3%でした。一方PS群ではPS1では10797人中87人が陽性(陽性率0.8%; 95% CI, 0.6 to 1.0)、PS2では2283人中13人が陽性(0.6%; 95% CI, 0.3 to 0.9)でした。
前半(1月31日―3月15日)のTS群では陽性者の65.0%が海外からの帰国者でしたが、後半(3月16日―4月1日)では15.5%と減少しており、PS群でも同様でした。またTS群における陽性者で感染者との接触があったのは、前半では40.1%、後半では60.2%でしたが、PS群では6.9%のみでした。PCR陽性者におけるCOVID-19症状は、TS群の93%、PS群の57%に見られましたが、PS群の陰性患者でも29%に症状を認めました。またPS群で症状をうったえる割合は後半になるにつれ徐々に低下していました。TS群、PS群の陽性者の年齢は、それぞれ40.3±18.4歳、39.7±18.0歳と有意差はなく、陽性患者の年齢は年齢が高い傾向がありました(とはいえ平均で40代半ばから50歳くらいなので、中央値66歳の日本と比べてずいぶん若いです)。TS群では10歳未満は6.7%が陽性、10歳以上では13.7%が陽性、PS群では10歳未満は0人、10歳以上が0.8%と有意に若年者で少ないことが示されました。性別はTS群(女性11.o% 男性16.7%)、PS群(女性0.6% 男性0.9%)といずれも男性が多いことがわかりました。ウイルスゲノムのhaplotypeとしては様々なものが見られましたが、前半と後半では変化しており、A2a1, A2a2 haplotypeが前半では65.6%、後半では31.9%で、後半ではA1aおよび他の A2a haplotypeが増えていました。
さてこの研究から明らかになったこととして、無症状あるいは軽微な症状のPS群の中での陽性率が前半0.8%、後半0.6%とあまり変化がなかったことで、これは行動制限などの緩やかな対策が有効であった可能性を示していると考えられます。またPS群陽性者においても少なくとも当初は43%で無症状であり、前半後半でPCR陽性の割合は変わらなかったにもかかわらず、TS, PS群ともに後半のほうが症状が軽かったことです。これは他の呼吸器感染症の合併が少なかったためではないかと考察されています。
感染患者の年齢層が異なる、人口密度が異なる、などの違いがあることから、このデータをそのまま日本に当てはめることは難しいかもしれません。ただ無症状の感染例の割合としてはおそらく日本でもこの程度(かもう少し少ない)ではないかと推定されています。また陽性例でも有症状患者の割合が徐々に低下することなどは、今後の医療体制を考える上で重要な示唆を与えてくれるかもしれません。
アイスランドは人口36万4000人と日本で人口の最も少ない鳥取県(57万人くらい)よりも少なく国際空港も1つしかない国ですが、一人当たりのGDPは$74,515.47(世界6位)と高いレベルを誇る島国です。新型コロナウイルス感染症に関しても、人口密度が低いからかもしれませんが、ヨーロッパの中では良好な経過をとっているようです(4月15日のJohns Hopkins大学のデータでは感染者1720人、死亡者8人)。対策としてはロックダウンのような厳しい政策はとっておらず、海外からの帰国者の自宅待機、多人数の集会の禁止、大学は休学ですが、小学校では授業を継続しているなど、比較的制限は緩やかなものです。この報告ではtargeted testingおよびpopulation screeningという2つのstrategyによってSARS-CoV-2の拡散状態を調べています。またゲノム解析から、ウイルスのオリジンの検索も行っています。
Targeted testing(TS)というのはリスクが高い人、つまりすでに咳嗽、発熱、身体痛、息切れなどの症状がある人、そしてリスクが高い国から帰国した人、感染者と接触した人9199人を対象にPCR検査を行った群。Population screening(PS)群は無症状、あるいは軽い風邪症状(アイスランドではこの時期多い)の人でオンラインでの参加募集に応募した人(3月13日―4月1日)10797人(PS1とします)、20-70歳の国民をランダムに選択し、電話で参加を呼び掛けた人(4月1日―4月4日)2283人を対象にPCR検査を行った群(PS2とします)です。
TS群では調べた9199人中7978人が陰性1221人が陽性で、陽性率は13.3%でした。一方PS群ではPS1では10797人中87人が陽性(陽性率0.8%; 95% CI, 0.6 to 1.0)、PS2では2283人中13人が陽性(0.6%; 95% CI, 0.3 to 0.9)でした。
前半(1月31日―3月15日)のTS群では陽性者の65.0%が海外からの帰国者でしたが、後半(3月16日―4月1日)では15.5%と減少しており、PS群でも同様でした。またTS群における陽性者で感染者との接触があったのは、前半では40.1%、後半では60.2%でしたが、PS群では6.9%のみでした。PCR陽性者におけるCOVID-19症状は、TS群の93%、PS群の57%に見られましたが、PS群の陰性患者でも29%に症状を認めました。またPS群で症状をうったえる割合は後半になるにつれ徐々に低下していました。TS群、PS群の陽性者の年齢は、それぞれ40.3±18.4歳、39.7±18.0歳と有意差はなく、陽性患者の年齢は年齢が高い傾向がありました(とはいえ平均で40代半ばから50歳くらいなので、中央値66歳の日本と比べてずいぶん若いです)。TS群では10歳未満は6.7%が陽性、10歳以上では13.7%が陽性、PS群では10歳未満は0人、10歳以上が0.8%と有意に若年者で少ないことが示されました。性別はTS群(女性11.o% 男性16.7%)、PS群(女性0.6% 男性0.9%)といずれも男性が多いことがわかりました。ウイルスゲノムのhaplotypeとしては様々なものが見られましたが、前半と後半では変化しており、A2a1, A2a2 haplotypeが前半では65.6%、後半では31.9%で、後半ではA1aおよび他の A2a haplotypeが増えていました。
さてこの研究から明らかになったこととして、無症状あるいは軽微な症状のPS群の中での陽性率が前半0.8%、後半0.6%とあまり変化がなかったことで、これは行動制限などの緩やかな対策が有効であった可能性を示していると考えられます。またPS群陽性者においても少なくとも当初は43%で無症状であり、前半後半でPCR陽性の割合は変わらなかったにもかかわらず、TS, PS群ともに後半のほうが症状が軽かったことです。これは他の呼吸器感染症の合併が少なかったためではないかと考察されています。
感染患者の年齢層が異なる、人口密度が異なる、などの違いがあることから、このデータをそのまま日本に当てはめることは難しいかもしれません。ただ無症状の感染例の割合としてはおそらく日本でもこの程度(かもう少し少ない)ではないかと推定されています。また陽性例でも有症状患者の割合が徐々に低下することなどは、今後の医療体制を考える上で重要な示唆を与えてくれるかもしれません。
Gudbjartsson DF et al., "Spread of SARS-CoV-2 in the Icelandic Population."
N Engl J Med. 2020 Apr 14.
doi: 10.1056/NEJMoa2006100. [Epub ahead of print]
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2006100?query=featured_home