とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

ロックダウンの先にあるもの

2020-04-09 15:29:37 | 新型コロナウイルス(疫学他)
 SARS-CoV-2感染症終息のため、ヨーロッパの多くの国ではロックダウン(都市封鎖)という極端な政策を採用して、(徐々に)感染者数が減少しているので有用であった、と主張しているのですが、それではこのような隔離をどのように緩めていくのかについて、はっきりした指針が示されているわけではありません。中国の武漢市ではロックダウンが解除されたようですが、今後再燃というリスクは十分にありますし、外部にいる多数の非感染者に無症状感染者が接触しても大丈夫、という保証は全くないわけです。このeditorialの著者は、このような事態を避けるためには、①優れた抗体検査の開発、そして②繰り返し(容易に)可能なPCR検査法の開発が必要としています。しかしながら、イギリスの調査で、これまでに調べた10をこえる抗体検査キットは、いずれも十分な感度・特異度を満たしていないということが分かっています。また一般の人々がPCRに使用するRNA検体をきちんと採取できるとも思えません。それではこれらの国では良い検査法が出てくるまでロックダウンを延々と続けるのでしょうか?ロックダウンが長期間続いたときに人々の暮らしは大丈夫なのでしょうか?私はおそらくどこかの時点で「もうこれ以上無理。多少の犠牲は仕方ない」と諦めて隔離を解除しなければいけない時が来るような気がします。そのタイミングが極めて難しい。ロックダウンはスタートよりもフィニッシュが難しいのです。
 さてこのeditorialに掲載されたグラフは色々な意味で大変興味深いです。10日間の死亡者をx軸、感染者数をy軸にした対数グラフですが、スペイン、イタリア、フランス、イギリスの傾きが驚くほど一致しています。つまり感染者の増加と死亡者の増加割合がほぼ一定です(これを見るとロックダウンの効果が出ている、とはお世辞にも言えないように思えます)。中国は説明困難な経緯ですが、武漢とそれ以外の違いを示しているのかもしれません。イランは一時期死亡者の割合が急速に高まっていましたが、最近は落ち着いているように見えます。韓国では3月はじめまでは欧州に近い推移でしたが、それ以降感染者も死亡者も急速に減少しています。日本は感染者の増加と比較して死亡者の増加が極めて少ないことが分かります。死亡者を隠蔽している、という陰謀論は考えないとすると、一部でクソミソに言われている日本の政策は決して悪くないように思えます。もちろんこのような良好な成績は医療関係の方々のみならず、クラスター対策班など対策にあたっておられる方々の不眠不休の努力、そして言われたこと(手洗いなど)はきちんとやるという国民性があったからこそと思います(一部例外はあるとしても)。
 基本的に私は緊急事態宣言を出すこと自体に反対だったのですが、政府から緊急事態宣言が出された後も「対応が甘すぎる。徹底的なロックダウンをしないと日本が破滅する」と主張される方々は、①いつ何を根拠にロックダウンをやめるのでしょうか?②ロックダウンの損失に見合うだけの成果が出せる証拠はあるのでしょうか?③これまで緩やかな規制でこれだけ死亡数が少なかった事実をどう考えるのでしょうか?という点に答えていただきたいです。目先の恐怖におびえて、長期的な視野を失っているのではないでしょうか?