とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

変形性膝関節症に対してゾレドロン酸の有効性は示せなかった

2020-04-22 17:49:30 | 変形性関節症・軟骨
変形性関節症(osteoarthritis, OA)に対する薬物療法としては対症的な効果を期待するものがほとんどであり、最近出されたOARSIのガイドラインでも、推奨されているのは貼付薬も含めてnon-selective NSAIDsやCOX2 inhibitorだけだったりします。ビスホスホネートは極めて良好な有効性を示す代表的な骨粗鬆症治療薬ですが、以前から動物実験レベルではOAに対する有効性が報告されていました(Hayami et al., Arthritis Rheum. 2004 Apr;50(4):1193-206など)。しかしこれまでのところ臨床的な有効性に関してはcontroversialであり、Vaysbrotらによる7つのRCTのmeta-analysisでは、変形性膝関節症(Knee OA)の疼痛や単純XPにおける進行にはビスホスホネートは無効という結果でしたが「骨代謝回転が亢進しているbone marrow lesion(BML)を有するような症例については有効かもね~エヘッ(*´∀`*)」と述べています(Vaysbrot et al., Osteoarthritis Cartilage. 2018 Feb;26(2):154-164)。実際にビスホスホネートの中でも最も強い作用を有するZoledronic acid(ZA)を用いたパイロット試験ではKnee OA患者の疼痛やBMLのサイズ減少に有効という結果が報告されています(Laslett et al., Ann Rheum Dis. 2012 Aug;71(8):1322-8)。このような結果を受けて、この研究(Zoledronic Acid for Osteoarthritis Knee Pain [ZAP2] study)では24カ月のdouble blind RCTによってZAのKnee OA患者に対する効果が検討されました。
対象は症状のあるKnee OA患者でMRIにおいてBMLが確認された患者です。ZA 5 mg iv/yearおよびplacebo群に1:1で割り付けて、24カ月後のMRIで定量した軟骨量の変化をprimary outcome、BMLサイズの変化、VASおよびWOMACにおける膝痛の変化をsecondary outcomeとしました。参加者の平均年齢は62.0歳(SD, 8.0歳)で52%が女性でした。ZA群に113例、placebo群に110例が割り付けられ、それぞれ113例、110例がITT解析、88例、99例がper-protocol解析の対象となりました。結果としては関節軟骨の減少量はZA群 878 mm3, placebo群919 mm3で、群間差 41 mm3 [95% CI, −79 to 161 mm3](P = 0.50)と有意差はありませんでした。またsecondary outcomeについてもVASで示した膝痛(ZA群−11.5 vs placebo群−16.8 群間の差は5.2 [95%CI,−2.3 to 12.8](P = 0.17)、WOMAC knee pain scoreも有意差はありませんでした。24か月後のBMLのサイズはZA群 −33 mm2 vs placebo群 −6 mm2 群間差 −27 mm2 [95%CI, −127 to 73 mm2]( P = 0.60)とやはり有意差はありませんでした。
予定されたサンプルサイズに到達できなかった、1例のplacebo患者がZA投与を受けてしまった、baselineのWOMACスコアが2群で差があった、追跡不能患者がZA群20%、placebo群9%と差があったなどのlimitationはありますが、ビスホスホネートのKnee OA治療薬としての有効性にはあまり期待できないかな~(泣)という印象を持ちました。

神経前駆細胞による脊髄損傷改善のメカニズム

2020-04-22 12:05:24 | 神経科学・脳科学
皮質脊髄路あるいは錐体路(corticospinal tract, CST)は人の能動的な運動に重要であり、脊髄損傷が治癒しない大きな原因はCSTが再生しないことです。遺伝子操作や再生医療によって脊髄損傷を回復させようという試みは古くよりたくさん報告されており、日本では慶應大学グループの研究が有名です。PtenやSocs3遺伝子のノックアウトによって損傷したCST神経の再生が促進されるという報告もありますし、自家神経幹細胞(neural stem cell, NST)や神経前駆細胞(neural progenitor cells, NPC)移植による再生促進の報告もあり、著者らはNPC移植によりCSTを構成する軸索の顕著な再生が認められることを報告しています(Kadoya et al., Nat. Med. 22, 479–487, 2016)。しかし細胞移植によるCST再生のメカニズムはあまり明らかになっていません。この論文で著者らはNPC移植がCST再生を促すメカニズムを検討しました。
大脳皮質第5層の皮質投射細胞においてeGFPを発現するGlt25d2-eGFP-L10aマウスを用い、成体マウスC5の背側カラム損傷を起こした1週間後にeGFPを発現する胎生12日マウスの脊髄由来NPCを損傷部位に移植しました。脊髄の回復過程は “pre-regenerative” stage, “early regenerative” stage, “late regenerative” stageの3段階に区分することが可能であり、徐々にCST構成軸索が移植したNPCに侵入していく様子が観察されました。この時Glt25d2-eGFP-L10aマウスからCST神経細胞を分離して遺伝子発現を調べました。損傷部にcholera toxin Bを注射して逆行性ラベリングを行った結果、約50%の第5層神経細胞が再生に関与していることが示されました。RNA-seqの結果、軸索再生に伴い、これらの細胞では神経損傷シグナル(neuronal injury signal)の誘導が生じることがわかりました。Gene Ontology analysisでは”stem-cell-like gene families”, “activation of proliferation-, differentiation-, and cell-cycle-progression-related functions”に関係した遺伝子の発現上昇が移植群、非移植群両者でみられ、この中には神経分化に関与することが報告されているSox2やAscl1遺伝子も含まれました。移植群の場合にはこれらの遺伝子発現が損傷後21日を超えても持続するのに対して、非移植群では発現が低下していくことがわかりました。発現遺伝子の中には以前から神経再生に関与することが知られていた遺伝子も多く含まれましたが、興味深いことに、これまで軸索再生などとの関係が知られていなかった遺伝子も見つかってきました。中でもhuntingtin gene (Htt)が制御するnetworkが極めて重要なhubの役割を果たすことも明らかになりました。Httはハンチントン舞踏病の原因遺伝子ですが、ノックアウトマウスは胎生早期に死亡します。Httの生理的な役割は明らかになっていませんが、Creb1やTP53の発現制御やBDNF産生、NFkappaB発現、軸索輸送に関与する可能性が指摘されています。著者らは運動中枢においてHttを欠損したマウスを作成し、このマウスではNPCによるCST再生誘導が60%低下していることが明らかになりました。以上の結果より、NPCの役割はCST構成軸索再生信号の持続的な活性化であり、少なくとも一部にはHttに関係したシグナルが関与している可能性が示されました。現在様々な方法で脊髄損傷治療の可能性が模索されています。日本からは札幌医科大学の間葉系幹細胞移植が臨床応用されています。その作用機序もいまだ明らかにはなっていませんが、HTTの持続的な発現誘導が関与している可能性もあるかと期待されます。
Poplawski et al., Nature https://doi.org/10.1038/s41586-020-2200-5