とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

どうして無限に食べられないか?

2020-04-13 13:17:22 | 神経科学・脳科学
 台湾の方は大変親日的で、私も台湾に行くたびに体重が〇〇kg増えるくらいご馳走になるのですが、申し訳ないとは思いつつ、ある程度満腹になるとそれ以上は食べられなくなります。無限の食欲を誇るギャル曽根さんのような方もいますし、「ケーキは別腹です!」というようなことをおっしゃる方もいますが、基本的にヒトは、「いくらでも食べてください!」と言われても無限には食べられません。この理由として、食事による血糖値↑→インスリンの分泌↑→レプチン分泌↑→食欲中枢に働き食欲↓というような神経内分泌的なメカニズムも明らかになっていますが、それでは血糖値が上がらないコンニャクだったら永遠に食べられるか、というとそういう訳ではありません。水だって無限には飲めないし。ビールは??
 古くより消化管の膨満が迷走神経や脊髄の求心性線維を介して摂食や飲水を抑制することが分かっていました。消化管にはその感覚を延髄弧束核(nucleus of the solitary tract, NTS)に伝達する求心線維が豊富に存在します。脊髄の側副路とともにNTSは結合腕傍核(parabrachial nucleus)に投射し、ここから神経は前脳や中脳に広く神経を伸ばして摂食や飲水を制御しています。この論文は、消化管に対するメカニカルストレス信号が中枢に信号を伝達する過程における結合腕傍核に存在するprodynorphin発現神経細胞(PB(Pdyn) neurons)の役割を検討したものです。
(結果)
 FOSタンパクの免疫染色によって神経活性化を調べたところ、マウスにおける飲水刺激はPBPdyn neuronの急速な一時的活性化を誘導しました。このようなPB(Pdyn) neuronの活性化は、飲水だけではなく、舌の針刺激、食道の針刺激、バルーンによる胃膨満によっても誘導されました。またバルーン膨張においてはバルーンの大きさ依存的に、より多くのneuronのより強い活性化が見られました。一方で十二指腸、小腸の刺激ではそのような活性化は見られず、PB(Pdyn) neuron活性化は液体の味や浸透圧には影響されず、一般的な運動や不安感などによっても変化しませんでした。胃膨満にともなうPB(Pdyn) neuronの活性化は迷走神経依存的であり、脊髄を介する経路は関与しませんでした。
 化学物質やoptogeneticな手法でPB(Pdyn) neuronを刺激すると、マウスの摂食・飲水開始を抑制することでこれらの行動は抑制されました。一方PB(Pdyn)を化学物質で抑制しても、通常の状態では過剰な飲水は見られず、PB(Pdyn) neuronは摂食・飲水のnegative feedbackを制御していると考えられました。PB(Pdyn) neuronは脳の多くの部分に投射していますが、中でも視床下部の室傍核への投射が重要と考えられました。
 上部消化管へのメカニカルな刺激がnegative feedbackを誘導するという知見は大変興味深いものです。このようなメカニズムは他の臓器にも存在するのではないでしょうか?例えばランニングに伴う側腹部痛なんていうのはどうでしょう?